December 27, 2012

DECEMBER'S CHILDREN @ 日本武道館

 武道館へは寒い時期に足を運ぶことが多い。今日も冬の青空の下、葉の落ちた枝々のアーチを見上げながら進む。そして写真を撮ってしまう。


 着込んで行ったお陰かそれほど寒くなく、コート脱いでおけるくらい。とはいえ着たままの人も多かった。やはり防寒を怠るべからず冬の武道館。
 14時開演、21時終演の長丁場。16時頃着いたら客入り7割くらい。各バンド30~40分くらい演奏して転換を繰り返す、ちょっとしたフェスの様相。
 どのバンドも容赦なくやりたい放題で、とても楽しかった。


■ドレスコーズ
 初見。舞台で演じる虚飾の空と華、その境を酩酊するようにふらふら千鳥足なボーカルが印象的。彼なりの美学に依っているんだろうと思った。取り憑かれているようでもあった。楽しそうなのが幸い。昨今、しかも男性では珍しい路線。
 凄まじい女のドラムに釘付けになっていて、今調べたら男だった。びっくり。動物が駆け回ってるみたいな勢いが面白かった。
 《テレビなんかより戦争がしたい》って叫んでいたボーカルは、最後客席に投げチュー振りまいて去って行った。最初から最後まで演技派。目の前で観られて良かった。


 転換中、緞帳の奥からリハ中のドラムがずっしり響いてくる。次、ピエールだ!

■ピエール中野
 やりたいことをやりたいだけやって帰って行った!
 セットリスト、ご本人のツイートより。

【ピエール中野武道館】攻殻機動隊OP→ドラムソロ→レーザービーム×即興ドラム→MUCCミヤさんセッション→MC「ライブハウス武道館へようこそ!ここは東京だぜ!」→DJ:Mステ→A・RA・SHI(歌入りに合わせて熱唱)→BABYMETALヘドバンギャー→Xジャンプ→エンドレスレイン

— ピエール中野 凛として時雨のドラム (@Pinakano) December 28, 2012

 ドラム久々に聴いたら圧巻。音が重たいのに回る回る回る。当たり前みたいに享受していたピエールの演奏、すごく贅沢だったんだなと思う。
 DJピエール初見。12/21初出演したMステテーマ曲に合わせて四方八方にお辞儀。既に会場爆笑! Perfumeのタオルで汗を拭う姿もブレない。そして武道館に響き渡るA・RA・SHI! A・RA・SHI! For Dreaaaaam! サビで手のフリご一緒に! 何のイベントだっけ?ってな疑問も吹っ飛ばす! 客席一面、仕込まれたかのように完璧だったのは今思えば何だったのか。最後のバラードぽいところ、ソロでしっとり歌い上げ……るはずが、本人耐え切れず噴いてて笑った。新たなるPierre's moment。
 「今一番気になる人達」との呼び込みでBABYMETAL登場、1曲「ヘドバン! ヘドバン!」歌って踊って「See you☆ミ」って去って行った。ピエール、脇で踊ったりヘドバンしたり、ただのファンと化す。ドラム叩かんのかい! 割と大人しくなった会場に「びっくりした? びっくりした?」って話し掛けてきてまた笑った。気さくだな。
 最後Xジャンプで武道館が揺れる! 楽しかった! また時雨でMC聞きたい。


■ギターウルフ
 初見。バンド名の通りロックンロール然としていた。演奏しても水飲んでも水自分に浴びせてもロックンロール。
 迫力あって格好良いのに、なぜかフロアと温度差があった。赤と青のポケモンフラッシュ的なストロボ、インパクトは強いけれど、時雨なら使わないだろうと思う。同じスリーピースの攻撃的なロックでも、これほど違った実を結び得ることを実感。


■TK from 凛として時雨
 初見。上手からドラムスBOBO、キーボード、ギタボTK、バイオリン、ベースひなっちの布陣。TKが中央にいるのが新鮮。
 始まって早々、体がざわりとした。TKの音は明らかに他と違う感覚をくれる。
 NCISのひなっちは跳ねて煽って楽しさが溢れるようなスタイルだけど、今日はTK仕様で緊張感あり。BOBO氏とふたり、安定した強力なリズム隊。バイオリンとキーボードが音源の質を超えるのは、多分楽器の特性で、難しいのだろうと感じる。アコースティックセットで聴いてみたい。
 何よりもfilm A moment、圧巻。《時間を止めて》とそれに続く数秒の無音のことは、これからもずっとフィルムされているだろうと思う。存在がなくなって、一番欲しいものを掴めそうになる。だから《手に入れた世界は》と続く。今まで見たライブパフォーマンスの中でも、特別印象に残っている。まだうまく言葉にできない。
 時雨の照明チーム、相変わらずエクセレント! flowerの黄と紫、予想外だけどよく似合っていた。fAmは《時間を止めて》が青、ウィスパーの《手に入れた世界》が赤、《なにも感じないよ》の絶叫が白。最後は青に包まれて終わり。タイミング完璧。
 終わって席に着いても余韻がすごかった。紫色の照明の中、ピアノ曲(新曲?)が流れて、スタッフがセットを片付けていく。解体もショウの一部。《kill the moment》だなあとぼんやり思いながら、バラバラになっていく様から目を離せずにいた。

●1. haze 2. flower 3. 12th laser 4. phase to phrase 5. Abnormal trick 6. 新曲(Fantastic magic) 7. film A moment


■9mm Parabellum Bullet
 3度目の9mm、とても好きだった。アウェイ寄りの場だと闘う弾丸感がより際立つ。時雨と9mmのファンは被っていると思いきや、今日は半々くらいに見えた。
 初めて見えたドラム、両手でスティック回しまくっていた。曲芸か! と思ったらギターも相変わらず檻から放たれた何か的な動きをしているし、ベースもギタボもやりたい放題だし、束の間ライブなのかサーカスなのか判らなくなる。無敵のパフォーマンス。
 目を奪われるばかりで演奏をあまり覚えていない。何かの曲で彼らに初めて静を見たのが印象的。水中みたいな青い照明、きれいだった。
 感覚的なギタボMC健在:「俗に言うTKばさみというポジションなので、生粋の人[TKファン]からしてみれば僕ら夢か?みたいになっちゃうので気合い入れてやります」。TKばさみになったのが9mmで良かった。とても楽しいブリッジだったよ。


■凛として時雨
 待ちに待った1年ぶりの時雨。こちらも体をざわざわさせてくれる最高のライブ! やっぱり特別なバンド。けれど期待が大き過ぎて、7曲では物足りなかった。アナウンスされた6月のワンマンが楽しみ過ぎる。
 容赦ない攻めのセットリスト。その中でillusion is mineから始まるのはさすが。一気に時雨の色になる。一番聴きたかったnakano kill you、最後にやってくれた! TK最後傍観かと思うくらいギター弾き狂って舞台を後にした。めちゃめちゃテンション上がり、そのまま最高潮で放り出されて終演。サディスティックなところも変わらず。

●1. illusion is mine 2. I was music 3. DISCO FLIGHT 4. abnormalize 5. JPOP Xfile 6. Telecastic fake show 7. nakano kill you

●MC
(TK、舞台袖を見たりメンバーを見たり、きょろきょろ)
客「?(笑)」
TK「ひとつ、ニュースがあります。6月、6月……(メンバーを見る)」
345・ピ「「にじゅうはち! にじゅうはち!」」
TK「6月28日に、ここでライブをやります」
客「「「うわあああああー!!!」」」

December 13, 2012

実施中!!!第一回胞子拡散祭 @ 渋谷CLUB QUATTRO

 胞子まみれの体のレントゲン図 2/2!!!

■松本素生とOKEGAWA'S(GOING UNDER GROUND)
 初見。懐の広い、優しいバンド。俯いた顔を覗き込んで前を向かせてくれるような。むしろgoing over the rainbowなテンション。松本さん登場した時点で安心できる人だなって直観があり、その通りの場になった。ライブで、しかも初見では珍しい感覚。
 ピープル好きだって話が嬉しい。元々松本さんソロで出演予定→メンバーに話す→メンバー「ピープル好きだから観に行く!」「俺も!」→だったらバンドで出演しよう!となったとか。素敵。
 長いキャリアの賜物か、安定感ある演奏。メロディーをシンガロングさせて客を巻き込んでいく手並みは鮮やか。そこに嫌味や外連味が少しもないから寄り掛かれる。新鮮な出会いが嬉しく、とても楽しいひと時だった。

■People In The Box
 何度も言ってる気がするけれど、広い舞台で大勢の観客を前に演奏するピープルが好きだ。かけがえのない、とても美しい光景。何だろう。沢山の人に受け入れられていることが実感できて嬉しいのかな。他にはない感覚。
 対バンツアーセミファイナル、すばらしかった。特にボーカル。「時計回りの人々」「サイレン」「月曜日消失」今日心を掴まれた曲はみんな、ボーカルの訴えが強く響いた。体調は万全ではなさそうだったけれど、気力で高音を出しているように感じた。その気迫に打たれる。ニムロッド辺りから(ということは多分3.11以後)、「透明感のある少年声」に明らかな気迫が加わり出した気がしていて、それはベースのアグレッシブさと互いに呼応しているようで、バンドの面白い変化のひとつだと感じる。
 ギターはジャガーさんに戻って若い音が鳴っていた。今日は初期曲が多いからよく嵌っていた。《不服だ 死を叫ぼう》から《メメント モリ》を経て《きみの孤独が 世界を救うかもしれない》、同じ日に全部聴けて感慨深い。予定外で急遽演奏してくれたダブルアンコール「ダンス、ダンス、ダンス」これ以上ない選曲だったと思う。そして今後のピープルが本当に楽しみ。

 GOING松本さん「ピープルを聴きに来るお客さんは素晴らしい」を受けて波多野さん「あれを聞いて一番嬉しかったのは僕です」、客としてはこれがまた嬉しかった。
 対バンだとピープルが「何でないか」をよく考える。ワンマンが材料を重ねていく加点式だとしたら、対バンは彫刻みたいに削って浮き彫りになっていくのが面白い。胞子拡散くん、また気が向いたら街にパンデミック起こしに来てね!
 そんな2012年ピープル納め。今年も本当に本当にありがとう。

もともと本人も不確か曖昧な内実だからなのか、音符やリズムという入れ物に入れて、それは外気から守るためなのか、はたまた鮮度を保つためなのか理由は解らないとしても、とにかく胞子のようなそれらをもってして他者に届ける。すると受け取ったその人の中で胞子が開く。開き方はその人なりの解釈によって様々。そんなイメージだ。People In The Boxの音楽によく似ていると個人的には思っています。
- MMMatsumoto「愛すべき開かれない音楽家たちへ」(MARQUEE Vol. 88, 9 Dec 2011)より


●セットリスト
01. ニムロッド
02. アメリカ
03. 火曜日 / 空室
04. みんな春を売った
05. 時計回りの人々
06. 球体
07. サイレン
08. 月曜日消失
09. 市民
10. スルツェイ
11. 鍵盤のない、

EN.
01. 東京
02. 旧市街

EN-2.
ダンス、ダンス、ダンス

December 6, 2012

実施中!!!第一回胞子拡散祭 @ 高崎 club FLEEZ

 胞子まみれの体のレントゲン図 1/2!!!

■a flood of circle
 初見。社会に反逆するスタンス取りつつ一体感大事にして盛り上がる、J-ROCKスタンダードな印象。チョモに近い気がした。それより少し泥くさく、最後ボーカルの「ロックンロオオオオル!!!」って叫びに巻き込まれて「YEEEEEEEAH!!!」と返したくなるfloodingness。バンド名大文字の方が似合いそう。
 MC「選ばれし胞子、A flood of circleです!」笑った。aを強調するんだね。

■People In The Box
 2ヵ月ぶり。半分は知っているピープル、もう半分は知らないピープルで目を見張る。代謝の良いバンド。健康だ。メンバーも健康であれ!
 最近「強いメッセージを持ったバンド」と自己紹介しているようで、今日のライブはまさにそうだった。聴き手に響かせるよう、音のひとつひとつに魂が込められていた。変わったなと、たかだか2年前と比べてだけど、思う。以前は彼らの箱の中に入れてもらってそこで展開される物語を眺めていた。今は彼らの方からこちらに向かってきて同じ地平で訴える。言葉だけでなく楽器もそうだ。声もベースもドラムスもギターも、全ての音が強いメッセージだった。ひたむきな胞子たち。
 変わらないのは何だろうと考えてみると、音の楽しさであり必要であり信頼であり、その諸々が同じ場に在る確かさに繋がることであり。つまりは好きってことだ!

 ハタノMC、afocは拳で顔を殴る、ピープルは内側からウイルスのように攻める、との喩えが言い得て妙。「ウイルスのように攻撃を続けさせていただきます」からの「木曜日 / 寝室」は本日(木曜日!)の白眉。
 攻撃の仕方が違えば受け止め方も違う。よくJ-ROCKのライブでは一体感が命!な空気を感じるけれど、ピープルを観に来る人はむしろ自分なりの受容を大切にしている気がする(そして個々の差異を尊重する)。人によってこんなに受容の違うポップスそうそうない。久しぶりに観るせいか、そんなことを考えたり。
 不思議だったのは、今日諦めるか迷うくらい体調良くなかったのに、彼らの演奏中は何ともなかったこと。脳に作用するウイルスこわい。あるいは胞子パワーか。

 以下セットリストとメモ。

01. アメリカ
 意外な幕開け。FRと今は断絶している訳ではないと主張するような。
02. 完璧な庭
 ライブ定番曲なのに初めて出会う気がした。ドラムの一打一打に込められた魂にふるえる。こんなバンドだったっけ?→新しいピープルだ!と思う。とても良い意味で。
03. 市民
 相変わらず激烈に格好良い。観た位置のせいか、今日全体的にボーカルの音量が強い気はした。
04. ダンス、ダンス、ダンス
 《森を突き抜けて~》の後、じわじわクレッシェンド。珍しく作為的に感じる。
05. 時計回りの人々
 《きみは壊れていないのに》語尾少し高いキーにアレンジしていた。AMでいちばん解りやすくがつんと来た一節。堪らない気持ちになる。
06. 球体
 ベースのアグレッシブさがどんどん増していく。大歓迎。
07. 木曜日 / 寝室
 ギターのふわりとしたディストーション、夢の重たさに呑まれる。
08. 月曜日消失
 スネアのロールで始まってギターが静かに忍び込むじわじわ感、「月曜日 / 無菌室」?と思いきや消失で、とても久しぶりで、二重にびっくり。いつも端々のイントロの遊びが楽しい人たち。アウトロのバリエーションも増えたらきっともっと楽しい。
09. スルツェイ
 何もかも生命に溢れていて逃げ場がない。3人のバランスが黄金比な曲のひとつ。
10. 天使の胃袋
 LosT以降、エレクトリック版もぐんと好きになった。疾走感!
11. 旧市街
 CSツアーファイナル以後、いつも加藤さんのアニメーションを思い出しながら聴いている。《青空少しだけおかしくなったよ》でミラーボールが不穏な水玉模様をそこら中に散らして踊っていた。これも黄金比の曲。

EN.
01. 東京
 久しぶり! FRツアー以来? 《恋に堕ちた》の後、音が弾けて世界にぶわっと色が付いて活動を始める感覚に鳥肌。アンコールでこんな、こんな……!
02. ニムロッド
 ベースの熱量! みんなすばらしいけれど、最近特にベースが熱い。年明けのツアーが本当に楽しみだ。

November 27, 2012

クリスチャン・ツィメルマン @ 川口総合文化センター リリア メインホール

 2年半前、初めて聴いたツィメルマンの衝撃といったらなかった。手が痛いのも気にならず全力で拍手した。柄にもなく生まれてきて良かったと思った。全てショパンで構成されたプログラム、音の全てが幸福で。素晴らしいコンサートは数あれど、未だあの日を超える音には出会っていない。
 本日前半は今年生誕150年のドビュッシー、後半はシマノフスキとショパン。半年前のアナウンスでは全てドビュッシー(12のエチュード全曲)だったが、1ヵ月前にプログラム変更のメールが来た。プログラムに書かれていた彼の言葉「自分が正直に演奏したい曲目で構成したい」。そうあってほしいし、そうしてくれて本当に嬉しい。

 1曲目「パゴダ」始まって1分と経たず泣いた。なぜかを説明するのは本当に難しい。まさかパゴダで泣くとは自分でも思わなくてびっくりした。まだ全然まとまっていない。今回の公演あと2回行くから少しずつ捉えたい。
 とにかく至上の音。ピアノがあんな音を出すなんて知らなかった。特に「沈める寺」圧巻。ロック。他の曲もピアニシモからフォルティシモまで、不協和音の重なりも最後の一音の残響さえ、何もかも格が違っていた。
 ピアノに鳴るのを任せているようだった。鍵盤を打って距離を取るように指を離し、音が鳴るのを見つめている姿が印象的。それは数秒にも満たないことで、すぐ次の打鍵に移る。何度もそんな場面が現れ、ああピアノに委ねているんだなと思う。ピアノが主体。何だか当たり前のことを言っている気がしてきたけれど、そうして演奏するピアニストは寡聞にしてあまり知らない。

 ピアノの巨匠は誰しもおちゃめである。今日は特に前半咳をしている人が多く、ツィメルマン自身がパゴダやグラナダの夕べの後に咳をして会場を見たのは、気にしないで、という優しさのように映った。ショパンのピアノソナタ、1楽章終わってそこそこ飛んだ拍手に軽く礼をして応えてくれ、2楽章の終わりで、あれ、拍手は?という風に客席へ目をやってみたり(客席笑って少し拍手)。アンコールこそなかったけれど、最後は客席の大きな拍手を両腕広げて受け止める仕草。そのひとつひとつがやさしい。

 全部で12回の日本公演。あと2回、Aプロ→Bプロと見る予定。本当に楽しみ。

●プログラムB
ドビュッシー:版画より
 1.パゴダ 2.グラナダの夕べ 3.雨の庭
ドビュッシー:前奏曲集 第1集より
 2.帆 12.吟遊詩人 6.雪の上の足跡 8.亜麻色の髪の乙女
 10.沈める寺  7.西風の見たもの
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シマノフスキ:3つの前奏曲(「9つの前奏曲 作品1」より)
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58

November 25, 2012

青葉市子独奏会 @ 自由学園 明日館 講堂

 西池袋、ホテルメトロポリタンの裏手は住宅街。その一角に佇む建物は、時の流れから独立して呼吸しているような静けさと存在感をまとう。今日の歌い手によく似合うと思った。
 独奏会ひと区切り。ソールドアウトしており満員の講堂。長椅子に腰掛けて聴くのでパーソナルスペースは充分。目線が同じだったVACANTと違って、高い舞台から見下ろされる。会場の緊張感が濃かったのは高低差のせいもあった気がする。
 青葉さん、何だか貫禄が出たなあ、というのがざっくりと全体の印象。服装、安定感、ギター上達、だけでなく。それがMCで話していた、全国で出会って連れてきた沢山の仲間たち(「ポケモンみたいに」笑)の影響なんだろう。
 だけどMCがいつもより緩かったのは、直前に遊びに来たらしいおとぎ話というバンドに緊張を解されたからかな。22歳らしさを初めて見た気がしたり。

 いつも通りの二部構成。初期の曲中心の一部は、神父さま並にゆったりだぼっとしたベージュの服。最近の曲中心の二部で衣装替え、袖口がふんわりギャザーになった甘めの白ブラウスに紺の膝丈スカート、オフホワイトのタイツにぺたんこの靴。
 ストレートの髪、ほんのり青緑がかった黒に染めている? 右耳に揺れる大きめの黒いピアスと相俟って、ちょっと背伸びした印象。これまでの不思議で繊細な少女風から、少しアーティスティックな見せ方に変えてきた。

 最近三部作にすることを決めたという「IMPERIAL SMOKE TOWN」→「だれかの世界」→「MARS 2027」がすごい。ものすごい。15分くらいで展開される物語の大きさの、果てが見えなくて唖然とする。後者ふたつは音源化されていないので、次のアルバムが本当に楽しみ。
 この巨編の前に「イソフラ区ボンソワール物語」を持ってくるとは。セットリスト悩む、という話をしていたが、まさかのイソフラボンボンがここで。市子……恐ろしい子!(ガラスの仮面風に) 会場の緊張感に正直馴染みきってはいなかった。けれど是非とも捨てられないでほしい曲。コミカルで奇妙で、どこか不安定なバランスが癖になる。アンコールでやると良さそう。
 「機械仕掛乃宇宙」はさすが。何度か聴いて慣れてきて、物語の細部に胸を突かれたりする。あの祈りのような呪文、耳を澄ますと「メルクリウス、ウェヌス、テル(ス)マル(ス)ユピテルサトゥルヌス、ウラヌス、ネプトゥヌス」と聞こえた。ラテン語で水星から海王星まで順番に。
 アンコール、おとぎ話にエッセンスをもらってできたという「エスケープ」は確かにバンドサウンドでもいけそうなアップテンポ(青葉さん比)な曲。《月に梯子を掛けたなら後は登るだけさ》ってひたむきさが可愛らしくもあり、切実でもあり。新境地、素敵だった。最後は待っていた「ひかりのふるさと」で締め。きらきら、今日もとてもきれいだった。音だけでなく、世界をきれいに見せてくれる。ありがとう。

 来年は制作に入るので「邪魔しないでください。笑」と言われ、繭をつくる蚕を見送るような気持ちになる。その前に、12/23の現美! 展示もライブもすごく楽しみだ。

■セットリストとMCメモ
01. 不和リン
02. 腸髪のサーカス
03. ココロノセカイ
 「弾き語りを始めた最初の頃、まだ曲が4、5曲しかなかった頃は、いつもこの3曲で始めていました。初心を忘れないようにと思って、今日はこの3曲から始めました」
04. 光蜥蜴
05. 日時計
06. 遠いあこがれ(白鳥英美子カバー)
07. 繙く風
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08. レースのむこう
 「次は、訳ありな曲をやります。一度ボツにした曲です。今日はやるつもりはなかったんですけど、おとぎ話のドラムの人にやれやれって言われて。苦情は彼にお願いします。笑」
09. イソフラ区ボンソワール物語
 「やらなきゃ良かった。笑」
10. IMPERIAL SMOKE TOWN
11. だれかの世界
12. MARS 2027
13. 私の盗人 「22歳が精一杯背伸びした曲です」
14. 機械仕掛乃宇宙(山田庵巳カバー)
 「楽譜がないので、あってもわたしも読めないので、口伝えで覚えました。わたしはこの曲をコピーしたいがために、ギターを始めたようなものです。原点、ですね」
15. 奇跡はいつでも
 「レイ・ハラカミさんが亡くなった時にできた曲です」
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EN.
01. エスケープ
02. ひかりのふるさと

November 4, 2012

『陋劣の残滓を啜り聖を排出する正義という呪縛。狂躁する資本主義の末期衝動。罪は通奏低音の如く聖に平衡し、赫奕たる旋律を奏でる。』
@ 郡山#9

 鈍行列車を乗り継いで、ゆるゆると北へ。
 東北本線、ドアが「車内温度維持のため」ボタン式の手動。乗り換えた列車は二両編成で、発車の合図は時折掠れる笛の音。車内に2歳くらいの男の子とお母さんがいて、周りの人がにこにこ話しかける。
 時々東京を出ないとだめだと思った。何かが致命的に麻痺している、気がする。


■波多野裕文
 どれも曲名が判らないので、詞の一部を。

1. 中国に行ってみたい
2. ドレスリハーサルの途中(ミニチュアのデパート)
3. 君が人を殺した
4. 8つの卵
5. あなたは誰にも愛されないから

 #3初めて聴いた。
 最初しばらく「今日彼女は来なかった、仕事かなあ」なんて小さな恋の物語かと思いきや、その流れのまま《君が人を殺した》。空気にノイズのような異物がざあっと混じって、うわあ来た、と思う。あの違和感と困惑。と、少しの愉快な気持ち。
 冷静なギターは異物が聴衆の体に沈むのを見届ける。そこからもう一度《君が人を殺した》。そして《でも、僕は君の味方だよ》と続く。2つのフレーズが何度も繰り返され、後者の伝え方がどんどん濃くなる。はっきりと一音ずつ、確かめるように。

 ……とりあえず聴いてほしい!(これ、ずっと言いたかった!)

 一度だけ《君が誤って人を殺した》と歌っていた。誤って。今更効いてくる。

 言葉が触覚に作用する。皮膚に、身体に、内蔵の隙間に、否応なしに触れてくる。堪らない違和感の陰で、あるべきものが戻ってきた安堵がこっそりと息をつく。そのことがおかしくて笑う。ほんの少し愉快でもある。そんなめちゃめちゃな状態で聴いていることもある。ただ心地良さに浸っているだけのこともある。
 結局どうしてなのか全然解っていない。ふらりと200km移動してくるくらいに引かれているのは確からしい。

 iPhoneのアラームが鳴って、魔法が終わる。今年もありがとう。良いお年を。


■the cabs
 この日の客入りは半分くらいで、舞台がクリアに見渡せた。下北沢は満員電車並の混雑でほぼ見えなかったから、彼らを「見た」のは初めてに近い。上手からギターボーカル(絶叫)、ベースボーカル(メロディー)、ドラムス(爆撃機)の配置。
 爆撃機、本当に爆撃機だった。決してパワーで押すマシンガンタイプではないのに、手数がどうなっているんだろうあれ? あの音の連鎖のどこで息継ぎして、どうやって呼吸しているんだろう。最初に爆撃機と評した人のセンスすごい。
 そのドラムスに乗るメロディーと、乗らずにひた走るような印象のギター。まとまっているようで、まとまりがない気もして、何が展開されているのか解らないままとりあえず突き進んでいる様が面白い。これからどうなっていくのかさっぱり見えないバンド。年明けのアルバムが相当楽しみ。

■te'
 こちらもやはりドラムス。残響と書いて「ドラムス」と読んでもいいと思った。冷静に考えるとだめだけど、それくらい気になるドラマーが多い。何だろう。
 人とぶつからずに見たのは初めてで、何だか違和感があった。モッシュしろってことでは全然なく、誰かと/何かと衝突するところで生まれている音なんだと思った。あらゆる音がそうだと言えばそうだけど、何だか「衝突」がひとつのキーワードのような気がする。ツアータイトルだってそうだ。画数多く読みづらい漢字からして衝突しまくっている。内容もそう。
 見る度にそんなことを考える。まだまだ未知数のバンド。いつかまた。

ノート:
【陋劣】ろうれつ。いやしく劣っている・こと(さま)。下劣。
【赫奕】かくやく。かくえき。光り輝くさま。 - 大辞林より

October 25, 2012

TONOFON presents SOLO 2012
@ グローリアチャペル キリスト品川教会

 初見の2人のソロ演奏。楽しみに足を運んだ。開演前、撮影大丈夫そうなのでぱちり。プロテスタントらしい簡素な内装。pewに並んで腰掛けて聴く。

 素敵な照明設備。写真判りづらいけれど、ペンダントライト風に幾つか豆電球が吊られていて、曲によって星の明滅のように瞬く。あと十字架の後ろの壁、上下に照明が隠されていて、赤青黄金色になれる。
 ただ肝心の音、教会でリバーブがかかり過ぎて細部が曇っていた気はする。途中トクマルさんの弾いたパイプオルガンの独壇場。
 それでも楽しくて刺激的なひと時だった。ソロにも色んな形がある。

■高木正勝
 ピアノと一緒に産まれてきたんじゃないかと思う。己とピアノとの継ぎ目が見えなくて、正に天衣無縫。ピアノを手懐けたり、服従させているのはよく見る(それだって極めれば素晴らしい)けれど、1:1の関係は初めて見た。奇跡のよう。
 体を大きく使った演奏。上半身は鍵盤を0度とすれば120度くらいまで思うがまま動き、時に鍵盤を圧する反動で腰を浮かせるどころか立ち上がったり、曲間では準備運動みたいにぴょんと飛んでみたり。大袈裟とか力任せとかではなく、全て自然。ピアノのタッチはとても丁寧。どうなっているんだろう!
 「Girls」「Yubi Piano」が聴けて嬉しい。最後は映画の主題歌「おかあさんの唄」高木さんボーカルでとても良かった。女の人が歌うより、直截な歌詞とワンクッション距離があって個人的には好み。教会だからか、曲が天へ昇って、また降り注いでくるようだった。おかあさん=マリア様の連想をするとふるえる。
 ピアノを弾くのはこの人の一面でしかないというのがまた。天賦の才という言葉がよぎる。これからどんな音や映像を生み出すのか、まだまだ楽しみ。

■トクマルシューゴ
 音数多くカラフルなイメージがあったけれど、この日はソロ。それでもギター(+サンプラー)、ピアノ、オルガン、ウクレレ、客の声と、手持ちの楽器と会場をフル活用しての演奏。音に好奇心が強くて、遊び心のある人だなあと思う。サンプラーで音を重ねる中でエレクトリカルパレードのフレーズを挟んだり、オルガンで最初に容赦なく鳴らしたのがトッカータとフーガニ短調の頭だったり(笑)。楽しかった! Rum Heeはギター一本でもカラフルな響き。

 アンコール、2人で演奏するGirlsがこの日のハイライト。多分それほど細かな詰めはしておらず即興で、お互いの出方を窺いながら音が折り重なっていくのがとても面白かった。どちらかがためらったり誘ったりすると、すぐに相手が反応して打ち返していく、音のダイアローグ。
 前々日(!)にtwitterで高木さんが持ちかけていて、今日のトクマルさん曰く「(準備大変だったという流れで)更に高木さんに首を絞められました(笑)。でも、その絞められるのは悪くないっていう」。面白いコンビ。またどこかで。

October 15, 2012

J-WAVE「THE KINGS PLACE」LIVE vol.1 @ LIQUIDROOM

 ラジオ番組「THE KINGS PLACE」をナビゲートするバンドが集結してのライブ。
 LIQUID良いハコ。音良いし照明映えるし後方段差があるのは優しい。レモネードあって嬉しいし、立地も良い。開演前の寿司詰め待機さえ乗り切れば素敵な空間。


▲フライヤ、ハロウィン仕様!


■People In The Box
 昨日に続いてピープル。対バンだと格好良さ3割増。演奏キレあり、LIQUID自体の良さも相俟って素晴らしかった! 「市民」半端ない! 「天使の胃袋」ボーカル入る前のピィー!!!って容赦ないギターの音で飛ぶ。あれ大好き。エレクトリックで聴いたのは久々で嬉しい。
 新曲とんでもない。手の付けられない魔物のよう。真っ赤な照明が映える。ウィスパー(ピープル初?)で《水の音がしてる 耳を澄ませ》からの忍び寄るベース、水面が足元から盛り上がってきてぞくぞく。どうしたらあんな曲が、演奏ができるんだろう。最後《清潔な流し台を血液が走る》ボーカルだけで終わると、場内1000人ほどが水を打ったように静まり返る。堪らない空気。訳が解らないけれど圧倒的な何かを観た後の、言葉も行動も奪われた感。キンプレブログによると「市場」らしい。しじょう? いちば? 何を取り引きしているんだろう? 愛すべき魔物。新譜が益々楽しみ。
 続く「ダンス、ダンス、ダンス」の4拍子に安堵。したのも束の間、詞が迫る。ラジオで音源流れてからライブは初めてなのに、もうすっかり好きになってることに気付く。福井さんのコーラスが映える。終盤《森を突き抜けて》で3人同じリズムで音出すところ(わかりづらい……シンバルだとジャーン、ジャン、ジャーン!てところ)が好きなんだけど、割と抑え目の出し方。最後《荒れ果てた庭でひとり仲良く踊りましょう》ずんと来る。いつか軽やかに踊りながら受け止められるようになるだろうか。
 PA卓付近の段差上にいて、遠目だけど遮るものなくステージを見渡せた。久しぶりに見えた福井さん、縁の下の力持ちタイプだと思っていたら、全然クリエイティブかつパフォーマティブでびっくり。今更。特に新曲2つ、目を奪われる。
 恒例のMC、アウェイ気味の場でこそ本来の持ち味を発揮。照明を乱反射するドラム要塞に守られつつ、斜め75度上向いて声にエコーかけまくるダイゴマン・オン・ステージ。極めつけに「今日も全力でぶっ殺していくんで、マジでよろしく!!(ビシッと指差し!!)」堪らない。指から何か飛んできたマジで。PA卓までマジで。

……じっと座ってものを考えているだけじゃ駄目なんだ。そんなことしてたって何処にもいけないんだ。わかるかい?」
「わかるよ」と僕は言った。「それで僕はいったいどうすればいいんだろう?」
「踊るんだよ」羊男は言った。「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言ってることはわかるかい? 踊るんだ踊り続けるんだ。……
 - 村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』より
 ※下線部、原文では傍点

 3人が演奏していることを変わりなく貴く感じる。かけがえのない、生の溢れる景色。あの場をつくってくれて、そこにいさせてくれて、本当にありがとう。

●セットリスト
1. 親愛なるニュートン街の 2. 市民 3. ニムロッド 4. 市場 5. ダンス、ダンス、ダンス 6. 天使の胃袋 7. 旧市街


 転換中、今回はツアーで来られなかったらしいandropからのメッセージとライブ映像が流れる。誠実な演出。LIQUID下手側の壁がスクリーンになるのを初めて見た。
 つくりものみたいにきれいなイメージを持っていたら、ライブ映像で一面客の腕が上がっていて壮観。思い込みよりずっとインタラクティブな音楽なんだなと思う。

■Nothing's Carved In Stone
 2010年のクリスマスにピープルと、同じLIQUIDで対バンして以来。ボーカルが金髪になって、それと関係あるのかないのか、記憶していたより一層攻めの色が強いステージだった。久しぶりに見る変化は嬉しい。

■クリープハイプ
 初見。割と楽しみにしていて、割と好きだと思った。曲も詞も演奏も。ストレートに向かってくる音を嫌いになれるはずもない。トリとは予想していなかったけれど、盛り上げまくって締めていた。肩車連立→ダイブの波を久々に見る。同じ音楽好きでも本当に色んな人達がいる。

October 14, 2012

ART-SCHOOL「BABY ACID BABY」TOUR 2012 @ 金沢AZ

 ARTの新譜ツアーにピープルがジョイント。
 ずっと来たかった金沢、観光して(21世紀美術館! 泉鏡花記念館!)ライブ観られてすごく楽しかった。昼間遊び過ぎてART終盤で体力が尽きかける始末。きっとまた。


▲ペットボトル、AZの粋な計らい!

■People In The Box
 波多野さんのギターが変わっていた! きっとこれなんだろう。素人が開き直って勝手なことを書くと、栗の渋皮煮みたいだと思った。ブランデーの深く染みてる渋さを基調にしつつ、全体に甘みが残っていて豊か(秋のせいにしておく。とても好きな甘味)。今の位置から少し先にある、けれどそのことで進む道を示してくれそうな、良い予感のする音。しばらくはギターが楽しみになりそう。バンドに馴染む過程を見ていたい。
 「球体」聴けば聴くほど良い曲! 暗めの黄緑色の照明。輪唱がダイゴマンから福井さんにチェンジ。人が密集するライブハウスで聴いていると球充填問題を連想する。ピープルの音が充填された球体達の隙間に満ちていくイメージ。
 ギターばかり気になっていたけれど、久々に近くで見たダイゴマンの演奏はやっぱりしなやかで力強くてうつくしい。「金曜日 / 集中治療室」嬉しかった! ホイッスル! 残響祭とは違って、テンション上がる曲に戻っていた。全曲演奏は特別。
 もうひとつ新曲、初めて聴いた。《ある日君は動くのをやめた》で始まる物語調の詞。新譜は物語が主張に消されていくのかと勝手に危惧していたから安心する。ボーカルに挟まるシンバルの音が妙にツボ。また好きな音が増えてしまった。しかも間奏3人ともやたら格好良い。新譜好きかもしれない、どうしよう。
 ラジオで声にエコーかけることを学んだダイゴマン、いつものMCがレベルアップ。「『Cut Two』買った人手挙げてー、少なっ!(なっ!(なっ!(なっ!)」普通にウケていた。エコーの魔力!
 「ニムロッド」→「旧市街」、最早定番の流れで締め。終盤はギターとドラムお疲れ気味だった気はする。福井さんの安定感はさすが。今更だけど旧市街の《メメント・モリ》コーラス他の音に負け気味で勿体ない。もう少し大きくても良さそう。
 ピープル久しぶりに観たという人が「球体格好良かった!」って言ってくれて嬉しかった。そうそう、すごく格好良いアンサンブルなんだ。対バンで見ると改めてそう思う。金沢で観られて本当に良かった。楽しい時間をありがとう。

●セットリスト
1. 沈黙 2. 笛吹き男 3. レテビーチ 4. 球体 5. 新曲(ある日君は) 6. 金曜日 / 集中治療室 7. ニムロッド 8. 旧市街


■ART-SCHOOL
 初見。ロック然としていた。演奏格好良かった。一方で、真面目にロックしている様は不器用に映る。後ろに向かって全力疾走しているような。心配になる突き進み方。
 有名どころで「左ききのキキ」「MISS WORLD」は知っていて、さすが格好良かった。だけど本編最後の曲がとても気になった。繰り返される《光のほうへ》は祈りにも叫びにも似ていた。多分引きずられてはいけないのに覗き込みたくなる、その感覚を久々に思い出す。曲名は「We're So Beautiful」というのだと教えてもらって鳥肌。
 そんな不安定な心持ちにさせる曲や詞に中尾さんの逞しいベースはアンバランスで、逆に似合う。珍しく俯瞰的なギタリストを見たと思った戸高さんは、途中束ねていた髪を解いた途端に主張が強くなって唖然。あの髪ゴム何か封印してたんだろうか。
 ARTにはARTの色があるんだって当たり前のことを感じた。それでも、戸高さんのギターは五十嵐みたいだって時々思ったり、犬が吠えるの光とはまた違うとか、五十嵐何してるんだろうとか、散々に勝手なことを考えていた。もう少し距離を置きたい。

 木下さんがちょうど誕生日らしく、MCでアピールしていた。祝われたい人なのか。
 アンコールで、戸高さんのギターに誘われて会場が歌う。ハッピバースデーディアリッキー、ハッピバースデートゥユー♪
 歌い終わったタイミングでピープルの3人登場。波多野さんがケーキ渡してハグした、らしい。なぜか見逃した。気付いたら皆すごい笑顔だった。おめでとう、ほんとハッピーであればいい。光のなかにいられるといい。

October 9, 2012

DIRTY PROJECTORS JAPAN TOUR 2012
@ Shibuya O-EAST

■DUSTIN WONG
 初見。ひとりでギターを抱えて、何重にもサンプリング→ループつくって組み立てていく。他の同じタイプの人達と比べて、出来上がる曲のスケールが大きい。居心地の良い家とか小さな城とかを超えて、世界とか宇宙に触れるような曲。10曲弱くらい全てその組み立ての繰り返しである意味パターン化してしまっていたから、俯瞰で見てしまうと40分は長く感じた。けれどひとつひとつアプローチが違っていて、丁寧に聴いていけばとても面白かった。

■DIRTY PROJECTORS
 初見。アンコール含め一時間強、新譜の曲中心のセットリスト。新譜はものすごく好きなんだけど、ライブは旧譜の曲の方が迫力あって良かった。何よりBEAUTIFUL MOTHER! 声という楽器の掛け合い、ライブだと凄まじい。複雑な数え切れないほどのピースがだだだだっとすごいスピードで組み上がって完成していくような。うつくしい立体構造物。素晴らしかった。
 自由なボーカルが安定したリズム隊とコーラスに乗って生きている。幸福な土壌あっての自由。だけど両者がうまくまとまるのは難しいのかもしれない。Daveが歌わないBEAUTIFUL MOTHERや、AmberのTHE SOCIALITES、全員の熱が入るUSEFUL CHAMBERが良かったから、そんなことを考えた。どこか分離していたような。
 Angelがいない?と思ったら、今はOlgaに替わったらしい。基本クールな演奏で、大人びた微笑みがきれいな人。だけど何かの曲(NO INTENTIONだったかな)でゆったりヘドバンする勢いでキーボードにのめり込みだして驚く。ギャップ素敵。
 USEFUL CHAMBERはさすが。噛み含めるように歌われる"Bitte orca, orca bitte"、意味を成さない語の連なりは呪文のよう。祈りのよう。あの「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会い」みたいに、意味(笑!)とか越えたところにしかないものを見せてくれる。その辺り通過した上で紡がれているからDaveの詞は好きだ。Bitte orcaの時、そのフレーズを肯定するように照明が明るくなったのもすごく良かった。
 アンコール一曲目がDANCE FOR YOUで嬉しい。UNTO CAESARも聴きたかったな。最後IMPREGNABLE QUESTIONは、そう来たか、と割と冷静に受け止めた。"You are always in my mind"、You=オーディエンスだよ!みたいに歌う。安易かなあと思いつつ、1時間ライブ聴いた後だと沁みる。
 ライブは不完全燃焼気味だったけど、追っていたいバンド。次の動きが楽しみ。

●セットリスト
01. SWING LO MAGELLAN
02. OFFSPRING ARE BLANK
03. THE SOCIALITES
04. CANNIBAL RESOURCE
05. BEAUTIFUL MOTHER
06. SEE WHAT SHE SEEING
07. NO INTENTION
08. ABOUT TO DIE
09. JUST FROM CHEVRON
10. MAYBE THAT WAS IT
11. GUN HAS NO TRIGGER
12. USEFUL CHAMBER

EN
01. DANCE FOR YOU
02. STILLNESS IS THE MOVE
03. IMPREGNABLE QUESTION

October 6, 2012

MEGA☆ROCKS 2012

 気付いたら仙台にいた。そんなはずはないのだけど、そう表すのがしっくりくる。ちょうど何かのお祭りだったらしい。はっぴ姿の人達と、首にタオルをかけたお馴染みフェススタイルの人達が混ざって、二度目の仙台はとても賑わっていた。
 何組か観たんだけど、ひとまずひとつだけ書きます。後で追加するかもしれない。書き過ぎたから削るかもしれない。


▲遅くに行ったら逆に1DayPassをいただいた


■波多野裕文(People In The Box) @ retro Back Page
 会場、雰囲気の良いダイニングバー。キャパ100くらい。弾き語る氏の奥にはモダンな壁掛け絵、傍らに1959年製のスタインウェイ。よくあるピアノブラックではなく、ウォルナット艶消しでやわらかな印象。小さなカフェバーで聴きたいって願いが早くも叶うことになった上、素敵なピアノのある空間! それはそれはやさしいひと時だった。
 音が浸透圧ゼロで流れ込んでくる。音と聴き手には多少なりとも距離があるはずなのに、ゼロだと感じるくらい傍に在る。という魔法がかかっていた。あるいは30分間の夢をみていた。あれほどやさしい侵犯を他に知らない。

 「放っておくといつまででもやるから、アラームをセットしました。時間になると、電話のベルの音が鳴ります(笑)」と譜面台にiPhoneを置いてスタート。

1. タイトル不詳《中国に行ってみたい》
(冒頭ワンフレーズ歌って)「という歌があるんですけど。あんなことになって。島を巡って争うことになって、違う意味が付けられてしまう……まあそれも面白いかなと」→歌再開
◇右足を左膝に乗っけてリラックスした風に、けれどとても丁寧に、音を繋いでいた。
 元々の意味を消してしまわないように聴きたいと構えつつ、始まってみればあの胡蝶の夢感にただ呑まれるのみ。

2. タイトル不詳《ドレスリハーサルの途中》
《昼と夜をやり過ごし》
◇街を眺める視線があまりにもやさしい。《眠る都会に毛布を掛ける》とか。ギターの音のやさしさに揺さぶられたのは初めてだった。ひとつひとつ弦がはじかれる度、ダイレクトに胸にきた。何度か聴いてきた中でも、今日は特別良かった。
 また詞が着せ替えられていた。終わらないドレリハの次を楽しみにしている。
 固定のフレーズ《街は未だにドレスリハーサルの途中》が繰り返され、最後「♪街はー未だーにードレスリ、ありがとうございました」でおしまい。客ぽかん。突然スイッチをOFFにされたような。一瞬の間の後、拍手。じわじわ広がる拍手。

3. タイトル不詳(初披露?)
《戦場だよ》《メランコリー》《おやすみ》《まばたきの間に星を見ろよ》
◇《戦場だよ》という歌い出しのようなシビアさと、メランコリー、メランコリー♪のゆらゆら感が交互にやって来る。「平坦な戦場で僕らが生き延びること」を思い出す。《星を見ろよ》命令形、珍しい。見えたものが星だったのか、まだ判らない。

4. タイトル不詳(ニコラとテスラと卵)
◇卵が食べられようとしていることにようやく慣れてきた。
 最後に登場する男の丸く膨らんだポケットには、残ったひとつの卵が入っているんだろうか。割れてしまわないだろうか。やっぱり食べるのはやめて育ててみるんじゃないだろうか。とか、考え始めるときりがない楽しい。

5. タナトス3号(仮)
《暗い光に今日も誘惑されてる》《ヤコブ片隅に閉じ込めてくれないか》
◇時間がない!ということで、QUIET ROOM 2012に続き最後の《とんてんたんとんてんたんとん》BPM爆上げで終了。小人たちが大急ぎで建設作業しているみたいな。「旧市街」の塔を建てているんだって空想すると楽しい。欠陥工事にならないことを祈る。
 冒頭《目を凝らすと》だと思っていたら、今日は《目を逸らすと》に聞こえた。意味真逆じゃないか。どっちだろう。
 ひとりごと。全くそういう意図ではないだろうけど、ヤコブと大工が出てくると某宗教を連想する。ヤコブ閉じ込める=反イスラエル的。《大工はみんな知っている》=ナザレのヨセフは全知=神とか。こわい。何とか結び付けないで楽しみたい……。

6. タイトル不詳(あなたは誰にも愛されないから)
《いつも いつでも いつも 頭の中の空洞には誰もいないのさ》
◇始めて少しして「もう一回やっていい? アラームを止めます」と中断。アラームのタイミング難しそうだ。夢が終わらなくて済むことに安堵する。「2分押します!」との宣言でリスタート。自己パロディとはさすがである。
 せつない声。初めて聞いたと思う。取り残されたインナーチャイルド。海を目の前に、大きな分岐点に立っているような絵が浮かぶ。掠れ気味の「ばーかばーか」、片想いしてる思春期の子かと。
 ざっくり曲構成を【Aメロ→Bメロ→Cサビ→A'→B'→C'→C''】とすると、A~Cまでギター、A'~C'がピアノ(!)、C''でギターに戻る。
 即興のピアノ、ラジオの弾き語りコーナーみたいにコードを探しながら弾いていた。探り当ててアルペジオ。その器用でない紡ぎ方が曲に似合う。このまま、うまくならなくていいんじゃないかな。
 1959年製のスタインウェイ、現在と距離を空けるようにどこか俯瞰的な、けれど透明な音色。インナーチャイルドを包んでいくような、堪らなくやさしい響きだった。


 即興で決められる曲目、今回実はQUIET ROOM 2012に「戦場だよ」と「ニコラとテスラと卵」が追加された他は同じ。響き方は全然違ったけれど。何となく流れができている。この調子で音源化されるといい。
 会場を出ると、ぽつりぽつり雨粒が皮膚に当たった。波多野さんのライブはどうも雨に恵まれる。夜風に冬の気配が滲んで、どうして音楽を聴きに来ているのか解らなくなる。からだの半分に魔法が残り、もう半分が冬になる。それでも来月また東北に来るだろうと思った。なぜだか解らないまま、もっと冷たい風が吹くだろう11月に。

September 23, 2012

Penguinmarket Records × 晴れたら空に豆まいて presents 『OTONOOTO』
@ 晴れたら空に豆まいて

 繋がりの解らない3組。ライブは端々に共通項が見えるのが面白かった。
 久しぶりの晴れ豆は初めてのスタンディング。とはいえ和風な内装とやわらかい照明のお陰でのんびり。8割くらいの入りで、パーソナルスペース広めなのも良かった。


■ハイスイノナサ
 広くない舞台に密集する機材、メンバー。フロアとの段差が小さく、距離が近い。そんな晴れ豆空間で聴く音に体温を感じた。今までは都市の無機質さとそれを鳴らす人との隔たりが面白かったのだけど、何度か観たせいもあるのか、音と人が結び付いてアナログな響き。逆に都市感が薄い。どちらも好きだ。色んな面を見せてくれるといい。
 twitterでセットリスト流れてきて、色々曲名が判った。手拍子の曲は「平熱の街」という名前。いいね、あの熱さと落ち着きの振れ幅が街の平熱。「ある夜の呼吸」は晴れ豆にとても似合っていた。最後「動物の身体」でニュートラルな締め。残響祭とはまた違って、ふわりとしていて心地良い。浅い眠りに就くような終わり。
 次の世武さんがこうコメントしていた:「ニューヨークの現代アートみたいな、でもヨーロッパの映画みたいな感じもあり」。前者はよく解る。後者はあまりぴんと来ないけれど面白い。モノクロの8mmフィルムのような? そんな風に聴いてみようかな。
 しばらく東京でのライブはないとのこと。是非また。次までにCD聴いて、ゆっくり付き合っていこうと思う。きっと恒常的に好きな音だ。

●セットリスト(twitterより)
1. mass 2. 都市の記憶 3. ハッピーエンド 4. 地下鉄の動態 5. ある夜の呼吸 6. ensemble 1 7. 少年の掌 8. 平熱の街 9. 動物の身体


■世武裕子
 初見。ピアニスト+作曲家+最近シンガーソングライターさんらしい。
 ジャズとポップスが幸せに結び付いたカラフルな日向の音。一方、ハイスイと似た都市感もあり。「Hello Hello」が前者、名前解らないピアノ曲や「ニューヨークと呼ばれた場所」が後者、「75002」は中庸かな。中庸~後者に惹かれる。
 「現代音楽ってよく言われるんですけど、自分では未来音楽やと思ってる。未来って言うても100年後とかじゃなく、3日後くらいやねんけど(笑)」と話されていたのが印象的。「現代」「未来」と対比すると遠いが実際は逆で、現音よりもずっと日常に近い、手の届くところにある音。現代より未来の方が近い。そこに何か新しい鍵がある気がする。とか、ぼんやり考える。
 声は初期SalyuやUAに少し似ていて、そのエーテルや神秘性を薄めて日常に近付けたような。隣に居てくれる声。シンガーソングライターをやろうと思ったのは現音より解りやすいことをするため、という話だった。矢野顕子さんのライブが印象深かったとのこと。日常に近付き過ぎない方が個人的には好きかな。まだ方向が定まっていなくて、これからも面白そうな人。
 プロフィールを調べると「天性の才能」「あの○○が絶賛」と紹介されている。どんな孤高の女性かと思ったら、気のいい関西のお姉ちゃん! 笑いを取ることはマナーである、というような喋りっぱなしのMC(大阪人だと思い込んでいたら、滋賀生まれの京都育ちさん)。親しみやすさが曲のカラフルさと通じていて、人と音が一致しているのは幸福だなと思う。
 出会えて嬉しい! とても惹かれる曲を見つけた。やっぱりカラフル。



■egoistic 4 Leaves
 初見。男性6人組(ツインドラム・パーカッション・ベース・ギター・キーボード)の名古屋のバンド。名古屋熱いインストバンド多いな。イベント名のPenguinmarket Recordsは彼らの所属するレーベル。
 衝動をぶつけるだけぶつけたような音。それだけではないけれど、とにかく熱い。暑い。厚い。6人の音がフォルティシッシッシッシッシモくらいまでクレッシェンドして終わる。若いなあと思っていたら、メンバーの多くが32歳超えみたいな話をしていた。しかし若い。egoisticという名の通り自覚的にやっているんだろう。
 ハイスイと印象や音色は随分違うのに、少し似ている。変拍子? 構成には共通項があるのかもしれないけれど、ハイスイの視点はずっと醒めたところに置かれている。自分にはその方が近しく思える。
 「色んな人の靴を舐めて東京来たんで」とか自虐的なMC泣ける。名古屋から来ました!と言いつつ岐阜出身のパターン笑った。

September 16, 2012

残響祭 8th ANNIVERSARY
@ Shibuya O-EAST & duo MUSIC EXCHANGE

 昨年に続いて参加。この1年で沢山の残響バンドを知って、ライブを観て、ずっと好きになったなあとしみじみ。
 タイムテーブルは当日現地で発表するスタンス。選り好みせず観てほしいのだろうけれど、事前に発表されると予定組みやすくて助かる。私用こなしてからの参加だったので余計にそう思った。omni観られなくて残念。
 お祭騒ぎはとても楽しかった。最後に河野さんが「来年もやりましょう!」って言ってくれて嬉しい。きっと!


■SPANK PAGE
 初見。どこかで和製シガロスと紹介されていた。ああいう宇宙見える系ではなくて、自分の前に立ちはだかる壁を壊すくらいのシューゲ寄りな音、という印象。もっとぶっ壊してくれ、と思ったけれど、あの繊細さが彼らの味で魅力なのかも。


■ハイスイノナサ
 すごく良かった。この日一番のめり込んだアクト。
 初めてドラムの手元が見えた。それでも何が起きているのか解らないけれど、確かに秩序があるからあんなに美しいんだと思った。数学のよう。あの音はドラムの人が出しているんだ!って驚きも沢山あった。仕組みの氷山の一角が解って嬉しい。ともすれば機械みたいになりかねない精確さが、他の音との関わりの中で温度を持つところに人間を見る。もう少し考えたいところでもある。
 初めて一緒に手拍子できたのも嬉しかった。次のライブでCD買おうかな。「ハッピーエンド」のうわあああ感(としか今のところ言いようがない)も健在。最後「動物の身体」で澱みが全部流されたような気がした。ピアノと電子音の組合せだけでも堪らないのに、ギタードラムベースに人の声、皆混ざり合っても濁らず清冽な音に触れられる幸せといったら。
 あまりに良くて、26日のイベントのチケット予約した。とても楽しみ。


 ハイスイ(duo)早めに切り上げて移動しようと思っていたのに最後まで釘付け。ピープル(EAST)間に合いはしたものの、着いたら大混雑でステージ見えず。


■People In The Box
 MCなしで『Ghost Apple』全曲演奏。再現とか反復ではなく、今の彼らの声だった。ガートルード・スタインの言葉を思い出した - 「繰り返しなんてものはない。あるのは声(insistance)だけ」。
 思い入れのあり過ぎるGAの、初めて出会う面が幾つもあって高揚する。「金曜日 / 集中治療室」の痛みが際立って聴こえたのはびっくり。駆け抜けるようなリズムにホイッスルも登場して、ライブではテンション上がるばかりの曲だったはずが。モナリザのくだりは愉快だと思っていたらかなしかったし、《翌朝 報いの雨に濡れて》以降のくるしさは何なのか。「僕」と「君」の双生児のような近さVS結局は他者であるという絶対の溝の、どうしようもない抗いがいっぱいに詰まったGAのひとつの頂点だと思った。ここで幕を引けば崩壊して終わりだったのに、一週間はまだ続く。
 月曜日から土曜日の重みが伸し掛かった「日曜日 / 浴室」は鳥肌。あの帰結《わたしのいのちを、君にあげる / パンケーキみたいに切り分けて、あげる》のために一週間があって、あの帰結があるからまた一週間が始まる。初めて「再生」の曲だと思った。終わらない抗いの中で生き続けるために鳴らされている音楽だった。
 同時に弔いのようでもあった。記憶をなぞって大勢の前で解放するプロセスに立ち会っている気がしていた。古い日記を取り出して、順に読み上げては炎にくべて、ひと山の灰を積もらせる。彼らが去った後、燃え残った林檎の赤が目に染みた。

●セットリスト
1. 月曜日 / 無菌室 2. 火曜日 / 空室 3. 水曜日 / 密室 4. 木曜日 / 寝室 5. 金曜日 / 集中治療室 6. 土曜日 / 待合室 7. 日曜日 / 浴室


■9mm Parabellum Ballet
 照明の赤がGAの赤だなあとか、前の人達の余韻でぼんやりしていた。そんな中でも二度目の9mmはやはり圧倒的。2階も踊る人いっぱいでフロア揺れていた。「Black Market Blues」「The Revolutionary」「Vampire Girl」「新しい光」とか知っている曲沢山聴けて楽しい。いつの間に曲名と曲が一致するようになったのか。
 ボーカルの人柄通りなのだろう詞の真っ直ぐさを、まだうまく受け止められずにいる。ちょっと違うけれどBJCに近い。嵌まると癖になるんだろうな。なりつつある。


■te'
 te'も二度目。リハから凄かった。パフォーマンスさながらのドラムソロ。そんなに長時間やって大丈夫?と心配になるほど叩いていたけれど、杞憂に過ぎなかったことは本番で思い知らされた。他メンバーが入ってからも凄かった。
 9mmと血が繋がっているんだと思った。躊躇いなく向かってくる音が体に届いた瞬間の皮膚感覚(みたいなもの)が同じ。何もかも吹き飛ばす、気持ちの良い暴風のよう。


 te'のアンコールに出演者が十数人割って入ってのエンディング! 一度ハーメルンの行列みたいにぞろぞろと一列で通り過ぎて肩透かしを食らっていたら、二度目はまあひっちゃかめっちゃかな乱入になった。ダイゴマン、ホイッスル咥えて交通整理みたいな動きしつつ客をアジってたの笑った。ある意味笛吹き男。
 来年はどんなお祭りになるだろう。今から楽しみにしている。


September 4, 2012

デイジーワールドの集い @ 青山Cay

 細野晴臣さん主催の集い。事前予約なし、先着順入場。長い列に並んで何とか入れたものの、場内は更にすごい人人人でステージ見えず。もっとゆったり観られたら良かったし、後方にスピーカーなくて距離があったけれど、音楽はとても素敵だった。


■青葉市子
 「物語を、歌います」との挨拶でスタート。人の多さとレストランという環境で、小さなざわめきのなか演奏。「IMPERIAL SMOKE TOWN」はもう少し張り詰めた空気の方が似合うかな。しかし「機械仕掛乃宇宙」の孕むエナジーは圧倒的。物語と音楽の力が青葉さんを中心に渦となって聴衆を飲み込む。メルクリウス、ウェヌス……の響きは祈りのよう。音が消え、渦の内側から湧き上がる拍手はとてもあたたかかった。
 からの、打って変わって「イソフラ区ボンソワール物語」! 初めて聴いて、イソフラボンボンイソフラボン♪が頭から離れなくなった。街の女の人はみんな巨乳ー♪とか、可愛らしくて楽しくて少し奇妙。かと思えば最後、いざ炎の中へー♪みたいなシビアな結び。このバランスの取り方が好きだなあと思う。
 宣言通りの豊かな物語世界、ありがとう。またね。


■吉田省念 (くるり)
 ギターと声と言葉で真正面から向き合ってくる。誠実な人なのだろうと思った。くるり的な誠実さとやっぱり似ていた。普段あまり触れない感覚が新鮮。くるりでもボーカルを取られているらしい。気になる、聴いてみようかな。


■中沢新一
 まさかの河内音頭 with 木津茂理さん! びっくり。聴けて良かった。懐かしい。色々あって一番テンション上がったかもしれない。細野さんの手拍子に乗せて木津さんの三味線とお唄、そして中沢さんのお唄もとても幸せだった。ノーリーズンで幸せで、それでいいやと思えるのは久しぶりだった。


■細野晴臣グループ+Salyu
 鳴っているだけで楽しくなる音は自分にとっては多くなくて、だから細野さんの音は貴重。何なんだろうか。齢を重ねた人が楽しく生きている様に救われる感覚はある。ご機嫌で楽しい音だった。面子に関わらず、また機会があれば集いたい。
 SalyuとのコラボはU-NITEの時と同じ「Smile」「I Love How You Love Me」。男性ボーカルに合わせて歌う時のSalyuのやわらかい声音が好きだ。そして声量すごい。後方にもしっかり届いて嬉しい。細野さんから音源化の話が出ていた、是非とも!
 3歳の時に公開された映画「風の谷のナウシカ」のテーマ(細野さん作曲)が歌の原体験だというSalyu。ずっと気に入って歌っていたそうな。その話を聞いた細野さん「鳥でいうと親みたいなもんだな」笑った。

●セットリスト(twitterより拝借)
1. Cow Cow Boogie 2. Song Is Ended(ゲスト木津茂理) 3. Tutti Frutti 4. Smile(ゲストSalyu) 5. I Love How You Love Me

August 30, 2012

QUIET ROOM 2012 -晩夏の鐘-
@ ル テアトル銀座 by PARCO

 「袖から舞台まで歩いてくる時吐きそうになった」(堕落安部さん)
 「この空気、あれを思い出しますね。お通夜」(尾崎さん)

 ということで今回も出演者にとってやりづらそうな、客がQUIETなイベント。うまくレスポンス返せなくて申し訳ない。どうしたらいいんだ。
 多くのアーティスト(今回は6組!)の弾き語りを見られるのは貴重で、本当に面白い。誰もが音と居て誠実だった。あんな風に生きたい。
 テアトル銀座、初めて行った。来年5月末でなくなるとのこと。舞台見やすいし席は座りやすいし、何より響き方がまあるいところが好きだと思った。立地も良い。なくなっても、今日のことはずっと覚えていられるといい。


■EG
 初見。カフェオレに追加する粉砂糖みたいなあまい声。高音もよく出るんだけど、話すのと同じかやや低いくらいの声がびっくりするくらいあまくて、こちらを推してほしい、と勝手なことを考えた。
 (更に勝手な感想)記号みたいな名前が面白い。exempli gratiaであり、JAAであり、カタカナ読みならeasyと同音。気になって公式サイトに行ったら「本名でないのも意味は特になし」とあった。名前と曲の印象がうまく一致しないのも面白い。


■堕落モーションFOLK2
 出演順のせいか、前回より少し大人しい印象。でもやっぱり気のいい兄ちゃん達。MCの人柄そのまま馴染みやすい曲、と思いきや引っ掛かるところが幾つもあって面白い。中でも「不潔なメロディー」という曲が引っ掛かっている。不潔を気にする潔癖さが際立って聴こえた。
 物販で「堕落」の二文字が刻まれたピンク色のTシャツ売ってて震えた。某16gの変態Tを思い出す。


■波多野裕文 (People In The Box)
 いつもの飄々とした空気で登場。曲目を即興で決めているからか、持ち時間を気にしてiPhoneのアラームをセット。そういえば前回は、時間が判らなくてスタッフに時計持ってきてもらっていた。進歩!
 4曲、どれも今まで披露したもの。王道的な曲が選ばれたように思う。

1. タイトル不詳《中国に行ってみたい》
壱日の孤独vol.2の一曲目。アカペラ。悠々とした、まあるい豊かな声。混じり気のない水の粒のよう。

2. タイトル不詳《ドレスリハーサルの途中》
《夏の都会にバグが発生する》
◇詞が夏仕様に着せ替えられていた! MC「最近本当に暑いですね。いつもは雨が降ってちょっと涼しくなったりするのに、全然降らない」から、さらりと《夏の都会に~》の歌い出し。リアルな時空間と曲がリンクするのはふしぎな感覚。同じ季節を、地平を、過ごしていることを実感するのもふしぎだ。

3. タナトス3号(仮)
《空を黒く塗り潰せ いつまでも同じではないと知った》
◇聴けば聴くほど好きになる。ぜひ音源化を!
 「時間がどんどんなくなる! 次の曲はBPMを上げます」との宣言で始まるも、いつも通りBPM70くらいのゆったり演奏。と思いきや終盤の《とんてんたんとん》で200超えるくらい爆上げして笑った。最後はゆっくりに戻って終了。

 チューニング中、びーん!と弦が切れるハプニング。ハタノさん「は……!」と動きが止まる。会場とりあえず笑う。笑うしかない。
 予備ギターを差し出すスタッフに「こういう状況の方が燃えるんです。あの、お気持ちは本当にありがとうございます」と断った後、「あーこれ、一本ないと結構狂いますね、調子」と言い出したので、どっちやねん!がんばれ!と念じる。
 そのまま「アラームが鳴るまで頑張ります」とスタート。そうだった時間が限られているんだった。

4. タイトル不詳《あなたは誰にも愛されないから 自分で愛してあげなさい ばーか》
◇壱日の孤独vol.2本編最後の、詞が印象深い曲。↑このくだりも勿論だけど、《5月の空は海の色》が堪らなく好きだ。メロディーと併せて、世界がぐわっと広がって解放されたような感覚になる。ハタノさんが歌う青空はいつも手を伸ばしたくなる。
 最後の「ばーかばーか」が終わってアウトロに入ろうとする時、ジリリリリリ!!!とiPhoneアラームが鳴り響く。演奏止み「お時間です、ありがとうございました」。ええー!?
 びっくりしつつ、会場笑って拍手。最大級の拍手。

 秒針のSEで始まるピープル("And I'm Singing" Jim O'Rourke)と対になるような終わり方。夢から覚めるような、世界が切り替わるような。もっと聴いていたかったし、あちらの世界に居たかった。そんな風に自分を変えればいいんだろうと思う。最近よく考える。じわじわ効いてくる。
 次のソロはいつだろう。帰ってこられなくなるくらいどっぷり浸りたい。病気か。


■斎藤宏介 (UNISON SQUARE GARDEN)
 サポートにドラマー海老原諒さん(今日はパーカッションでジャンベ、ウィンドチャイム、スプラッシュシンバル)を迎えての演奏。斎藤さんが海老原さんを「すごく好きなドラマー」と紹介していたのは納得。バランスの良い人で、相性の良い組合せ。
 「オリオンをなぞる」は知っていた! バンド形式よりも夜空に似合いそうなアレンジ、好きだった。


■Laika Came Back
 初見。今日の面子で唯一立っての演奏。一人で5重くらいにギターをサンプリングして重ねて、弾いて歌っていた。ギターって色んな音が出るんだなあ、というところから興味を惹かれる。そしてどの曲も質感が違って、奥深い音の世界を持っている人だと感じる。すごく面白く聴いていた。調べてベテランさんと知り納得!


■尾崎世界観(クリープハイプ)
 初見。ふしぎな惹かれ方をした。ゴッホのひまわりみたいな声だと思った。枯れたように掠れているのに、生命力に満ち満ちている。聴いている人に訴えかける力の強さを、耳だけでなく全身で感じた。演奏と同じくらい詞が気になることが多いのに、どちらも吹っ飛んで圧倒されていた。すごい。どうしてだか解らない。
 詞だけに集中すると、感受性の強い青年の日常、と括ってしまうのは失礼かもしれないけれど、特別だとは感じないのに、音とあの声に乗ると特別になる。
 クリープハイプ聴いてみようと思う。楽しみ!

August 18, 2012

People In The Box 空から降ってくる vol.4 ~劇場編~
@ 東京グローブ座 2日目

 劇場編ファイナル。昨日と同じグローブ座で、昨日より更に遠い席。名古屋から徐々に遠く、ミクロからマクロへ俯瞰していくように観てきた。
 MCで『Ave Materia』告知! タイトルで既に鳥肌。Ave Mariaとのあからさまなアナロジーに、Materia=物質世界(としていいだろうか)への肯定と祝福しか感じない。聴く前からピープルの叫びが頭の中を駆け巡っている。聴かなくてもいいんじゃないの。なんて戯言をうまくぶっ壊してくれるといい。
 テンションがくるったままライブの感想を書きます。

 セットリスト一部変えてきた。「レントゲン」始まりで「鍵盤のない、」終わりの初期曲挟みで、「笛吹き男」~「沈黙」だった名古屋、東京1日目と対照的。生が強く感じられるのは同じで、余韻はかなり違った。
 カメラが入っていたからCut Threeに収録されるかもしれない。演奏は名古屋や東京1日目の方が良く聴こえたのでちょっと惜しい。今日は波多野さんがややお疲れだったような。とはいえ圧倒される瞬間は沢山沢山あった。

 昨年の劇場編のと多分同じ、窓のシルエットがスクリーンに映されてスタート。「レントゲン」、あまり気に留めていなかった《ここは希望の国》にはっとする。今のピープルからは圧倒的な肯定ばかり感じる。冒頭、ゆったりした波多野さんの歌とギターに合わせて、ダイゴマンがふにゃんとした赤いパイプを頭上で振り回し始めた。何事かと思ったら風みたいな音が鳴り出す。メロディーパイプ? 面白い! 確かにこの曲、誰もいない大地を風が吹き抜ける感覚がある。
 ダイゴマンは「El Condor Pasa」でカズー昨日より息が続いてたのも良かった。波多野さんが支えるように体でリズム取っていたのが、いつもと役割逆で印象的。そして安定の福井さん。ダイゴマンによると「これタンバリンじゃなくてタンブリン(? 違うかも)っていうんだよ。タンバリンよりもじゃらじゃらが大きい」らしい。へええ。楽器も曲もいつもと違うから、音のコミュニケーションが浮き彫りになって面白かった。本当に状態の良いアンサンブル。それから「Virtual Insanity」の終盤、間奏で挟まれるハイハット、癖になってふと頭の中で鳴り出したりする。正確で美しくて、というだけではなくて、迫るものがあって。本当にこの人の音は何なんだろう。是非収録してほしいけれど、権利関係とかあるのかな。
 一部ラストは「子供たち」! 予想外でびっくり、嬉しかった。CD音源があれなので、優しい終わり方にほっとする。福井さんのコーラス柔らかくてよく合っていた。最後のららら~以降ダイゴマンも歌っていて、その不器用さがまた良いなあと思う。声はやっぱり特別な音だ。

 二部始まりは「ベルリン」! 久々の赤と緑の照明にテンション上がる。ギター格好良いな。ライブハウスだとあまり手元まで見えないから、あんなに弾き倒していることにびっくり。
 やっぱり新曲が印象深い。今日はどちらも等しく好きだと思った。少しずつ詞が入ってくる。新曲1こと「球体」(多分、AMの収録曲名より)はダイゴマン輪唱もびっくり。波多野さんからより遠い、個がはっきり区別される声を入れたかったんだろうか。この曲だともう少し安定すると良さそう。《僕らは誰も殺せはしない》自分も?
 新曲2こと「ダンス、ダンス、ダンス」本当にこの曲名みたい。珍しく直球。《超然としていたって 頭はからっぽさ》刺さる。
 「水曜日 / 密室」久々ですごく嬉しかった。聴く度に迷路に嵌っていく。
 ラストは期待通り「鍵盤のない、」。名古屋のエンドロールで、多分間違って、この曲名が表示されていたから、きっとやるんだろうと思っていた。バラバラになりたかったから、そうなって、あのアウトロを聴けて、すっきりした。

 エンドロールの音楽、何だろう。"Realize, Realize, You're here, You're here"って聞こえた。ゆったりした男女混声(波多野さんではない)。名古屋も東京1日目も耳に入っていなかった。「気付いて、気付いて、ここにいるよ、ここにいるよ」。ファイナルでこれは、くる。ここにいていいんだと思った。これからもいられるといい。


■セットリスト
◆一部:アコースティック
01. レントゲン
02. ストックホルム
03. 火曜日 / 空室
04. はじまりの国
05. 木曜日 / 寝室
06. El Condor Pasa(Simon&Garfunkelカバー)
07. Virtual Insanity(Jamiroquaiカバー)
08. 土曜日 / 待合室
09. 天使の胃袋
10. 子供たち
◆転換ムービー:ダイゴマンが行く! ~韓国編~
◆二部:エレクトリック
11. ベルリン
12. 親愛なるニュートン街の
13. 犬猫芝居
14. The King of Rock 'N' Roll(Prefab Sproutカバー)
15. ユリイカ
16. 新曲1 球体
17. 新曲2 ダンス、ダンス、ダンス
18. 水曜日 / 密室
19. ニムロッド
20. 旧市街
21. 鍵盤のない、


■MC備忘
・齢
ダ「なかなかアダルティでしょ? アダルト(一部)とヤング(二部)ですからね」
ハ「でも、そんなアダルティって感じもしないかもしれないね。僕ら」
ダ「ああー。ま、ロリ顔ですからね!」(会場笑)
ダ「何歳くらいに見られてんだろ? 健太年上に見られる?」
フ「見られますね。上に」
ダ「波多野ちゃんは?」
ハ「僕、解んない」
ダ「俺は年相応に、まあ」
ハ「いいなあ年相応。何かね、すっごい上か、すっごい下かに見られる」
ダ「すっごい上っていうのは」
ハ「38とか」
ダ「38!?」(会場笑)
ハ「って言われる。それか18」
ダ「18!? それはない、18はないよ!」(会場笑)
フ「精神年齢は18(笑)」 ←!

・好きなこと
ハ「今日は本当に、来てくれてありがとうございます」
(会場拍手)
ハ「あのー、本当に。本当にねえ……こんな風に、好きなことをできるっていうのは、簡単なことだと思ってないんですよ。僕は。……その象徴みたいな曲をやります。これも僕がプレゼンして、これやりたい!って言って、やってるっていう。ふふっ」 →Prefab Sproutカバー演奏




(すごく個人的な感想。
 新譜発表はものすごく嬉しかったんだけど、タイトルを聞いて何となく不安になった。肯定と祝福だけでは生きていけない。ポジティブな方向に進むだけなのかと思うとぞっとした。生きていけない。
 だから「鍵盤のない、」が聴きたかった。初期の、死の匂いのする曲。
 CSツアーで音と血が繋がったような気さえして、もしかしたらそこがピークで、後は離れていくだけなのかもしれない。だけどこの劇場編で聴いた二曲はすごく良かったから、ただの杞憂かもしれない。
 好きになり過ぎたかもしれない。ばかだなあ。
 タイトル発表されただけでここまで考えるのも、ばかだなあ。)

August 17, 2012

People In The Box 空から降ってくる vol.4 ~劇場編~
@ 東京グローブ座 1日目

 前回の名古屋から5日後、再びの劇場編。自分に戸惑うくらい名古屋とは全然違う見方をした。二度目かつ席が遠くなったからか。すごく楽しかったけれど、どこか一歩引いて眺めていた。観る位置は重要なんだと今更。

 セットリストは名古屋と全く同じ。いつもちょこちょこ変えてくるピープルにしては珍しい。確かにすごく良いセトリ。
 照明の配置のせいか、舞台背景や舞台脇に映るメンバーのシルエットが格好良い。後方でも充分見やすく、音も良い。何よりシェイクスピアと繋がりのある場で聴けて、個人的にテンション上がる! 16世紀に英国民が集ったように、21世紀の今ピープルを観に集う。26世紀にも同じように人は集うはずだ。余談。

 アコースティックパート、テンポゆっくりな演奏、特に「技法」が難易度高そう。ひとつひとつの音の解像度が高くないと、引き伸ばされた時に耐えられない。だからこの曲名なのか。客としてはじっくり味わえてとても面白い。
 カバーは、二部のもそうで、慣れが出てくると面白さが薄れてしまう。けれども福井さんのマルチさと輝きっぷりは今夜も素晴らしかった。「Virtual Insanity」の格好良さったらない! そして波多野さんが危機感をストレートに - it's a crazy world we're living in - ぶつけるのは英詞だからか。1996年の発表から10年以上経って一層危機感が強くなってしまった今、この曲を再発見したセンスに震える。
 「汽笛」名古屋よりは落ち着いて聴けた。本当に汽車が進んでいくようなエレクトリックに対して、アコースティックは人が手と手を取り合って踊ったり、歩いたりしながら進むイメージ。3拍子パートのワルツみたいな軽快さが最後に戻ってくるところで、ちょっと置いていかれそうになりつつ、また踊り出すような。解き放ってくれるアレンジ。体が軽くなった感覚。ありがとう。

 韓国へ行ったダイゴマン、ファンにお土産くれるサプライズ素敵だ(書かなかったけれど名古屋でもあった)。場内の一名様の座席に仕掛けてあることがライブ終盤明かされ、各々探ってみるという趣向。今回はなかなか見つからず、終演後に皆で探したね。席近かったから一緒にごそごそしてた。無事見つかると、会場全体から拍手!!
 ピープルのお客さんあたたかいなあと思う。なんであんなにあたたかい人達がピープルを聴いているのか、とつらつら考えて、ピープルがあたたかいからだ、と単純な答えが出た。そこを共有しているから皆集ったんだ。きっと。

 二部、「し」みん→「し」んしがい→「し」んあいなるニュートン街の、の連なりで幕開け。
 名古屋では新曲2、今日は新曲1が好きだった。そんなこともある。新曲1《球体に護られて 体は痣だらけ》《声を返せ》《僕らは誰も殺せはしない》《空を返せ》。奪われたものを取り戻そうとする強い叫び、CSの基調を継いで進んでいる。出だしがかなり格好良い。福井さんがダイゴマンの方に身を乗り出して2人でタイミング図り、爆発的なスタート。曲も前はあまりぴんと来なかったのが、今日はするする入ってきてメロディー覚えた。これと新曲2が入る次のアルバム、一体どうなってしまうんだろう? 間違いなくまた好きになる。
 新曲2の哲学者は《とても厳しかった》人で、歌い手は《許してもらえなかった》らしい。後半《ついていい嘘なんてあるはずない》と聴こえて、今日はこのフレーズがぐるぐるしている。そんなことないよVSそうだろうか。
 「金曜日 / 集中治療室」も前よりは落ち着いて聴いて、でも楽しくて仕方ない。《翌朝~消えていくよ》でテンポがぐっと落ちた後、走り出すようなスネアに導かれて戻っていく緩急好きだ。曲の深み。

 ラスト「沈黙」。名古屋で受けたものすごい衝撃は和らいでしまった。代わりに噛み含めるように聴こうとしたけれど、やっぱり名古屋ほどは打たれなかった。帰結が判っているから予定調和みたいに感じてしまったのだと思う。二度目は難しい。
 冒頭、ダイゴマンのアレンジは初? 名古屋ではあんな粋な音に気付かなかったんだろうか。波多野さんのギターリフのあちこちに、多分即興で、色んな音を散らす。特に印象的なのがフロアタム。張り詰めた氷の下、地中深くのマグマのような熱に、CSツアー「冷血と作法」を思い出す。怒りだと感じた。数倍の緊迫感でスタートしたからいつも以上に引き込まれ、アウトロの音のまとまりにほっとして力が抜けた。

 明日はどうなるんだろう。大体雰囲気も曲も判っているのに、どんな受け止め方をするか予想できない。劇場編ツアーファイナル、こわさ半分で楽しみにしている。


■セットリスト
◆一部:アコースティック
01. 笛吹き男
02. 技法
03. 火曜日 / 空室
04. はじまりの国
05. 木曜日 / 寝室
06. El Condor Pasa(Simon&Garfunkelカバー)
07. Virtual Insanity(Jamiroquaiカバー)
08. 土曜日 / 待合室
09. 天使の胃袋
10. 汽笛
◆転換ムービー:ダイゴマンが行く! ~韓国編~
◆二部:エレクトリック
11. 市民
12. 親愛なるニュートン街の
13. 新市街
14. The King of Rock 'N' Roll(Prefab Sproutカバー)
15. 見えない警察のための
16. 新曲1 球体
17. 新曲2 哲学者、ダンスダンスダンス
18. 金曜日 / 集中治療室
19. ニムロッド
20. 旧市街
21. 沈黙


■MC備忘
・B'z
ダ「ギターどれくらいやってるの?」
フ「僕、ギターから始めました」
ダ「ああー! ベーシスト多いよね!」
フ「B'zとか弾いてた。Pleasure/Treasureとか」
ハ「えっ? 全然知らんかった」
ダ「ああ、あの金と銀のやつね! (客に)皆知ってる? えっ知らない? 波多野ちゃん知ってる?」
ハ「B'zを?」(会場笑)
ダ「いやいや、B'zのPleasure/Treasure、金銀のやつ」
ハ「あー、そういうのが、あるのね(笑)。でも僕、B'zは結構知ってますよ。有名なのは結構。B'zで古今東西とかやったら絶対楽しい!」
フ「やったことある」
ダ「まじで?! 何やった? 俺全く覚えてない」
フ「一番上手かったのはね、波多野ちゃん」
ハ「(笑)」
ダ「この話これ以上やめよう! 誰かがやらなきゃいけない流れになる(笑)」

・麻薬
(ダイゴマン英国で薬を売りつけられそうになった話から)
ダ「初海外でマリファナだぜ? ぞっとしたね!」
ハ「あっちじゃ煙草感覚らしいよ」
ダ「って言うよね」
ハ「でも、そういうの要る?って思うよね」
ダ「?」
ハ「脳内麻薬でさ、こう、うわあああ~ってさ。なろうと思えばなれるじゃん、俺達」
ダ「はい!?」(会場笑)
ダ「(客に)あのー、110番はしないでくださいね」(会場笑)

August 12, 2012

People In The Box 空から降ってくる vol.4 ~劇場編~
@ セントレアホール

 成田から空路、セントレアへ! 昨年に続いての劇場編。
 会場は、MCでも話題になったように、普段は講演や説明会をしていそうな事務的なホール。そこにピープル。さすがに照明は制限されたようだけど(水中みたいな青色、使えなかったんだろうか)音は良かった。良席だったこともある。

 良席で、更に舞台と距離が近いこと、あとセットリストが多分に影響したと思う。今までで一番効くライブだった。「生」を強く強く感じた。だから、どちらかといえばしにたくなった。その意味で、いつか波多野さんがライブを毒だと自称していたことに初めて頷けた。
 詞に肯定が多いことに今更気付く。生の肯定と言い換えていい。今日の曲から拾ってみると《いいんだよ》《光り溢れ》《世界は美しい》《大丈夫さ》《いいよ》とか。ひとつひとつが効いた。ピープルはいつだって生を鳴らしているんだと思った。その希望を見守っているつもりで、でもずっと支えられてきたんだった。本当に今更だ。
 というのはCSツアーでもぼんやり考えていて、今日ピントが合った。
 好きでいるうちは好きなだけ好きでいようと思う。

 昨年と同じ二部構成。一部アコースティック、転換でダイゴマンムービーを挟み、二部はエレクトリック。ゆるいトークとカバー曲、そして新曲! 構成要素は昨年と似ている。だけど驚くくらい前に進んだ。夏の気配がいっぱいに詰まったCSの曲を多く聴けて嬉しい。まだまだアルバムの世界が広がっていくのは本当に楽しい。

 一部は座ってじっくり聴くスタイル。冒頭「笛吹き男」で呑まれる。《今夜、最高の嘘が本当になる》に、やれるものならやってみせろ!と一応抗ってみるが、いつもピープルの勝率100%なのは解ってる。抗いはたちまち消えて、楽しさに転化。
 ずっと傍らで出番を窺っていたバンジョーに波多野さん何気なく持ち替えて「木曜日 / 寝室」、合い過ぎ。そのままSimon&Garfunkelのカバーで「コンドルは飛んでいく」! 福井さんタンバリン、ダイゴマンボンゴ+カズー?みたいな笛。曲調や楽器や国が変わっても、アンサンブルは完全にピープルなのが嬉しい。更にカバーで、いつもの楽器に戻ってJamiroquai「Virtual Insanity」、めちゃめちゃ格好良い! それぞれの音が渦のようにまとまって、舞台が客を巻き込む磁場みたいになっていた。ピープルでこんな風に感じたのは昨年の「1000 Knives」以来かも。カバーいいね。なんて柔軟な人達。そして「天使の胃袋」から、何と「汽笛」! 嬉し過ぎてあまり覚えていないパターン。アコースティックだと詞が余計に沁みる。

 転換でダイゴマンムービーまさかの韓国編、羽田から仁川へ。「ダイゴマンが行く!」というより「ダイゴマンが行かされる!」なノリが程良くクレイジー。昨年に続いての寝起きドッキリもあるよ☆ ずっと笑ってたらいつの間にか転換終わってた。

 二部はエレクトリックでスタンディング。「市民」始まりでがらっと空気が切り替わる。波多野さん「僕のエゴをやります」からのPrefab Sproutカバー「The King of Rock 'N' Roll」が印象的。何がって福井ベースの格好良さ! 今夜、特にカバー3曲の福井さんの輝きっぷりったらなかった。バランスを取るのがすごく上手なんだろうと思う。「アールバーカーキ♪」で締めた波多野さん、楽しさが溢れたみたいに笑ってた。音楽って本当にすごい。
 新曲2曲! その1は「市民」に近い攻撃的な印象。その2がすごく好きだった。引っ掛かる音が沢山あるのに一聴ですっと入ってくる、ピープルらしい曲。詞の冒頭で《哲学者》が出てきてはっとする。哲学者は嘘を許さないから、みたいなフレーズがずっと頭の中をぐるぐるしている。ガムテープでぐるぐる巻きになったり、銃殺刑になったりする君、最近はいかがお過ごしだろうか。ダンス! ダンス! ダンス!ってキー概念が叫ばれていたのも印象深い。《いっそ踊ろうかな》のレベルじゃなくなっている。安直に春樹を連想した。
 そして久々の「金曜日 / 集中治療室」! この辺りも楽し過ぎて覚えていないくらい。手拍子楽しかった! ダイゴマンのホイッスルでテンション振り切れる。「ニムロッド」「旧市街」は最早定番。「旧市街」アウトロの最後で福井さんのストラップ切れるトラブル、初めて見たびっくり。こんなところで定番を覆すか。本人はどうしよ!って風に笑ってスタッフに合図を送りつつそのまま、ベース替えて最後の曲へ。

 予想外の「沈黙」。始まって「沈黙」だと解り、その重みがずんとのしかかって、衝撃で半分放心しながら聴いていた。生きろ、生きろ、生きろ、と叫んでいる曲だと気付いたら泣きたくなった。不意打ちだった。CSツアーで終わりじゃなかったんだね。
 タイトルがすごく好きです。沈黙。一番好きかもしれない。
 バスドラのリズムがようやく解った。単純なパターンの繰り返しで、ずっと解らなかったのが今となっては謎。油断すると泣きそうなので、気を紛らすようにバスドラを追っていた。けれどどの音も生命を鳴らしているから同じことだった。逃げ場がない。
 そういえばダイゴマンのセットびっくりした。シンバル小さいの含めて10枚くらいあった気がする。要所要所で気を引く父性的な音と、しなやかで繊細な母性寄りの音と、併せ持つアンドロジナスさが、あれほど生命を感じさせるのかもしれない。

世界との絆を断たずに、わたしたちのうちに自由を生み出すことができる方法を理解するのは、わたしたちのつとめである。
(モーリス・メルロ=ポンティ『意味と無意味』所収「セザンヌの疑い」より)

 ピープルは一体どこまでいくんだろう。

 最後の方でいつもの挨拶「今日は来てくれてありがとうございます」に大きな拍手を受けた後、ほとんどオフマイクで「ほんとうに、ありがとう」と呟いた波多野さんの柔らかい声音が忘れられない。こちらこそ、ほんとうに、ほんとうにありがとう。もう少し考えてみることにするよ。


■セットリスト
◆一部:アコースティック
01. 笛吹き男
02. 技法
03. 火曜日 / 空室
04. はじまりの国
05. 木曜日 / 寝室
06. El Condor Pasa(Simon&Garfunkelカバー)
07. Virtual Insanity(Jamiroquaiカバー)
08. 土曜日 / 待合室
09. 天使の胃袋
10. 汽笛
◆転換ムービー:ダイゴマンが行く! ~韓国編~
◆二部:エレクトリック
11. 市民
12. 親愛なるニュートン街の
13. 新市街
14. The King of Rock 'N' Roll(Prefab Sproutカバー)
15. 見えない警察のための
16. 新曲1 球体
17. 新曲2 哲学者、ダンスダンスダンス
18. 金曜日 / 集中治療室
19. ニムロッド
20. 旧市街
21. 沈黙


■MC備忘
・Jamiroquai
ダ「(客に)えっ、Jamiroquai知らない? カップラーメンのCMとか」
ハ「あれは、ファンの間では賛否両論だったよね」
ダ「へー、そうなんだ?」
ハ「僕は複雑でしたねー。……美味しいけどねー」
ダ「カップラーメンね(笑)」

・演奏歴
(「火曜日 / 空室」後)
ダ「ギター上手いね!」
フ「いやいや」
ダ「いつからやってんの?」
フ「……?」
ダ「(客に)2歳だそうですよ! 2歳からギター持ってる」(会場笑)
フ「もっと上手い上手い(笑)」
ダ「ああ、2歳からやってたらね。もっと上手い(笑)。波多野ちゃんは? いつからギター始めたの?」
ハ「僕、弾いたことありません」
ダ「? あ、初心者の気持ちってこと?」
ハ「いや、ギターを持ったことがありません」(会場笑)
ダ「こうやってね、会話が成り立たない(笑)」
ハ「日常風景だね(笑)。大吾は? いつからドラムやってんの?」
ダ「ドラム叩いたことない!」(会場笑)

August 11, 2012

ハイスイノナサ @ SHIBUYA O-nest

 初ワンマンソールドアウトおめでとう! 特に最後の方、すごい盛り上がり! 前よりもずっとエネルギーの大きなライブ。終演後「やばい」「すごい」「やばい」って声があちこちから聴こえてきた。まだまだ行けそう。
 単純に人数が多くて(4人+ヘルプ1人+ゲスト)迫力あるのは勿論、勢いのある演奏だった。行けるところまで行ってやる!みたいな若さ。新譜割とミニマルな響き方をしているのに対して、ライブはロック感が強い。言ってしまえば残響ぽい。ハイスイに限らずライブってそうなるものだなと思う。どちらにも良さがある。
 前聴いた時は都市の醒めた空気に満ちていたけれど、今日は都市に溢れるざわめきの方を強く感じた。ロック寄りになっていくんだろうか。とはいえ観たの二度目でまだまだ掴みきれていないし、残響ぽいのも好きだ。

 ざっくりと流れ:序盤は多分2ndまでの曲(知らなかった)、静かな曲ゾーンを挟み、中盤から「地下鉄の動態」ほか3rdの曲を沢山やって、本編最後が「動物の身体」。この帰結すごくいいね。アンコールで「ある夜の呼吸」、Wアンコール「ハッピーエンド」で締め。途中「モビール」聴けて嬉しい。
 ゲスト豪華! 途中Aureoleのフルートさんやthe cabsのドラマーさん(よく見えなかった、トライアングルで参加?)。texas pandaa出川さんのコーラス、鎌野さんによく合ったやさしさで素敵だ。

 SEがライヒ「Three Tales」! 納得と歓喜。とりわけピアノの奏でる奇妙なうつくしさにシンパシー。ライヒは不安や混沌、ハイスイは醒めた都市の、それぞれざわめきのなかピアノが声を上げているところにすごく惹かれる。
 追いかけたいバンドが増えて嬉しい。また、ぜひ。

August 1, 2012

maskz presents U-NITE @ 代官山UNIT

 脱原発派がUNITでUNITEしようぜ的なイベント。
 ミュージシャンもトークセッションの先生方も何とも豪華。仕事帰りに5時間立ちっ放し、しかも終電、だけどたまにはこういうのも楽しいよね!!ってスキップしながら帰途に着いた。楽しかった。

 音楽の感想を書きます。

■小林武史×Salyu
 同じ舞台にいる2人を見るのが何年ぶりだかで、それだけで来て良かったなんて考えるくらいには思い入れがある。小林さんのピアノも久しぶりで、やっぱりとても好きだと思った。迷ったところで背を押してくれる打鍵の頼もしさとめいっぱいの優しさ、そんな疑わしいはずのものが、心をダイレクトに揺さぶってくる。何だろうな。抑えきれない自己主張は欠点と呼ばれるのかもしれないが、ふと垣間見えるこの人のそれはいとしい。どうしようもない。恋(仮)か。
 芯の通った濃密な選曲で、2人の今がよく伝わった。またね。
●1. VALON-1 2. 悲しみを越えていく色 3. to U

■細野晴臣 with 高田漣 & Salyu
 細野さんも数年ぶり。声の渋みと甘みに呑まれてどろどろに溶ける感覚、に身を任せていられる安心感。掠れる声も手探りみたいなギターも、全てが音楽の旨みになる。すごく余裕がある。ほんとこんな老年になりたい。
 さすがのSalyuにも緊張の色あり、控えめなコーラスワーク。張らない声を思わぬところで聴けてしんみり。Smileを低いキーにした理由「この曲はお話するくらいのキーで歌いたかったの」。うん、とても良かった。
●1. Smile (Nat King Coleカバー) 2. I Love How You Love Me (The Paris Sistersカバー) 3. 悲しみのラッキースター

■青葉市子 guest 小山田圭吾 + U-zhaan & Salyu
 この心躍るラインナップ! 期待を超えてすばらしかった。
 青葉さんソロの「ひかりのふるさと」でスタート。アンコール定番曲、冒頭に来たのは珍しい、と思っていたらここからだった。小山田さんギターで入って「日時計」、U-zhaanタブラで加わり、青葉さん「この場にふさわしいか判らないですが、原子力発電所が主人公の歌です」との紹介で「IMPERIAL SMOKE TOWN」! 特にIMPERIAL、エネルギーが倍加していてすごい。2人の音にやや押され気味な序盤から、逆に後押しされるようにして声が、音が、大きく広がって前に出てくる過程に鳥肌。遂には複数の音のうねりをまとめあげる統率者のように見えて、怒りに似た激しさを感じた。まだまだいけると思う。今後に期待。
 更にSalyuが登場してsalyu×salyuの「Sailing Days」! IMPERIALとは打って変わって、ファンタジックな船に乗って本当に航海しているような爽やかさ。やわらかな風みたいなSalyuのコーラスをまとって主旋律を担う青葉さんの声は、涼やかに白波の上を滑っていく。そんな声を擁する船を造る楽器達のリズムの気持ち良さったらない。すごく良かった! 締めは「続きを」。本当に、続きをもっと見ていたかった。是非このカルテットでまた。
●1. ひかりのふるさと 2. 日時計 3. IMPERIAL SMOKE TOWN 4. Sailing Days (salyu×salyuカバー) 5. 続きを (salyu×salyuカバー)

■100%ユザーンとラダーン195
 ラダーン195=原田郁子さん。外見もユザーンとコラボしたような、ふわふわアフロのウィッグが似合う。初見で、舌っ足らずな歌い方は苦手かなと思ったけれど、タブラとのマリアージュが新鮮で面白く聴いていた。

■toe
 この面子だとちょっと浮いている気はする。誰繋がりだろう。
 実は45分押しで、始まったのが23:45。山嵜さん第一声「もう終電ないっしょ?」。客が結構帰ってしまっていて、UNIT1/3くらいの埋まり方。前方でゆったりtoeを観られるなんて、思わぬ贅沢。
 toeも数年ぶり。彼らの音に巻き込まれていくような感覚。大抵、音に圧倒されたり、音から一歩離れたところから眺めていたりという関わり方を音楽としているのだけど、toeには自分が巻き込まれていく。ふしぎ。柏倉さんを中心に聴くことが多かったけれど、今日はtoeの総体を楽しんだ。
 MCで山嵜さん(散々な下ネタの後)「まあ、原発にはグッドバイってことですよ」からの、期待通り「グッドバイ」! ボーカル郁子さん、幼さがこの曲の葛藤によく合っている。日付も変わって00:35、テンション最高潮に上がって無敵な気持ちになった! 久しぶりの感覚を抱えて、楽しく終電にダッシュ。間に合った良かった。


 トークセッションがUSTアーカイブ化されているのでメモ。原発に限らず持続可能な社会について語られていた。しかし音声が聞こえないのは自分の環境のせいか……。
 中沢新一×小林武史×宮台真司 http://www.ustream.tv/recorded/24394204
 中沢新一×高橋源一郎 http://www.ustream.tv/recorded/24395631

June 30, 2012

理性は秩序を紡ぐが、混沌はこれを誘惑する。涅槃原則の衝動が理性を越境し、集合的無意識を惹起する時、秩序は分断から解放され全一となる。恍惚の源泉は混沌に有り、万物は混沌に帰する。
@ 下北沢GARDEN

 どう見てもte'の企画です。イベント名でそれと解るってすごいな。独自の言語。

■People In The Box
 間に英国フェスや弾き語りがあったとはいえ、エイプリルフールぶりの3人の音。とにかく嬉しかった! そして、やっぱり特別に好きだと思った。余計な思考が入らず音に集中できる。集中できるのは幸せなことだ。
 最近のピープルの色んな面が詰め込まれたバランス良いセトリ。故意か偶然か「ニ」ムロッド→「し」みん→「に」ちようびよくしつ→「し」んあいなる「ニ」ュートン街の、って言葉遊びみたいで面白い。
 久しぶりだからか、湧き出るエネルギーよりも出来上がる形を大事にした演奏に聴こえた。やや固め。「日曜日 / 浴室」が3曲目に来ると思っていなくて(終盤で登場する大物のイメージ)、「市民」からの攻めの感じが新鮮で、とても良かった。いよいよ「親愛なるニュートン街の」を夏に聴けるのが嬉しい。夏の匂いの濃い『Citizen Soul』が1月に出てからずっと待ち望んでいた。他の曲も8月の劇場編で聴けるといい。「レテビーチ」の突き破って溢れてくるような快感もすごく良かった。
 ダイゴマンMCでラジオの告知、劇場編の告知、そして『Lost Tapes』告知! Candle Lightで披露されたアコースティックドーベルマンの音源化歓迎! 更に気になったのがこれ:「『天使の胃袋』アコースティックバージョンが収録されます! あと、悪魔の……あ、これはいいや」。何だ! 悪魔の、何なんだ! 新曲に期待。

●セットリスト
1. ニムロッド 2. 市民 3. 日曜日 / 浴室 4. 親愛なるニュートン街の 5. レテビーチ 6. ユリイカ 7. 旧市街

●MC備忘
は「どもども、ピープルインザボッk?s%&#」
客「?(拍手)」「しっかり!」「しっかりー!」
は「っせえ(笑)」


■クリプトシティ
 事前情報なく初見。オルタナ? ハードロック?というのか、低音が重厚なスリーピースの演奏+デモニッシュなボーカルの4人。開始後数分と経たずピープルのイノセンスが彼らの色に塗り替えられて圧倒された。ベースが凄かった。思いも寄らないフレーズが次から次へと展開されて釘付け。気になって調べたら、ナンバーガールのベーシストなのか。伝説の一端を目の当たりにしていたみたいだ。
 ボーカルは西洋の人? たぶん全英詩。あまり聞き取れず、でも「お前の大事な冷蔵庫の中身を全部食っちまうぞ」とか言ってそうな気迫(違ったらすみません)。客席を巻き込むパフォーマンスが上手い。MCではヘヴィなオルタナ色から一転、「クリプトシティと申しますー」「タノシイナ!」ってかわいい感じ。そんなギャップずるい。
 こういう音はライブで時々聴くとすごく楽しい。頭の中が嵐の去った後の街みたいになる。諸々吹き飛んで、残骸はぽつりぽつりあるんだけど、すっきりした気持ち。晴天のすっきりとは違っている。また聴けるといい。


■te'
 初見。バタイユの語る戦争のような演奏。つまり?と思い、訳書を引っ張り出す。

 戦争は組織化された暴力なのである。禁止の侵犯は動物的な暴力ではない。たしかに暴力ではあるのだが、理性を行使しうる存在(場合によっては暴力のために知恵を使う存在)によって実施された暴力なのである。
 - ジョルジュ・バタイユ『エロティシズム』より

 そんな演奏だった。要はドラムス。少しもよろめいたり迷ったりしない理性で、暴力的なくらいに大きなエネルギーを行使しているのが不思議。ギターやベースは割と思うがままに暴れているんだけど、全体としてはドラムスに組織されていて理性的。このバランスが成立し得るんだなあ、というのを思い知らされていた。イベント名は混沌寄りだけど、どちらかといえば理性が勝っている印象。何だか頭を使って聴いてしまったが、そんなことは放っておいてもすごく楽しかった。
 あの長い曲名、イベント名のペダンティックな雰囲気に気後れしてあまり聴いていなかったのに、感想を書いたらそれこそペダンティック? 付けられた名前と音は実は結構一致しているのかもしれない。
 アンコールでダイゴマン乱入! 「乱入」って言葉がぴったり。やりたい放題ドラム叩きまくって締めの音まで鳴らして去っていった。te'のドラマーはハンドマイクで客席に身を乗り出してアジテーターと化し、こちらもすごく楽しそうだった!

June 28, 2012

青葉市子 独奏会 @ 原宿VACANT

 VACANTで半年続けてきた独奏会はこれで一区切りだそうで、満員御礼。
 会場の使い方が縦長→横長となり、青葉さんとの距離が全体的に近くなる。友達の家に来たような、それでいてふしぎな集会に参加しているような雰囲気は変わらず。
 夏の少女的な出で立ちで登場。チャコールグレイのワンピースに足元はショートブーツ、ギターの栗色がよく映える。腰に水色花柄のスカーフがおしゃれさん。ストローハット(と呼ぶべきおしゃれ感)を脱いで傍らの机にディスプレイ。机には青いラインの入った白のテーブルクロスが掛けられ、ガラスの瓶に向日葵が数本飾られている。

 忙しない東京での毎日で、置き忘れたものをひとつひとつ手繰るように耳を澄ましていた。そんな感覚をくれる稀有な人。東京で歌っていてくれて本当にありがとう。

 始まりは「不和リン」「腸髪のサーカス」、salyu×salyuのイベントで一気に引き込まれた曲達が立て続けに。「日時計」の相変わらずのぐるぐる感や大貫妙子「夏色の服」のカバーもすごく良い。大貫さんと青葉さんが合わないはずもなく。そして季節を大切にした諸々の演出のお陰でとても居心地良い。
 15分くらいの休憩を挟み、二部開始。これがすごかった。
 「おもいでカフェ」はもう大好きな曲。小さなグラスの水面がひたひたになるくらいの幸せ感。
 続く「ソウル」がすごい。「小池アミイゴさんの個展に行ったんです。アミイゴさんのお子さんの、ソウルくんって子がいて。色々喋りかけてくれるんですね。でも、ソウルくんはまだ2歳なんです。だからまだ言葉になっていない、音の粒たち。それを、なになに?って聞いて、メモして、持って帰って、曲を付けました」。詞と音の絡み方が面白い。「パーパ、マーマ」「いやいや」なんて聞こえるところもありつつ、基本は意味を持たない音の繋がりで、だけど音に乗るとめまぐるしく一瞬一瞬生きているこどもの様子が見えてきてすごく楽しい。最後「ダッ!」で終わり、ギターかき鳴らして締めた後「ふふっ」て思わず笑みを零した青葉さん可愛い。何て自由に曲をつくる人なんだろうかと改めて思い、次に生まれる曲がまた楽しみになった。
 1年と3ヵ月過ぎても予断を許さない状況下、「原子力発電所が主人公の歌です」との紹介で演奏される「IMPERIAL SMOKE TOWN」は何も終わっていないと訴えているようで、会場が緊張に満ちる。本当なら、いつかこの曲が歌われなくなる日が来ると良い。けれどそれは途方もなく先だろうから、やっぱりずっと歌っていてほしいと思う。
 その緊張感からの次がもの凄かった。「ちょっと封印していた曲をやります。『機械仕掛乃宇宙』という曲です。わたしが弾き語りを始めるきっかけになった曲で、またやろうって思わせてくれたのは、この独奏会です。この曲をつくられた山田庵巳さんに、尊敬と、感謝を」。太陽のない街というディストピアで生きる「僕」の、ひとつの物語。10分くらいであれだけ物語る曲自体の凄さ。その独特な世界観を持つ曲を取り込んで演奏し切る青葉さんの凄さ。堪らなく濃密な時間で、客の拍手も一際大きく、長く続いた。これは封印もするだろうってくらい大きな曲。凄いひと時に立ち会った。やっぱり青葉さんの歌を聴くと、ひとつの物語を読み終えたような気持ちになる。
 本編終わりは「奇跡はいつでも」、アンコールで「ひかりのふるさと」。きらきらとひかりを残して幕を閉じた。

 MCで「独奏会を続けてきて、打ちのめされたことも、褒められたこともありました。……何だか、卒業式みたいだな。ふふ」と話していた。迷いなく進んでいるように見える彼女にも打ちのめされるようなことがあるんだなと思う。満員のVACANTで皆が聴き入っている、あのあたたかさを信じてみてほしいと願う。見守るよ。
 終演後、11月の独奏会ファイナル@自由学園のチケットがいち早く販売されていて、長蛇の列に思わず笑った。5ヵ月も先なのに脅威のリピート率。またこの日になくしたものは取り返せるから、それまで生きてみてもいいんじゃないか、なんてチケットを手にしておもった。ありがとう。


■セットリスト
01. 不和リン
02. 腸髪のサーカス
03. レースのむこう
04. 日時計
05. 夏色の服(大貫妙子カバー)
06. 路標
---
07. おもいでカフェ
08. ソウル
09. パッチワーク
10. IMPERIAL SMOKE TOWN
11. 機械仕掛乃宇宙(山田庵巳カバー)
12. 奇跡はいつでも
---
EN. ひかりのふるさと

♪「レースのむこう」

June 17, 2012

MAGNE4 @ 下北沢ERA

 初見のバンドツーマン。WOZNIAKの企画。初ERA、煙草の匂いがきつかった。

■ハイスイノナサ
 ピアノ(キーボード)の絡み方、鳴り方が好きなバンド。それはライブでも変わらなかった。むしろ更に好きになった! 今年2月にキーボード担当が脱退したそうでヘルプを入れての演奏だったけれど、初見だからか気にならず。あとは、音源よりもずっと残響ぽい、エモいな、とか。照井弟さんのコーラスワークはすごくきれいだとか。
 それより何より印象深いのは、都市と、海と、雲の動きの音がして、それを鳴らしているのが人だということ。基本は人が、休日のオフィス街みたいながらんとしたフィクションを滑っていくような都市感。そこに穏やかな海をたゆたうような気持ち良さがあったり、見上げた雲の動きに自分の意思が一切関係しない次元をみる冷静さがあったりする。聴覚だけではなくて、感覚全体を揺り動かされるライブ。そんなところはフランス印象派のピアノと似ているかもしれない。けれど都市の醒めた空気をまざまざと感じるライブは初めてで、戸惑いすら覚える。
 まだよく知らなくてセットリストは解らない。「ハッピーエンド」と紹介された曲、途中で手拍子の入る曲(覚えたい!)、新譜から「ある夜の呼吸」「波の始まり」はやったかな。音源集めよう。8月のワンマンがすごく楽しみ!




■WOZNIAK
 アルコールと共にゆらゆらくねくねしたくなるクラブミュージック。こういう、反復と少しの変化を繰り返していく系の脳内麻薬出そうな音は久々で楽しかった。けれど1時間以上切れ目なく、ひたすら立ちっ放しなのはちょっと辛い。ソファで休憩しながら、好きなフレーズが来たら踊ったりしたい。
 最後のMCが印象に残っている。音楽性の変化(以前はロックバンド寄りだったらしい)、これからも変化していくということ。とても純粋だと思った。ゆえに、この先どうなるんだろうかとも思った。

●セットリスト

6/17WOZNIAKセットリスト1.ATTACK2.BEAMS3.SEVEN4.ASURA5.ACID6.元7.ハウシー8.ドラム叩く(ゲスト:照井順政/鎌野愛fromハイスイノナサ)続く。

— WOZNIAK_BAND (@WOZNIAKBAND) June 18, 2012

May 23, 2012

波多野裕文「壱日の孤独」vol.2 @ 北沢タウンホール

 前回の公演名から「壱」と大字に変わり、「vol.2」が付いた。
 新しい試みがふんだんに:ライブペインティング、ギター二本使い分け、1曲アカペラ、バンジョー・オルゴール・カリンバ登場。今回のオリジナル曲は全て1年~1年半以内に書かれたそうだ。
 前回とはだいぶ雰囲気が違った。前回は「和やかで、温かく満たされた空間と時間」、今回は独自色がより濃くて聴き入る・見入るパフォーマンス。ピープルの曲なし、リクエストコーナーなし、カバー1曲、他全てオリジナル、と内容の相違も大きいし、会場も気楽な晴れ豆から全席指定の古い区民ホールへ。
 ソロで今やりたいことをやれるだけやったという印象。「ピープルのギタボの人のソロ」の域を抜けて「波多野裕文」という個性が育っている。次にどこへ行くのか解らなくてぞくぞくする。本当に楽しみな人だ。

 以下、個々のメモ。7曲目の衝撃で色々吹っ飛んでおりすみません。そして長い。


◆一部:弾き語り

1. タイトル不詳(初披露)
◇アカペラ。いきなりチャレンジング。ギターがないためか足が終始ゆらゆら。
 《中国に行ってみたい》というフレーズが悠々と繰り返される。中国に行って知らない人に会ってみたい、というような詞。まどろみの中をたゆたうような心地良い声。

2. タイトル不詳(初披露)
《言葉はとても大切なものだ》《ゴリラはバナナを全然理解できない バナナはゴリラを全然理解できない》《僕は君を全然理解できない 君は僕を全然理解できない》《僕にお金をちょうだい ちょうだい ちょうだい》《言葉はどうでもいい》《言葉はとても大切なものだ》
「雑誌とかでアーティストが、こういうメッセージを伝えたいから書きました、とか言うでしょう。あれは嘘です。(会場笑) あれは、訊かれるからそう言うんであって。僕何でこんな曲書くのか全然解んないです」
◇突如切り込む♪ゴリラはーバナナをー全然理解できなーい、のインパクトよ。突き抜けたバランス感覚最高。
 個人的に仮題「メルロ=ポンティ」とした。《理解できない》その先に興味がある、けれど哲学に偏ると面白くなさそうだし(音楽と哲学の相容れなさについて考え続けてる)、いや彼ならうまく取り込むと思うが《哲学は銃殺刑だ》そうなので静観。

3. タナトス3号(仮)
《ヤコブを片隅に置いて 空白はあるか》
◇もはや定番、また聞けて嬉しい。最初のメロディーで持っていかれる。

4. 鍵穴だらけ(初披露)
《鍵穴の形の目》《鍵穴の形のドア》《鍵穴の形の鍵》
「鍵穴だらけ、という曲です。鍵穴だらけとしか言いようがない」
◇さすがとしか言いようがない。《鍵穴の形の 鍵》で丸呑みされた感覚に目眩。自己と対象が突如反転する恐怖は快楽に変わり得るな、とか。是非みんなのうたに選ばれて皆さんにトラウマを植え付けてもらえないか。

5. コンコルド
◇タナトス3号に続き定番か。良いなあ、と感じつつ鍵穴の形の思考回路。

6. タイトル不詳「雪の街」
《ただの名前に過ぎない》《街は未だにドレスリハーサルの途中》
◇QUIET ROOMでの一曲目。

7. Untitled 4 / The Nothing Song(Sigur Rosカバー)
「いいですか、伝家の宝刀を抜きますよ?」→ケースから取り出して「バンジョーっていう楽器です(ドヤァ)」
「あの、最初にカバーやらないって言ったけど、やります(笑)。シガーロスの、名前のないアルバムの名前のない曲をやります。でも、途中でやめるかも。何でかっていうと……弾けないから、ははは」
「(中盤で)もーだめだー……」→おしまい
(終わった後)「バンジョー見せたかっただけっていうね! 今度は1日25時間練習してきます。ふふっ」
◇波多野さんがシガロス波多野さんがシガロス波多野さんがシガロスが波多野さん
 ↑終演後最初のツイート。脳がショート。楽しむ余裕とかまるでなかった。もう一度聴きたい! 『Hopelandic Hatano』ってミニアルバムとか出せばいい! いいね! ありそうー!!
 少し冷静に考えると、シガロスのカバー自体レアだから衝撃がより大きい(前回のビョークはここまで驚かなかった)。「Untitled#4」は良い選曲。鎮静作用のあるやさしい声、「土曜日 / 待合室」に近い。ヨンシーのほとんど天啓みたいな遠さに対して、手の届くところにいてくれる薬箱のよう。バンジョーも良いね。凡庸にならない。
 気になった人は是非原曲も。シガロスファン増えるといい。そして今夏サマソニと空からvol.4がかぶったことで共に悩もう!!
 『Valtari』日本先行発売日に因んでやってくれたなら粋だな。偶然か。どっちだっていいや、ありがとう。

8. タイトル不詳(初披露)
◇引き続きバンジョーで演奏。銀行強盗がどうのという詞。前の曲で頭がいっぱいでよく覚えていない。残念。《からだもこころも売れるものなら売ってみたい》《籠は上に向けておいて》《経済が降ってくる》がこの曲?


◆休憩(5分) 周りからゴリラゴリラ聞こえてきて笑った。


◆二部前半:ライブペインティング(30分)

 ゲスト加藤隆さん登場! 紹介もそこそこに「やろっか。説明のしようがないもんね」とスタート。舞台にセッティングされた160×350cmくらいの模造紙に下絵なしで、加藤さんが筆で墨を淡いものから濃いものへと少しずつ乗せていく。波多野さんは舞台下手に移動、制作の様子を見て即興演奏。
 ギターとヴォカリーズ、加藤さんの身体感覚に自分の身体を委ねて音を創り出す試みのように感じた。「手が、筆を持って描いている手なのか、ギターを鳴らす手なのか判らないような、交差する感じがやりたかった。できたかは解らないけど」とは対談での言。身体と芸術ってところもメルロ=ポンティ的。ちょっと時間をかけて考えたい。
 加藤さんの筆は最初慎重だったけれど、音に乗って徐々に解放されていく、その過程が見て取れてぞわりとする。どんどん自由になる。すらっとした体躯なので舞台に映える、動線がうつくしいのはそれだけでなく、そこに生命を視るからだろう。
 出来上がった絵のダイナミズムは圧巻。ツイートで腑に落ちた。

今日は自分の人生の中でも例がない位、音楽的に、獣のように絵が描けた日でした。「起きていながら夢の中にいる」という感覚を始めて味わいました。

— 加藤隆 (@ryukatoo) May 23, 2012

波多野裕文の出す音の後ろで絵を描くのは、めちゃ気持ちよく、また贅沢な時間でした。お客さんは、彼が闘牛士で、自分が牛のように見えたんではないでしょうか。常に次の一歩を踏み出す彼に、尊敬と感謝の意を抱いています。

— 加藤隆 (@ryukatoo) May 23, 2012


 描き終わると加藤さんさらりと退場。
 「やべー。やべーよ加藤さん」「こわ!」「普段の彼の、素朴な感じを知ってるから。余計に解らないんですよね。どうしてああいう人からこんな絵が出てくるのか」「はー魂抜けたわ」とは波多野さん談。
 終演後、絵は舞台に残され、鑑賞可・撮影可だった。間近で見ると圧倒される。
 来られなかった人も観られるよう、どこかで公開されるといい。モノクロームだからこその迫力。本当に凄いよ。


◆二部後半:弾き語り
 波多野さん中央に戻り、絵を背景に弾き語り再開。ただならぬ空気。

9. タイトル不詳「ニコラとテスラと卵」
◇QUIET ROOMで披露された曲。やっぱり卵食べた、聞き間違いじゃなかった。二度目でもショック。

10. タイトル不詳(初披露)
《5月の空は海の色》
《あなたは誰にも愛されないから 自分で愛してあげなさい ばーか ばーか ばーか》
◇「自分で愛してあげなさい」まで聞いて、らしくないな、と思ったらすぐさま「ばーか!」と続いて安心した。それから愉快な気持ちになった。「あなた=自分=ばか」という自虐、「あなた=他者=ばか」への哀れみ、「『あなた~あげなさい』の台詞の話者=ばか」への嘲笑、どれだろう。最後かと思ったけれどどれもありそう。ばーか!で本編終了。すっきりしたような、何か毒が回ったような、混ぜこぜの余韻。


◆アンコール

 2人が登場、おもむろに対談。仲良し。既に書いた絵の話の他、他愛もない話(後述)など。
 加藤さんはける時、波多野さんが後ろからじゃれついてぎゅっとしていた。三十路の男にときめく日が来ようとは。人生色んなことが起きる。

EN. タイトル不詳(初披露)
「吉祥寺でオルゴールを買ったんです。『Moon River』って曲で。『ティファニーで朝食を』の。でも間隔がね、一定じゃないんです。(手で回して)……ほら、速くなった! 間隔は一定じゃないとだめだと思う!」(会場笑)
「でも速くなるってことはどういうことかというと、人間ってことですよ(ドヤァ)」
「オルゴール回しながら歌います。全然違う曲を(笑)。辛くなったら楽器を取ります」
《仕事に戻ろう》《僕はその正体を忘れてしまうよ》
◇《仕事に戻ろう》でがっくり落ちる。はい……。
 オルゴールを手放すと、カリンバに持ち替えて演奏。色々持ってる。好きなんだな。
 《忘れてしまうよ》が繰り返されてかなしくなる。普段なら「そうだね仕方ない」って言うけど、とても抵抗したかった。忘れないよ。いつか忘れるだろうけれど。忘れない。忘れたくない。
 デクレッシェンドで音が消えていく。巻き上がる拍手の中で、終わってしまった、と思いきや、動かないからもう一曲?と期待し始めたところで立ち上がる。弄ばれて終演。ありがとうございました。
 「おやすみなさーい」と和やかに退場。おやすみなさい、have a sweet nightmare。




以下おまけのような。


■MC備忘

・チケット
「チケットがねーすぐ売れるんですよ。壱日の孤独っていうのは。そんな、我先に!って取るようなものじゃないって、皆さんそろそろ気付いた方がいいんじゃないですか? 今日初めての人がどれくらいいるか解らないけど」
◇キャパ少ないからだろ!!と内心多くの人がつっこんだに違いない。需要が大きいことに気付いた方がいいんじゃないですか!
 けれど意図は解る気がした。もっとのんびりと、小さなカフェバーとかで、平凡なマジシャンの手品を笑いながら見ている内いつしか大きな奇術に呑まれていくみたいに、いつか観てみたい。ああただの夢だよ。

・トラック
(今日は危険という話の後)
「トラックが突っ込んできます」
客(?)
「注射器のいっぱい付いたトラックです。中身の色はあえての透明です。ははっ」
客(?????)
◇本日のハイライト。彼の発言を理解不能だと思ったのは初めてでした。何これ。元ネタとかあるんですか。誰か助けて……。

・ホテルにて
(バンジョーチューニングに苦戦。その間にイギリスの話)
「ロンドンって移民の街なんですね。イギリス人は実はあんまりいない。で、何かねーロンドンは人が、思いやりがないんですよ。……『日本人がシャウトしてる』って言われました。いやいやこれはシャウトじゃないでしょ。『私はあなたの奴隷じゃない』とか言われて。いやいや奴隷とは思ってないですよ。僕はただホテルの従業員としての責務を果たしてほしかった。
 だっておかしいでしょう?
 僕と健ちゃんがダブル(ベッド)なんて!!!」(客爆笑)

・歌詞
「(ソロだと)歌詞が全然違うんですよ、バンドで書くのと。バンドは音が先っていうのもあるんでしょうけど」

・批判
「雑誌とかでこきおろされたいですね(笑)。僕最近何やっても批判されないんです」
◇批判には理解が必要。批判がないのは確かにこわい。だけど音を楽しむのに理解は必要条件ではないのでは? なんて本人が一番よく考えているだろう。受け手としては理解できているんだか判断つかないから色々言えない、なんてこんな勝手な文を公開している人間が書くのはちゃんちゃらおかしいが。
 とりあえず惜しみない拍手を送ったので信じてもらえるといい。
 そんなものだ。

■アンコール対談
・は:30歳 か:31歳
 は「何で敬語なの?」 か「いや、……まあ」(会場笑)
・は「(絵を見ながら)消化できない。どうにか消化しないと」
 か「消化しなくていいんだよ」
 は「(客に)そう。消化しなくていいんですよ」
・か「波多野くんから電話来たの1週間前だからね」
 は「で、すぐイギリス行ったっていう(笑)」
 か「そう、聞きたいことあって電話しようとしたら、イギリスで連絡付かない」
 は「でも隆ちゃんにやろうよって電話した時、いいねいいねーみたいな」
 か「うん。最初、2時間かけて絵を描くんだと思ってたの」
 は「あー」
 か「だってそうでしょ?! そしたら30分でやって下さいって言われて。え!って」(会場笑)
・か:絵を描き始めたのは小学校の頃から。ドラゴンボールとか。「普通(笑)」
 は:ドラゴンボールの絵を描いていた。(会場ざわざわ)
・は「全っ然関係ないんだけど、お風呂が詰まって! パイプユニッシュしてもだめで……」
 か「うんうん」
◇加藤さん優しいな。ダイゴマンだったら爆笑してそうだ。

May 4, 2012

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012 2日目

 恒例となったクラシックフェス、今年のテーマは「サクル・リュス」でロシア音楽。
 気になるピアニストが押し寄せて大変なことに! ポゴレリッチ、エル=バシャ、ヴォロディン、メジューエワ等々。タイムテーブルと睨み合ってぐるぐる考えたが、チケット取れなかった公演多数。定例の人気フェスになったのか、今年が特別人気なのか。
 結局3日間のうち2日目1日で2公演(ややこしい)、ベレゾフスキー出演分を観た。とんでもなく良かった。


■公演番号283 16:00-16:45 ピアノソロ @ よみうりホール

 トリプルアンコール! 会場いっぱいに満ちる盛大な拍手で終演。
 以前「スポーツのようなピアノ」だと漠然と感じた。一歩進み、身体の動きが音に直結しているんだと思った。それはとても幸福なことだ。だからこの人の音が好きなのかもしれない。逞しさ、力強さ、体格の良さが音にそのまま表れていて男性的。それが良く聴こえる、個人的には稀有なピアニスト。時に細やかなパートが切り込んでくると、あれ?と思うこともあるが、それも気にならないくらいに引き込まれる熱の入り方。
 雨の日によく似合うラフマニノフ。どちらかといえば女性寄りの演奏を聴いてきたので、ベレゾフスキーの表現が新鮮で面白い。ソナタ終わって再登場、客席に向かって「ゴメンナサイ、サンバンハヤリマセン。ラフマニノフ、プレリュードヤリマス」いきなり日本語でびっくり。日本語もプレリュードOp. 23, No. 5もとても嬉しかった!
 アンコールはフランスとポーランド、フェスのテーマから逸れたって気にならない! 場内更に盛り上がる。サン=サーンス、ショパンのワルツ! 本編とは打って変わって緩やかに軽やかに遊び流れるような旋律に夢見心地。そうだった、この人は繊細モードに切り替わることもできる。その本領をこの後見せつけられることになろうとは。

●プログラム
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調 op.28
ラフマニノフ:前奏曲 ト短調 op.23-5 ※
EN
1. サン=サーンス:白鳥(組曲「動物の謝肉祭」より)
2. ショパン:ワルツ 変イ長調 遺作 KK IVa-13
En-3. ショパン:ワルツ ヘ短調 遺作 Op.70-3
※予定では「メロディ ホ短調 op.3-3」「クライスラー(ラフマニノフ編):愛の喜び/愛の悲しみ」


■公演番号227 21:45-22:30 クインテット @ ホールB7

 ベレゾフスキーのクインテット聴いてみたい!と軽い気持ちで、聞いたことのない曲の予習も全くせずに臨んだ。初めて見るソロでないベレゾフスキーが新鮮。周りの音をよく聴いて自分の音を馴染ませていく、けれども主張するところはしっかりベレゾフスキー節なのが嬉しい。アレンスキーは音の重なり合いがただただ楽しかった。クインテットよく息が合っている。
 シュニトケがすごかった。終わりのない真っ暗な森(不協和音のハーモニーを奏で続ける弦楽器隊)をピアノがひたすら一人で歩き続けるような曲。最後第5楽章でようやく湖が見えて落ち着き、うっすらと射してきた光に向かって吸い込まれるようにピアノは歩き、遠ざかっていく、という。
 リストやラフマニノフ、ショパンを弾くベレゾフスキーしか知らなかったので、この負の静寂に覆われた曲を目の前にして狐につままれたような気さえした。こんな顔もお持ちなんですね、好きです。最後、ピアノが一歩一歩遠ざかっていくのが忘れられない。光に満ちたデクレッシェンド、p→pp→ppp、こんな救いもある。
 ベレゾフスキーの新たな一面を知って思い切り引き込まれた今年のLFJ。多面性って本当にすばらしい。

●プログラム
アレンスキー:ピアノ五重奏曲 ニ長調 op.51
シュニトケ:ピアノ五重奏曲 op.108

●メンバー
スヴャトスラフ・モロズ (ヴァイオリン)
ミシェル・グートマン (ヴァイオリン)
エリーナ・パク (ヴィオラ)
アンリ・ドマルケット (チェロ)
ボリス・ベレゾフスキー (ピアノ)

April 29, 2012

Salyu Tour 2012 photogenic
@ 東京国際フォーラム ホールA

 2年ぶり、MAIDEN VOYAGEツアー以来のSalyuワンマン。
 何より、強い歌い手になったと感じた。声の力強さと、声の力を信じて突き進む信念の力強さが合わさって大きなエネルギーを発生させる。その磁場に今夜立ち会った。
 処女航海で進む道を見つけて帰ってきたようでほっとした。リリイ・シュシュに付き纏われていた『landmark』→逃れようともがいていた『TERMINAL』→ターニングポイント「LIBERTY」→区切りを付けた『MERKMAL』→方角を見定めた『MAIDEN VOYAGE』を経ての突き進む『photogenic』。ようやくここまで来た。お帰り。

 オープニング、オリジナル映像。暗闇に降りしきる雨の中、水と戯れるSalyu。ピナ・バウシュ「Vollmond」へのオマージュだろう。身体で自由を叫ぼうとしているような。ピナの身体表現の自由さは、声の身体性を探り続けている(のだと思う)Salyuと通じるところがある。
 「灯台」の一節《今日から新しく生まれて 今日から新しく生きていこうよ》がスクリーンに投影され、歌い上げられてスタート。菜の花畑みたいに明るい黄の衣装に赤いハート型の羽?を背負い、金髪ウィッグ。ポップアイコンになろうとしている、それを引き受けようとしている、ようだった。ツアーのテーマが「元気をあげたい」だそうで、活発には見える。個人的にはどちらも彼女に求めない。
 「パラレルナイト」、武道館の「飛行船」を思い出す照明の気合の入り方。曲も安易に電子音楽に走っただけでなく、Salyuが咀嚼した感があって良い。続く「My Memory」、リリイの一夜復活ライブ以来の披露。リリイで聴きたかった……。あの時と同じオリジナル映像が流れていた。
 アナウンス「ここからは座ってお楽しみ下さい」で衣装替えタイム。音源の「飽和」が流れ、スクリーンにはオリジナル映像。宇宙のような空間に光が集まり球体を成していく様が、音とよく調和している。飽和に新しい命が吹き込まれて嬉しい。リリイ要素はファンサービスなのか何なのか。だからライブに足を運び続けてしまう。
 光の集積は月に成り「月の裏側」へ。Salyuはアイボリーの衣装に身を包み、ウィッグ取って再登場。続く「体温」照明が白眉! 最初音程が何だかずれていてひやひやしたけれど、持ち直してからは良かった。「青空」ライブは音源よりずっと胸に迫る。「新しいYES」半ばで強めの地震があり(千葉でM5.8、最大震度5弱、東京は震度3)、何かのアトラクションみたいに座席全体が揺れた。ライブは何事もなかったかのように続行。UNIT以来に聴く「夜の海 遠い出会いに」、エネルギー量が復活していた。大きな会場に映えてやっぱりいいなあ。
 「皆さんの今日より明日が、明日より明後日が、今年より来年が、より良いものへ変化していくように、という気持ちを込めて歌います」というMCに続いて「VALON-1」。歌ってくれたことに、ありがとう。
 本編終了前、またオープニングに似た映像が流れて「ただいま」の台詞。処女航海からのただいま、なのだろうけどSalyuの声に聞こえなかった。誰だ。
 アンコールの衣装はツアーグッズのシルクプルオーバー(20,000円……)にピンクのショートパンツ、足元は銀色きらっきらのスニーカー。そんな格好で「春を降らせます」からの「HALFWAY」、一番元気をもらったのはこの曲かな。締めは「風に乗る船」、2年前と変わらず驚いた。
 ツアーファイナルだから来るだろうと思っていた小林P、現れず。また2人で舞台に立ってほしい。

 突き進むSalyuはどんどん遠くなり、そろそろ追いきれなくなってきた。それでも、あの声が自分にしっくり来る時のあの喜びが欲しくて追い続けている。salyu×salyuのように巧いプロデューサーとまた出会えると良い。
 MCのうたのおねえさんみたいな台詞っぽさに拍車が掛かっていて笑った。

 Salyu曰く「私のオーケストラ」であるツアーバンド、素晴らしい! キーボード皆川さん、この人の音は小林さんにもSunnyにもないカラフルさがあって楽しい。キタダさんのベースもSalyuライブの大きな楽しみ。「Tower」楽しそうだったな。ひろこさんのマルチっぷり(コーラス、コンガ、ウィンドチャイム)も観て聴いて楽しい。ライブがすごく楽しかったのはバンドに拠るところも大きい。

 また、いつか。

■セットリスト
01. camera
02. LIFE
03. Tower
04. 悲しみを越えていく色
05. magic
06. ブレイクスルー
07. パラレルナイト
08. My Memory
(衣装替え、音源の「飽和」が流れる)
09. 月の裏側
10. 体温
11. 青空
12. 新しいYES
13. 夜の海 遠い出会いに
14. コルテオ ~行列~
15. 旅人
16. VALON-1
17. Lighthouse

EN.
01. HALFWAY
02. to U
03. 風に乗る船

April 1, 2012

People In The Box 『Citizen Soul』 release tour
@ 中野サンプラザ

 ツアーファイナル東京! 何だこの記事の長さ!

 本編最後「汽笛」がひとつの到達点を迎えた。未来へ大きく踏み出していきたくなる音がホールに満ちていくあの感覚は、何なんだろう。音の貴さ、その場にいられる貴さをいっぱいに感じながら、最後のドン!を聞いた。
 大きな拍手の中、近くの人が「ありがとー!!」って叫んでいて何かもう感極まる。解散ライブ以外でそんなの聞いたの初めてだ。ありがとうピープルありがとう。今夜一瞬で過ぎた。それくらい没入していた。
 ツアー序盤はCSの曲が育っていくのに立ち会う感覚だったけれど、今夜は中身がぎゅっと詰まっていて溢れてくるのを分けてもらっているような。波多野さん最初のMCで「すごく充実したツアーでした。その充実ぷりを受け止める準備はできているか?」、アンコール時「(ツアーの)充実っぷりを、皆さん受け止めた訳ですよね?」。受け止めても抱えきれないくらい。何なんだ。一体何なんだ。

 ホールという環境を差し引いても他会場と空気が違う。始まる前から本編の終わりまでずっと、そこら中に緊張感が潜んでいた。ピープルが今夜何かを成し遂げそうな予感とか、未知の終着点を前にした緊張とか。ユーモラスなMCに笑う余裕すらない。(結果波多野さんに「今日はどうも打率が低い」と言わせた上、「僕、この帽子の中は全部ハゲです!!」という力技(しかも横浜でウケたMCの流用)を使わせてしまったのは大変申し訳なかった)

 ファイナルの特別感すごい。加藤隆さんのオリジナル映像がポエトリーリーディング、「旧市街」(PVとは別)、エンドロールに合わせてスクリーンに映し出された。相性の良さを再認。
 ポエトリーリーディングの映像はニムロッドPVに近いタッチ。横たわる人が目覚め、花片を一枚口に入れる。《食べろ、食べろ、食べろ、食べろ》で様々な人が花片を食べ、人の輪郭線がほどけて人ならざるものに変容する姿が描かれる。「花を食べる人」のモチーフ大好きなので驚きつつ嬉しかった。始まりと終わりは #00ff00 くらいの黄緑色を背景にバンド名とツアータイトル入り。加藤さんの作品でこんなブライトな色を見るのは新鮮。映像と現実をうまく切り分けて、かつ橋を架けていた。
 「旧市街」の映像がものすごい。演奏がBGMになるほど。最初は旧市街PVに出てくるブリューゲルのバベルの塔らしいものを背景に、途中から独立して、一本の茎が不穏なもの(某大統領? / キノコ雲 / 原発? / 防護服の人々)を次々吸い上げ(実を付け?)ながらずうっと伸びていく。どうなるんだろう?と思っていたら、最終的にへその緒となり嬰児に結び付いた。呆然。と同時に、『Family Record』と『Citizen Soul』とピープルの意図と現実とが一気にリンクしたような衝撃。いつだって彼らは音で生命を鳴らしているのだと思った。まだ処理しきれていないけれど、今はここまで。
 エンドロールはあかい花。オープニング映像で登場人物達が食べていたものか。BGMはシンプルな電子音? 手探りで見付け出されたような音の連鎖。最後「Music by Hirofumi Hatano」のクレジットがあったので、エンディングもオープニングの音もきっと彼の作だろう。

 セットリスト、納得の布陣。各々の曲の感想を書き始めると途方もないが少し後述。波多野さん曰く「今回のセットリストはピープルなりのハードコア」。何だと……! 思わず噴いたけど、「ニムロッド」に代表されるような反逆ってことなら頷ける。
 ホールはさすが音がクリア。天井の高い大きな空間いっぱいに音が響いて充満していく作りはピープルによく合っていると思う。そのお陰で聞き取れたポエトリー、《バタフライエフェクトを頼りにする心許ないアジテイターでもある》と言っていた(九州のアクセントなのか「ア『ジテイタ』ー」)。多分。
 照明もこの日だけのものばかり。ドラムセットの銀色が光にきらめいてきれい。

 ダイゴマンが語った(*後述)通り、アンコールは一年前を辿るような構成。
 「泥の中の生活」ラストで波多野さんがギター置いて帽子取って舞い始めた時は目が点になった。たっぷり30秒は舞っていた。再びギターを肩にかけてクライマックス、と思いきやエフェクター踏むの遅れたりでぐだぐだ気味。けれども彼なりの自由さの現出だったんだろうな、と思うとアンコールらしくて良い。ダイゴマンのハイハットは相変わらず絶妙。繊細だけど確かな存在感。
 「火曜日 / 空室」轟音パート堪らなく気持ち良かった! 終わった瞬間の沈黙含めて大好き。続いて定番の「完璧な庭」、いきなりエモからポップに。ダイゴマンが手拍子煽るのも最早定番。楽しい楽しい。
 終わりか、と思いきや更にファイナル仕様でもう一曲! 波多野さん「People In The Boxでした」と格好良く決めて大きな拍手受けつつ、イントロギターミスって笑い。やり直して即興アレンジ入れながら、リズム隊とうまくアイコンタクトして「She Hates December」に入っていったのはさすが。アンサンブルの強さを見た。5ヵ月ぶりに、しかもアンコールの締めに聞けて、個人的にすごく嬉しかった。最初にピープルを知って惹かれた曲。

 Wアンコール「ヨーロッパ」。やっぱり激しさがやや取れた替わりに距離が近くなった印象。《やあ、みんなどこからきたんだ?》、以前の懐疑や不安に比べて歓喜が増えているような。ピープルと観客を結び付けるこのフレーズは何度立ち会っても貴重。《目には見えないものをいまにも「この手に」掴もうとしている》少しの変化だけど痺れた。アウトロにぶっ殺されてツアー終幕。
 福井さん、ダイゴマン順に退場していき、最後まで残った波多野さんステージ中央のぎりぎり前まで出てきて「ありがとうございました」って地声で言ってお辞儀。その後マイクでもしっかり同じように伝えて去っていった。

 熊谷、横浜、仙台、名古屋、そして東京、沢山のピープルを観てきて本当に楽しかった。波多野さん「名残惜しいなあ。でもまた沢山ライブやりますので、是非来て下さい」あたたかい。こんなに感慨深いファイナルは初めて。『Citizen Soul』聴き直すととても充実した感覚。
 彼らがこれからどうなっていくのか、そのゴールはインタビューで少し明かされているけれど、どうやってそこへ向かっていくのか、今後が本当に楽しみ。ずっと応援するよ。ありがとう!!

* WアンコールでのMC
ダ「丁度一年前くらいにもここでやったんですよ。去年は地震の影響で」
ハ「あの 忌 々 し い 計画停電のせいで」
ダ「そう、節電するよう言われて、照明とか実は色々気を遣ってたんですよ。で、200人くらい払戻しになったのかな。あの時はこんなに埋まってなかった。だから、あの時来れなかった人が絶対いるはずなんだよ。あの時とスタッフも皆同じで。俺としては今日はリベンジマッチな気がしていて、今日ここでできたことがすごく嬉しいです」
(会場大きな拍手)


■セットリストとメモ(☆=CSの曲=今ツアー固定、★=CS以外の固定曲)
01. 沈黙 ☆
 シンバルの叩き方、鳴り方が格好良過ぎる。バスドラのリズム未だ掴めず。
 《そうさ、世界は美しいのさ》の説得力にのっけから持って行かれる。
02. 笛吹き男 ★
 4/1に聞く《今夜最高の嘘が、ほんとうになる》の力すごい。また特別になった。
03. 市民 ★
 今日の緊張した空気に良く映えていた。赤を基調とした照明がとても良い。
04. 親愛なるニュートン街の ☆
 ひぐらしの代わりにベースが挟むきゅいーん音が好き。(語彙がなくすみません)
 ハンドクラップ楽しい。親愛。最後ドラム手で打って締めてた。親愛!
 「意気揚々」と「生きようよ」の相似。声がきれいに伸びてぞくぞくする。
05. 見えない警察のための
 今夜の緊張感の中では解放されきらなかったのが惜しい。少し浮かぶ感覚は健在。
06. ペーパートリップ ★
 《終わりのはじまりを見たいな》と《はじまりが終わっただけだよ》。どちらも旅に出るけれど随分違って聞こえる。もう少し考える。
07. 技法 ☆
 《殉教者を見下げ果てている》曲だと思っていたけど、違ったんだね。良いMC。「踊る」って波多野さんのキー概念のひとつだなあ。「踊るときには、魂が先行する」という言葉を思い出したりした。
 ハ「今日コンサートみたいですね、私のこの声の響き具合というか。よく踊ったりするでしょう、ロックバンドだと。(※でも今日の客は静か、という含意) だけど皆さんはいつも踊ってるんだと思うんですよ。今日ここまで来るのも徒歩とか電車とか、はたまたセグウェイとか。それはすばらしい踊りなんです。でも、もしかしたら何かに踊らされてるのかもしれないよね。だけどそんなことはどうだっていいじゃないか、その踊りが美しければ。……という曲をやります」
 (会場ずっと静か)
 ハ「そりゃあ目が点になるよね。笑 ふつうの曲をやります」
08. レテビーチ
 周りもゆらゆら揺れていて気持ちいい。ドラムに釘付け。
09. 冷血と作法 ★
 ドラムは地下で燃え滾るマグマ、繰り返されるベースのフレーズは地上の生物、嵐のような間奏の中で炸裂するギターは落雷、をそれぞれ思わせる。圧巻。ツアーの要。
10. ブリキの夜明け
 「静かな曲をやります」からこの曲。徐々に盛り上がっていく感じがとても良い。特にベース熱い! 天井に水面のような照明が映し出されて、会場全体が水の中でたゆたっているような感覚も良かった。
11. ニコラとテスラ ☆
 デマーゴーギー♪と、それが途切れる流れが大好き。造花をかーこんで♪も好き。最後、和解するー世界♪で和解するまで長く溜めるのも好き。途中ドラムスティックでカウント取るのも好き。
 流れでは熊谷の「木曜日 / 寝室」から入るのが一番好きだったな。
12. 月曜日 / 無菌室 ★
 長くアレンジされたイントロ、いつものフレーズに入って音が明るくなるのと同時に照明が真っ白になってはっとした。サンプラザの棒状の照明面白い。天井から降りてくるの初めて見た。
13. はじまりの国 ★
 いっそ踊ろー!! この断定がアンコールへのフラグだったとは。
14. スルツェイ ★
 全部好き。どのパートもメロディーも詞も。奇跡的なバランス。
15. ニムロッド ☆
 やっぱりドラム格好良い。何度でも言おう、ドラム格好良い! ドラム格好良い!!
16. 旧市街 ★
 映像に釘付け。まさにメメントモリ。
17. 汽笛 ☆
 終わってしまうんだなあ、と思うと寂しくなった。でも音はずっと鳴っているから楽しくて仕方なかった。
 ホールに響く3人のコーラスのうつくしさといったら。
 最後のドン!に背中を押された気がした。

EN. 1
01. 泥の中の生活
02. 火曜日 / 空室
03. 完璧な庭
04. She Hates December

EN. 2
ヨーロッパ


■MC備忘
・客がなかなか笑わない
ハ「どうも今日は打率が低い……。僕、この帽子の中は全部ハゲです!!」
(会場爆笑!)
ハ「ウッソー☆ エイプリルフールの責務を果たしました(ドヤァ)」

・ドヤ顔ポーチ紹介
ハ「肘当てとしても使えます」
ダ「肘当てね! ああ、俺まさに昨日こうやって寝てたわ」(実演)
ハ「寝る時は必須だよねー」

・東京の名産品
ダ「ポーチを紹介する時、波多野くんが各地の名産品を言うんですけど。東京は?」
ハ「俺何て言ったっけ?」
ダ「肘当て!」
ハ「そうだ肘当て。笑 だって、東京の名産品って、何かさー。何かさー」
ダ「東京の名産品って何だ?」
客「スカイツリー!」
ハ「スカイツリー?! あんなの 何 っ に も ないよ? ただ高いだけだよ」
ダ「一度登ってみたいって感じで登るんじゃないですかね、ああいうのは。展望台とかあって」
ハ「『わーすごーいたかいねー』」(棒読み)
ダ「こんなこと言っといて一番楽しむタイプなんですよ、こういうのが一番!!」
ハ「(笑)『あ、あれうちじゃない?』」
ダ「ははは! 『あれ健太んちじゃね?』」
ハ「『あっちが新宿だから、えーっとうちはこっちの方でー。あっ高尾山見えた!』」
ダ「ほら、そうやって! 絶対テンション上がるんだよ!!」

・高尾山
ダ「高尾山いいよ! 健太絶対行ったらいい!」
フ「(客に)僕登山すごい好きなんで」
ハ「高尾山いいよね。都心からちょっと行ったところにあんな自然が」
フ「行ったことあるんだよ高尾山。麓まで行って」
ダ「あ、行ったことあるんだ?」
フ「行って、山眺めて、帰ってきた。笑」
ダ「え!? 登んなかったの?」
フ「うん。行って、へー、って」
ダ「眺めて、帰ってきたんだ! はは!」
ハ「僕、朝の5時に高尾山行ったことあります」
ダ「5時!?」
ハ「あのケーブルカー? 登るやつあるでしょう? あれも動いてなくて。店も何もやってなくて」
ダ「そらそうだろなあ」
ハ「で、山見て、帰った。へー、って」
ダ「おんなじじゃん!!!」


■開演前の中野の空


 胸を打たれた空のパノラマ。写真で伝えきれないのがざんねん。「そうさ、世界は美しいのさ」って、思わず信じそうになった。
 ぼうっと見ていたらとびきりうつくしいひと時は撮り逃してしまったけれど、めずらしくしっかりと記憶に焼きついている。

March 23, 2012

the cabs 2nd mini album release tour 「rasen no hotori」
@ 下北沢SHELTER

 霧雨の下北沢、ソールドアウトしておりぎゅうぎゅう詰めのシェルター。音源をひとつも持っていない3バンドのライブ、全て初見。小さなハコのためもあってか、どのバンドもエネルギッシュで音が迫ってくる感覚が強く、良いテンション。だからか共通して若い印象。どう若いのかはそれぞれ少しずつ違っていた。

■dry as dust
 dryでもdustでもなかった、何だろう……young as yacht。適当でしたすみません。ドライというにはエネルギーに溢れていたし、ダストというならスターダスト。Dという音のこもった暗い感じは全然なく、明るい若さを感じた。最後の曲のアウトロが会場をどこかへ引っ張っていくような力強さを放っていて良かった。

■Qomolangma Tomato
 3バンドの中で一番攻撃的でありつつ演奏が安定していて完成度高い。ボーカルが台詞言い続けながら次の曲に移る繋ぎ方の息をつかせない感が良かったり、ベースが面白いフレーズ弾いてたり、とても楽しめた。ボーカルの決壊した堤防みたいに溢れて止まらない怒涛の言葉攻めが若い。
 ボーカルは大人しめの会場に「金払ってこんな地下に集まってさー、楽しまないと意味ねえぞ」みたいに何度も呼び掛けていた。楽しかった、けれど個人的には共感して暴れようとは思えなかった。

■the cabs
 気になっていた彼らをみたくて、今夜足を運んだ。出会って以来耳から離れない「二月の兵隊」が聴けて嬉しかったし、Wアンコールのチャールズ・ブロンソンのために」ものすごく格好良かった! 一曲目終わったところで機材トラブル(弦切れた?)がありつつも、テンション高く駆け抜けていた印象。勢いあって若い。
 勢いがあり過ぎるのか演奏がまとまっていないように聞こえる。まとまりのなさが一周回って「チャールズ・ブロンソンのために」では逆に功を奏したような。凝っていて面白いドラム、YouTubeで聴くとクリアなスネアがとても好きなのだが、ライブではうまく生きていないような。観た位置のせいか。
 きれいに伸びる若い声、秋の始まりのような、繊細で少し影があるのも心地良い。もっと大きな会場でも大丈夫。個人的に好き嫌いがはっきり分かれる絶叫、キャブスのは好きだ。きれいな曲に割り込んでくる暴力性堪らない。
 ライブが終わってからずっと「二月の兵隊」の絶叫が頭の中に住み着いている。詞も気になるのでアルバムを買ってみることにした(同じ残響歌もののピープルの詞が日常から少し遊離しているのとはまた違って、キャブスは想像上の別世界を描いている印象)。時間を開けてまた観に行きたい。

●セットリスト(twitterより拝借)
1. skor 2. 二月の兵隊 3. カッコーの巣の上で 4. アンシェルス 5. 僕たちに明日はない 6. 解毒される樹海 7. camn aven 8. 第八病棟 9. キェルツェの螺旋 EN. 1. すべて叫んだ 2. チャールズ・ブロンソンのために


March 20, 2012

People In The Box 『Citizen Soul』 release tour
@ 名古屋CLUB QUATTRO

 熊谷、横浜、仙台に続き、ツアー4公演目。直前でこの日の予定が飛び、仙台の心配な後味から抜け切れておらず。突発的にチケットと交通手段確保。
 今夜ものすごく良かった。心配なんてすぐ吹き飛んで思いきり楽しめた。3人の状態がとても良く、音響良く、舞台見やすく、客のテンション高く、MC面白く、諸々の条件きれいに揃い踏み。波多野さん最後のMCで「ありがとうございました。すごく楽しかったです」と言ったり、ダイゴマンもツイートしたり、本人達も楽しそう。いやあ本当に楽しかった!!

 ポエトリーリーディング、何度耳を澄ませても聞き取れない箇所があってもどかしい。《魂というのはユビキタスの別名であり バタフライエフェクトを頼りにする心許ないXXXXXXである》何だろう?
 《そして君は発見するかもしれない》というのはとても優しい。する/しないどちらの可能性もあり、それは君次第だよ、ということ。続くフレーズ《食べろ、食べろ、食べろ、食べろ》は明らかに発見へ導こうとしているけれど、肝心の「何を」発見するのかは示されない。汽笛《あげるよ 帰りの切符を でも、きみはひとりでいきなさい》と同じく、ひとりで行く、生きる、逝く、ことができるように突き放す。こんな優しさを与えてくれる人は多くない。とても貴重。

 セットリスト、本編は仙台と一曲交代、「ユリイカ」→「昏睡クラブ」。この「昏睡クラブ」が半端なく格好良かった! ベースのみのイントロにギターとドラムスが合流していく。3人とも攻撃的でテンション高く、CDとは違った印象。特にガリガリゴリゴリしたベースが効いていた。サビが波多野+福井ダブルで歌われて強力に(これ新しいと思った、ありだ!)。赤い照明が似合う。「昏睡クラブ」はアコースティックだとやわらかいブランケットのようで心地良いし、今回の破壊衝動ぶちまけるのと眠り続ける君を見守るのとが交互に来て振り回されるのもおかしくなりそうで良い。前者は昏睡(させる)クラブ、後者は昏睡(させない)クラブみたいな二面性面白い。
 波多野さん「僕の好きな曲をやります」という紹介で「どこでもないところ」。どこでもない=ゼロ地点の曲はこのツアーによく似合う。けれども音源のフェードアウトするアウトロに慣れているので、3人のジャーン!で断ち切られるとあれ?ってなる。?のまま「ニコラとテスラ」に入る感じは好き。
 このツアー初めてダイゴマンのドラミングが見えた……! しなやかさは変わらず、力強さが増した印象。理想的。仙台で話していた、去年病気してから煙草止めて6kg増えた、ことが影響しているのか。見た目変わりないが。「沈黙」のシンバルの鳴らし方格好良い、とか言い出したらきりがないな。
 大きな会場だと照明に凝れるのか、「月曜日 / 無菌室」「汽笛」でミラーボールが点いていたり(使い方多様だなあ)、「旧市街」最後のサビ前のギタージャーン!で真っ赤になるのも復活。
 アンコールは「マルタ」→「日曜日 / 浴室」→「鍵盤のない、」。仙台では静かだった「マルタ」、今夜はいつも通り水圧で息苦しくなる感じがした。続いて仙台の「天使の胃袋」が「日曜日 / 浴室」に。これも最後に救われる曲で、「マルタ」から水繋がりなのも好き。海の匂いのする「鍵盤のない、」アウトロの最後の最後、終わるのが惜しいみたいに何度も確かめるように音を鳴らして、鳴らしきって終演。
 ギター置いた波多野さん、本編最後もそうだったように、大きな拍手に両腕広げて応えてお辞儀していた。ショウを終えた奇術師にも、拍手に感謝する演奏家にも、共鳴したことが嬉しいひとりの人間にも見える。感無量、にはまだ早い。ファイナルの中野が本当に楽しみだ。


■セットリスト
01. 沈黙
02. 笛吹き男
03. 市民
04. 親愛なるニュートン街の
05. 昏睡クラブ
06. ペーパートリップ
07. 技法
08. 犬猫芝居
09. 冷血と作法
10. どこでもないところ
11. ニコラとテスラ
12. 月曜日 / 無菌室
13. はじまりの国
14. スルツェイ
15. ニムロッド
16. 旧市街
17. 汽笛

EN.
01. マルタ
02. 日曜日 / 浴室
03. 鍵盤のない、


■MC備忘
・春分の日
ハ「今日は何の日? そうそう、春分の日だ。(ちょっとチューニング)
  春分の日を私達のために割いていただき、ありがとうございます」

・ポーチ紹介 ※やっぱり全部ドヤ顔
ダ「これ! 知ってるかなー? ポーチ!と言います! 使い方は色々あってですね、
  僕はドラムスティック入れたりね。このバスドラも入りますね。
  波多野くんは味噌カツ、とか入れますか?」
ハ「味噌煮込みうどん」
ダ「味噌煮込みうどん(笑)。あのうまいやつでしょ」
ハ「ポーチに入れると美味しくなる」
ダ「味噌煮込みうどん、このポーチに入れていただくと3倍美味しくなりますんでよろしくお願いしますね!」

・ホワイトハウス
ダ「住んでたんでしょ? 名古屋」
フ「うん。住んでたところの名前がね、ホワイトハウス」
ダ「ホワイトハウス!? オバマ! オバマー!」
フ(右腕上げて応える)(客爆笑)
ダ「やっぱオートロックなの?」
フ「いや、じゃなかった」
ダ「ガード緩いんだ。狙い放題なんだ!」
ハ「その名前決め手でしょ、そこにしたの」
フ「うん。笑」

・告知
(アンコール前、この日の来場者限定でとある告知がなされる)
ダ「twitterとかに書かないでくださいね!」
ハ「皆さんのことスナイパーが狙ってますので。こうやって(ライフル構える振り)。
  ちょっとでも書こうもんなら、もう画面パリーンですよ」
フ「そしたらホワイトハウスに来ればいいよ」
(客爆笑、拍手)
ハ「あの今日は本当に、どうもありがとうございます」
→からの「マルタ」、ギャップすごい

March 15, 2012

People In The Box 『Citizen Soul』 release tour
@ 仙台CLUB JUNK BOX

 熊谷、横浜から3週間空いて仙台。
 ライブは生き物なのだと思った。奏者の状態がダイレクトに音に出る。生き物だから強いところも弱いところもあって、今夜は後者が目立っていた。その分前者も際立って感じられはした。弱さから立ち直ろうとする様が今夜の見所、魅力と映る。何度も聴いているからその感じも楽しめたけれど、初見の人がいたら、あんなもんじゃない、って言いたい。
 後方で観ていて、全体的に音圧低く感じられたせいかもしれない。アンコール前ボーカルの音調整していたし、やっぱり音響的なものか。特に前半、体調良くないんだろうかって心配になるほど声とギターの気迫が感じられなかった。ドラムスも時折同調してしまったようによろけたり音抜けたり。そんな中、ベースの安定感にほっとする。演奏がよろめいても早く立ち直れるのは福井さんあってこそだった。
 珍しくちょっと辛口。だけど、それに負けないくらい良いところも沢山沢山あった。

 ポエトリーリーディング、だいぶ馴染みのフレーズが増えた。
 《氷河期はまだだ》という一節から、生物学《氷河期は始まったばかりだ》、沈黙《氷河期だ 踏みしめて歩け》が想起される。『Citizen Soul』よりも前の世界、引いては人間社会が成立する前の状態を描こうとしているのか。と思いきや《スーパーマーケットはひとつのフラクタル構造を描いている》《今 僕達の体はぶるぶると震えている 3万年前の地球のように》というフレーズもあるので、昔に戻ろうってことではなくて、本来性を現在に取り戻そうとしているような。ラストの汽笛《それで全ては元通りさ》にもそんな志向がみられる。
 とか考えている。個人の感想です!

 セットリスト、本編は横浜から二曲交代。「見えない警察のための」が「ユリイカ」に、「ブリキの夜明け」が「どこでもないところ」に。
 あちこちでイントロのギターの遊びが面白い。「どこでもないところ」冒頭に「天使の胃袋」みたいな高周波な音を弱めに長く差し込んでいたり。音を楽しんでる感じが伝わってくるようで、すごくテンション上がる!
 「技法」《「わたしもだまされているのかしら」》でベースがうねうねするの堪らない。新譜のベースは全部良くて、好きなフレーズを挙げるときりがない。奏者が変わったことを差し引いても、ピープルで一番変化しているのはベースだと思う。
 「汽笛」順調に進化していて嬉しい。聴く度にエネルギーが増えている。ここに来て波多野さんの声が力強く迫ってきた。「透明感のある少年声」と言われる声で、それもすごく好きだけど、この曲には力強さが似合う。
 アンコールはまたがらりと変わって「マルタ」→「天使の胃袋」→「鍵盤のない、」。津波を連想させる「マルタ」を仙台で演奏することに驚いた。音圧が本編より更に下がって大人しく、丁寧に、撫でるように聞こえたのは意図的なものだろうか。色々考えている内に「天使の胃袋」が始まって、そういうことか、と鳥肌。《もうすぐトンネルを抜けるよ 光り溢れ》で「マルタ」の回収を試みたと読む。その流れで聞いた「鍵盤のない、」の救済感すごい。歌詞は死の匂いが濃いのに、このまま生きていていいんだな、とか思う。アウトロの切実さにぶっ殺されて終わった。


■セットリスト
01. 沈黙
02. 笛吹き男
03. 市民
04. 親愛なるニュートン街の
05. ユリイカ
06. ペーパートリップ
07. 技法
08. 犬猫芝居
09. 冷血と作法
10. どこでもないところ
11. ニコラとテスラ
12. 月曜日 / 無菌室
13. はじまりの国
14. スルツェイ
15. ニムロッド
16. 旧市街
17. 汽笛

EN.
01. マルタ
02. 天使の胃袋
03. 鍵盤のない、


■グッズ紹介MC ※全部ドヤ顔
ダ「この商品名、皆さん初めて聞くかもしれません。ポーチ、と言います!(会場笑)
  僕はドラムスティックを入れて使ってます。波多野くん、MacBook入れたりね」
ハ「牛タンが入ります」
ダ「牛タン!笑」
ハ「伊達政宗も愛用していたという」
ダ「掘り出し物だな!」

March 3, 2012

ent "Entish TOUR" @ 代官山UNIT

 超満員のUNIT。開演ぎりぎりに入ったらステージほとんど見えず。生音を楽しみながらモニター観たり、時々舞台に目をやったり。
 何より、照明と映像のビジュアルエフェクトが素晴らしかった。個人的にはこれまで観たライブで一番。照明がすごい凝りようで、一曲一曲、フレーズ、音毎に丁寧に考えられていた。映像はストライプ模様が下から上へ動き続けたり、空と雲をイメージしたような抽象的な形が流れていったり、シンプルかつセンス良い。
 ソロプロジェクトent、どういう構成でライブするのかと思ったら、こんな。
 ギター&ボーカル:ent、ギター:大山純、ドラムス&マニピュレーター:菅井正剛(、映像:小嶋貴之)
 音とても良かった。打ち込みや既成の音が多く使われつつ、そこに乗る生きたギターと声は時に温かく時にエモーショナル。違和感ないバランスはさすがレコーディングエンジニア菅井さんの技か。そこにあの照明と映像! ビジュアルはサウンドを引き立て、サウンドはビジュアルを引き立てていた。完璧。完璧である。後はステージが見えれば、言うことは、ない……。

 『Entish』を基調に、『Welcome Stranger』からも沢山聴けて嬉しい。基本はentの穏やかかつ冷静なあの音源の空気そのままなんだけど、それらが立体的に広がる快感といったらない。脳に直接作用してくる音達。
 Do Not Adjust Your Set飛び抜けてエモくなっていた。ライブ映えすごい。
 「言葉で何かを伝えることはとても難しい。人によって言葉の指す意味が違うし。なんてことを思っちゃいます。笑 けど、それでもありがとうとか、好きだよとか、言葉で伝えるってことは必要なんじゃないかなあと思って。それを日本語で詞にした曲をやります」という、ソシュールもウィトゲンシュタインもとりあえずどうでもいい、みたいなMCの後にLens。きっとやってくれると思っていたし、聴きたかった曲。音源よりもっとやさしく、ずっと力強く鳴っていた。ありがとうありがとう好きです。
 アンコールにサプライズゲスト、野田洋次郎。音源Lensのドラムスは彼だという(クレジットには Drums"Lens" by DARMAN とある)。ツアーには間に合わなかったので、とent、OJ、DARMANのセッションが5分ほど。ちょっと不器用な、けれども同じ場所を目指していくような、温かい音だった。
 DARMAN退場、菅井さんが戻って最後の曲、Sleeping Ghost! 最後に来るとは。《We'll fly again / Stars all remain》(と聞こえる)の繰り返し気持ち良い。ふわあっと軽くゴーストになっていく。半分夢のように終演。そして熱が上がり直帰して爆睡。

 また何度でも観たい、ずっと包まれていたい空間だった。次はゆったり聴きたいけど、あの映像と照明がありつつ余裕あるハコってどこだ。ううん。や、でも、同じハコでもステージ見えなくてもきっと行くだろう。それくらい心地良い夜でした。


■セットリスト
(入場SE: No Tone)
01. 9646
02. Farewell Dear Stranger
03. pure river
04. Zoe
05. Water Screen
06. Do Not Adjust Your Set
07. Frozen Flowers
08. Airwalker
09. Dragon Fruit
10. Silver Moment
11. Lens
12. At The End Of The Blue Sky

EN.
01. セッション w/野田洋次郎
02. Sleeping Ghost

February 22, 2012

People In The Box 『Citizen Soul』 release tour
@ club Lizard YOKOHAMA

 熊谷に続き、観てきた。やっぱり今のピープル凄い。あるいは今のピープルへの自分の感応ぶりが半端ない。あの音と血が繋がっているんじゃないかって錯覚さえ覚える。「新しい病気」※は難治。
 ※2012/1/25 J-WAVE USTでの福井氏の発言

 ポエトリーリーディング、始まりは《朝が来て、君は目覚めた / そして長い欠伸をする》、結びは《どなた様も、今という瞬間を、どうか取り損ねませんように》でした。多分。あと《レディースエンジェントルメン、『Citizen Soul』release tourへようこそ》ってツアータイトルも組み込んでいた。
 主音はギター。弾き語りで使用しているものと同じ? 不穏な音の連鎖に弾き語り「JFK空港」の語り部分が想起される。波多野さんが全て、あるいは大部分、ひとりでつくっているように思える。詩が先、音が後か。
 《食べろ、食べろ、食べろ、食べろ》
 脅迫的で、呪いのようで、ポップで元気の出る、倒錯的なフレーズに目眩。

 セットリストは熊谷とほぼ同じ。「技法」→「冷血と作法」の間に「犬猫芝居」が加わり(2/22猫の日ゆえか)、「木曜日 / 寝室」が抜けた。
 アンコールはがらりと入れ替え。「日曜日 / 浴室」朝ふっと聴きたいと思ったから嬉しかった。我儘を言えば、順番「ベルリン」→「日曜日 / 浴室」→「バースデイ」だったらもっと痺れたと思う(《わたしのいのちを、君にあげる》→《今日は君のバースデイ》の流れを成した2010年野音は神)。
 演奏良かったけれど、彼らのベストアクトではない。ギター二度入りミス→やり直しを筆頭に、波多野さんに限らず、聴いていて「あれ?」となる箇所がこれまでより、熊谷よりも多かった。ツアー序盤だからか、ワンマンだからか。聴き過ぎて評価が厳しくなっているのか。対バンの緊張感があれば、きっと凄まじいライブになる。

 「見えない警察のための」曲も詞もライブでリアルに迫ってくる感覚も、全て好き。《少し浮かぶ》で本当にふっと体が軽くなるのはいつも不思議。ふわっとしたまま激しい音の渦に飲まれ、言葉で自由と束縛のがんじがらめにされるのは堪らなく気持ち良い。おそろしい曲。
 本編の折り返しに位置する「冷血と作法」がやはり肝。緊迫感すごい。3.11を受けてつくったと言われても納得しそう。抗えない大きな塊と相対したような。最後「飛ーぶっ!」って「ぶ」にかけて音程上がる歌い方好き。
 「月曜日 / 無菌室」個人的に詞の一節がつらくてどうしても苦手なのだが、ドラムスの安心感に気付いてようやく救われた。なぜダイゴマンの音ってあんなに血が通っているんだろう。無菌室に残された僅かな、確かな希望のよう。
 「汽笛」アウトロが良過ぎる。波多野さん早々にスキャット切り上げ、メンバーと向き合って演奏。3人の音に乗って汽車が進んでいく、そのこと自体が貴い。その先にうつくしい未来が広がっているような気がしてくる。圧倒的な肯定に共感してしまいそうになる。もっともっと育ちそうな曲。音源だとベースラインがすごく好きなのだけど、聴いた位置のせいかギターとドラムに埋もれ気味だった。
 この日の本編締めはダイゴマン「ありがとう!」。お礼を言うのはこちらである。生へのリアルな感応に涙が抑えられなかった。ありがとう!!


■セットリスト
01. 沈黙
02. 笛吹き男
03. 市民
04. 親愛なるニュートン街の
05. 見えない警察のための
06. ペーパートリップ
07. 技法
08. 犬猫芝居
09. 冷血と作法
10. ブリキの夜明け
11. ニコラとテスラ
12. 月曜日 / 無菌室
13. はじまりの国
14. スルツェイ
15. ニムロッド
16. 旧市街
17. 汽笛

EN.
01. 日曜日 / 浴室
02. ベルリン
03. バースデイ


■MC備忘
・横浜
は「横浜っていつぶりだっけ? つまり、最後にしゅうまい弁当食べたのはいつだっけ?」(会場笑)
客「Ghost Apple!」「unkie!」 ※GAツアーで対バンしたらしい
は「ゴォストアップルゥ!? うそぉ?」
だ「いや、そうですね。(会場笑) unkieとやったのが最後。ワンマンは初だよね」

・遠く
だ「今日一番遠くから来たって自信ある人ー! 手上げて?」
(誰も上げない)
だ「じゃあ、北海道! 沖縄!」
(誰も上げない)
だ「うん、今日こんな感じね!」(会場笑)
は「もっと遠い、架空の国から来た人とか、いるかもしれない」
だ「じゃあ、ちょっとその国に名前付けて」
は「えー、……しゅうまいランド」(客失笑)
は「今のね、35点だな。100点満点中35点。はは(笑)」

・乱視
(ダイゴマン乱視がきついという話の後)
だ「乱視に似合う曲やります」→「ブリキの夜明け」

・入りミス
(アンコール一曲目、ギター出だしぐだぐだで本日二度目の中断)
は「あーごめんごめんごめん、」
(客笑ってブーイングしたり拍手したり盛り上がる)
は「るっせえ! 何が悪い! やり直して何が悪い!!」

February 18, 2012

People In The Box 『Citizen Soul』 release tour
@ 熊谷HEAVEN'S ROCK VJ-1

 まとまらないまま書いていきます。いつもより感覚的な気がします。

 貴いライブだった。ピープルの3人が居て、音楽が生まれて、その場に自分が居ることが、貴いと思った。
 「今のピープル見逃すな」の意味がよく解った。気迫半端ない。テンション高い。がむしゃらにやってるのではなく、音の底にテンション=緊張がぴんと張り詰めている。(時に緩むのはツアー序盤だから、か)
 すばらしく相性の良いアンサンブルに育った。同じタイミングで呼吸するよう努めるタイプではなく、互いの呼吸に呼応していく、その様が音に成っていくような。一瞬一瞬を舞台にしたインスタレーションのような緊張と危うさの上にこのバンドが成り立っていることを、貴いと思った。出来上がっていく音楽はエネルギーに溢れていて、やはり圧倒される。とはいえ特に新譜の曲、まだまだ伸びしろがありそうで楽しみ。

 オープニング、ポエトリーリーディング復活! 歓喜! 日比谷野音以来か。
 詩に音が付いていた。ギターでもベースでもドラムスでもない音が幾つも使われていた。このために録られたらしい。民族楽器ぽいもの(無知な表現ですみません)、エレクトロニカみたいな音、ピアノ! メロディーのない音の重なり合い。自由で、うまく言葉に引っ掛かって、気持ち良い音だった。3人でつくったとしたら素敵だ。
 《朝が来て、君は欠伸をする》で始まる。喉を通って胃に入って血を巡り体の中を書き換えてゆくような詩。その作用は浄化ではなく、ピープルの世界への導入に留まらず、変化を、成長を促す。波多野さんの詩はまだ進化する。こわい。楽しみ。
 結びは《ようこそレディースアンドジェントルメン、これからも君は沢山のものを飲み込むだろう。それがたまたま今日はPeople In The Boxであったに過ぎない。どなた様も一瞬たりとも取り零されませんよう》みたいな。明確なライブ主催者としての語り、客への言及は初では。それだけ距離を詰めてきたのは必然だと思う。『Citizen Soul』のためのツアーの。
 滔々と流れるあの声はただただ心地良い。バスタブに張られた、体温より少し高い熱をはらんだ湯のよう。ずうっと浸っていられる。
 CD/DVD/Blu-ray何だっていいけど、何らかの形で記録されますように。

 入場SEは変わらずJim O'Rourke"And I'm Singing"。引き継がれるものもある。

 本編が「沈黙」に始まり「汽笛」で終わること、その他新譜の曲が全て演奏されること、は予想通り。その他は面白い繋ぎ方してきた。「親愛なるニュートン街の」→「見えない警察のための」(→「ペーパートリップ」でひとつのフレーズになるのも面白い)、「技法」→「冷血と作法」で韻を踏んだり。「木曜日 / 寝室」からの「ニコラとテスラ」好き。あやしい音の渦にぐるんぐるん飲み込まれていく感覚が癖になりそう。
 「ペーパートリップ」「はじまりの国」両方入れてきたのは驚いた。どちらも始点の曲。新たに息を吹き込まれたことが嬉しい。一番の驚きは「冷血と作法」久々。2010年末のイベントで締めに演奏されて以来では。あの単語が入っているから自粛していたのか。とんでもない迫力を携えて戻ってきた。
 「スルツェイ」のかなしさが「ニムロッド」に回収される流れは鳥肌……やられた。
 「汽笛」やっと聴けた。あの終わりの後どうするのかと思ったら、波多野氏「People In The Boxでした」シンプルに締め。文字だと素っ気ないけどあの17曲の後に言われたら、そうだよお前らがピープルだよ!うわあああピープル!!すげえええ!!!みたいなテンション高い=興奮した人が頭の中で騒ぎ出すよ。※個人の感想です
 アンコールは本編の余韻と共に。「ストックホルム」緊張を一気に解いてくれてとても良かった。

 MC、ご当地ものでコミュニケーション図ってくれるのが優しい。けれど今回は、演奏!演奏してくれ!と思った。とにかく今の彼らの音が聴きたかった。とか言ってあのユーモア溢れるMCも大好きなので、ただの我儘である。
・「ブリキの夜明け」前
 は「体が温まってきたところで……皆さんを、寒さに連れ戻したいと思います」
 客「「「?????」」」
 は「あの、そんなはてなって顔しないで。(会場笑) ふつうに一曲やるだけだから」
・グッズ紹介
 公式ブログに載っていた、ダイゴマンがポーチにドラムスティック収納するのを再現(? 多分、よく見えず)
 は「あとね、ポーチの中にポーチを入れるってのも、ありです。」
 リアルに(お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ ?)ってなり、ちょっとして意図が解って噴いた。終演後ポーチ売り切れててまた笑った。

 ツアー初見だからか、大きな枠組みを追う感想になった。オープニングに感銘受け過ぎていて我ながら引く。気が変わったらリライトしたい。
 あと何公演か行くので、彼らのパフォーマンスの変化と自分の受容の変化が楽しみ。

■セットリスト
01. 沈黙
02. 笛吹き男
03. 市民
04. 親愛なるニュートン街の
05. 見えない警察のための
06. ペーパートリップ
07. 技法
08. 冷血と作法
09. ブリキの夜明け
10. 木曜日 / 寝室
11. ニコラとテスラ
12. 月曜日 / 無菌室
13. はじまりの国
14. スルツェイ
15. ニムロッド
16. 旧市街
17. 汽笛

EN.
01. 火曜日 / 空室
02. ストックホルム
03. 完璧な庭

February 17, 2012

THE PAINS OF BEING PURE AT HEART
@ 渋谷CLUB QUATTRO

■WEEKEND
 サポートアクトとしての出演。3人編成らしからぬ音の密度。シューゲイザーらしいノイズにまみれていて気持ち良かった。音が途切れることなく連綿と続いて、曲の切り替わるタイミングの解らなさもシューゲぽい。ゆえにどれだか不明だけど、すごく格好良い曲があった。どれだろう……。音源聴いてみようかな。

●セットリスト(PA卓にあったもの)
1. New Fast (Right Behind You) 2. End Times 3. Afterimage 4. Sweet Sixteen 5. Hazel 6. Age Class 7. Coma Summer


■THE PAINS OF BEING PURE AT HEART
 良い意味で予想と違った。気迫すごくて格好良かった! ライブはシューゲ要素が引かれてギターポップス寄り。ギタボKipのフロントマン然とした在り方のせいもある。彼がメンバーを、客を、引っ張って場をつくり上げる先導者の役割を大きく担っていた。
 バンド名の通りグリーンな感じ、思春期の純粋さや痛さが溢れてくる感じが良い。懐かしい。少しずれたら途端に崩れてしまいそうな危ういバランスで未完成ゆえのうつくしさを保っている様そのものが思春期的。不安定な魅力。悲鳴のようなポップス。何だろうかあのバランス。
 Strangeずっと期待してたら最後の最後にやってくれてすごく嬉しかった。アンコール一曲目ContenderをKipがソロで演奏したのはにくい、好きにならざるを得ない。2ndからもうちょっと聴きたかったとは思いつつ、1stの曲も大好きだ。また観たい。

●セットリスト
01. This Love Is Fucking Right
02. Belong
03. Higher Than The Stars
04. The Tenure Itch
05. Heart In Your Heartbreak
06. Say No To Love Falling Over
07. Come Saturday
08. Young Adult Friction
09. A Teenage In Love
10. Heaven’s Gonna Happen Now
11. The Pains Of Being Pure At Heart

EN.
01. Contender
02. My Terrible Friend
03. Everything With You
04. Strange

February 11, 2012

青葉市子 独奏会 @ 原宿VACANT

 salyu × salyuのイベントで知った青葉さん。ようやく単独公演を観ることが叶った。
 VACANT2階、ログハウスのロフトみたいなロハス空間に席は100ほど。前半分は座布団、後ろ半分は雑多な椅子(パイプ椅子+座布団、ヒヤシンス編みのチェア、ベンチなど)が並ぶ。友達の家に来たようなくつろぎ感。

 椅子のひとつに座って観て、聴いていた。ふしぎな集会に参加しているようだった。
 だぼっとした白のチュニックワンピースを着て、豆電球のようなやわらかい光とその影の中、ガットギターを鳴らして歌う青葉さん。を微動だにせず眺める観客。これは何なんだろう、と頭の半分でぼんやり思いながら聴く。

 声が好き。ライブでは音源よりもぶわっと広がって、包まれる感覚が心地良い。Lily Chou-ChouやNancy Elizabethに似た、エーテルを湛えた、声で、でも彼女達よりあたたかい。Kelly Sweetのように優しいけれど、そこまで甘ったるくはない。Joni Mitchellほど伸びやかな風でもなく、さっき殻を破って産まれてきたような、手探りでひとつひとつ確かな音を見つけて、辿りながら進んでいるような感じ。
 と、好きな他の女性歌手と比べてみたけれど、あの曲は、詩は、どれとも比較にならない個性を持ってる。そこがまた好きなんだろう。
 「原子力発電所が主人公」という「IMPERIAL SMOKE TOWN」、「その続編を作りました」という「2027年、火星に移住してそれからの歌(仮)」がすごい。「日時計」もすごい。どんな構成になっているのか最早解らないが、本を一冊読み終えた時の没入感、浮遊感が残る。
 と思いきや「おもいでカフェ」みたいな和やかな歌を届けてくれたりもする。
 「奇跡はいつでも」「ひかりのふるさと」も聴けて嬉しかった。アンコールで「生まれてきて、嬉しいです」と話してからの「ひかりのふるさと」、とても良かった。冒頭、つまんだ砂をステージから客席へ零すような仕草をしていたのは、ひかりを分けてくれたんだろうか。繰り返される「きらきら」があまりにやさしくて泣いた。

 同じ時代に生まれてきて彼女の歌が聴けることを嬉しく思う。
 10年後、20年後、50年後までも、とても楽しみな人だ。

 1ドリンクでジンジャーエールを頼んだら、ウィルキンソンの瓶が出てきた!
 本当に嬉しかったのでまた行きたい。


■セットリスト
01. かなしいゆめをみたら
02. レースのむこう
03. 私の盗人
04. IMPERIAL SMOKE TOWN
05. 2027年、火星に移住してそれからの歌(仮)
06. 灰色の日
---
07. 裸足の庭
08. 日時計
09. おもいでカフェ
10. 奇跡はいつでも
11. 重たい睫毛

EN.
ひかりのふるさと

February 4, 2012

AVRIL LAVIGNE THE BLACK STAR TOUR
@ さいたまスーパーアリーナ

 1st~2ndの頃よく聴いていて、ようやく初見。最高にキュートで、予想を遥かに超えてパワフルで、そう来るかってサプライズもあり。客を楽しませようって気持ちがいっぱい詰まっていて嬉しかった。
 その最たるものが冒頭の和太鼓コラボ。一曲目Black Star終わってステージが明るくなると、並んだ3つの和太鼓と日本人プレイヤー。和太鼓ドラミングがしばらく続き、What The HellでAvrilバンドとコラボ! 日本との融合を試みるような演出が嬉しい。それにしては、日本人なのに自分和太鼓に馴染みないなと思ったり。
 「ひとりひとりの顔が見たいから、ライト点けて!」ってステージ明るくさせて、客と目線が合うように屈んでにこにこして顔を眺めたり。本編ラストの曲でステージから降りて、結構長く客と触れ合ったり。演出でも嬉しい。

 1stの曲沢山聴けて嬉しい。「嬉しい」ばっかりだな。
 最近の曲ではピアノに腰掛けて歌われたAlice! グランドピアノに乗る猫みたいなキュートさと気まぐれさ、堪らん可愛い。しかも曲が少女像の代表格と来てる。ぴょんとピアノから飛び降りたのも可愛いいい。
 最近は基本ビッチ路線で軽いと思っていてすみませんでした、恋するかと思ったGirlfriendSmileギターのお兄さんに後半の《You know that I'm a crazy bitch》→《I know that you're a crazy bitch》に変えて言わせる演出笑った。最後ビンタの素振り可愛い。
 しかし軽いだけじゃない。本編最後のI'm With Youが化けてびっくり。ずっと「私と誰か」の小さな世界観で捉えていたのだけど、ほぼ満員のアリーナいっぱいに響き渡る《I'm with you》の叫びは世界がひとつになっていくような壮大ささえ湛えていた。すごい振れ幅。
 途中声出づらそうだったけれど、アンコール一曲目のアカペラWhat The Hellはすごかった。あの華奢な体のどこから、あれ程の力強さが生まれるのか。
 そして最後の最後にComplicated、10代の頃のグリーンな思い出が蘇る……!

 ガールズロック数あれど、Avrilが抜群に好きだ。自分の可愛さを理解し、いざとなったら誰かに守ってもらえることを強かに確信した上でパンクに闘おうとする女子堪らん。全篇に漂う「無意識だけど女を演じてる感」が面白い。
 だけどそんなあれこれはライブ始まったらどうでも良く、ただただ可愛かったです。Avrilは俺の嫁。


■セットリスト
01. Black Star
02. What The Hell
03. Sk8er Boi
04. He Wasn't
05. I Can Do Better
06. I Always Get What I Want
07. Alice
08. When You Are Gone
09. Wish You Were Here
10. Unwanted/Musical Piece
11. Girlfriend
12. Airplanes
13. My Happy Ending
14. Don't Tell Me
15. Smile
16. I'm With You

EN.
01. What The Hell(acapella)
02. I Love You
03. Complicated

February 1, 2012

salyu × salyu + Salyu Release Live @ 代官山UNIT

 Salyu16枚目(!)のシングル『Lighthouse』、salyu × salyu DVD『s(o)un(d)beams+』の同時リリースを記念して発売日に行われたライブ。ひと粒で二度美味しいお得感。社会人にやさしい20時開演。U-STREAMでも中継していたらしい。是非また観たい、願わくばLily Chou-Chouとのスリーマンで!

■salyu × salyu
 シスターズと小山田圭吾、大野由美子という編成。前に聞いたAXとはハコの環境が違うのもあって、かなり違った風に聞こえたのが面白い。アドリブのないシスターズのハーモニーも、楽器のアレンジが変わると曲全体の感触があんなに違うんだな。
 「s(o)un(d)beams」で手を踊らせながら音程取るのが面白い。フレーズに合わせて手で描かれる軌跡はまじないのよう。割と近い位置でぼうっと見ていると、サブリミナル効果がありそうな気がしてくる。歌も、あの音源を超えるのは難しいだろうと思っていたけれど、ライブならではの生命力に溢れていてとても良かった。
 また聴ける機会はあるだろうか。歌声のハーモニーはほぼ完成されているから、楽しいアレンジに期待したい。

●セットリスト
1. overture 2. ただのともだち 3. muse'ic 4. Sailing Days 5. s(o)un(d)beams 6. 奴隷 7. Our Prayer ~ Heroes And Villains 8. 続きを 9. May You Always


■Salyu
 かなり久しぶりの単独Salyu。『MAIDEN VOYAGE』ツアー以来?
 「HALFWAY」→「夜の海 遠い出会いに」→「name」のコンボが嬉しい。「HALFWAY」とか久々過ぎて涙が。そうだ、この人のある種の歌声は涙腺に作用するんだった。「夜の海 遠い出会いに」はアコースティックだからかちょっと大人しかったかな。天井の高い広い会場で聴きたい。
 5曲目以降の新曲群は初めて聴いた。「青空」はSalyuが歌っても櫻井さんだった。良い歌。「Lighthouse」の最後の伸びはすごいなあ、と思うけれどあまり響きはしない。うーん。
 声が一時期よりは落ち着いて聴けるようになった。アコースティックのせいか、salyu × salyu通過したからか。もう少しまあるくなるといい。「まあるくて重たいという価値」をまだ信じてくれているといい。

●セットリスト
1. 新しいYES 2. HALFWAY 3. 夜の海 遠い出会いに 4. name 5. 青空 6. 悲しみを越えていく色 7. Lighthouse

January 21, 2012

HIMEHAZIME @ 赤坂BLITZ

 冷たい雨の夜。仕事を終え、だめだ間に合わない……と諦めつつタクシーで直行。
 老年の運転手に「ロックって何です? 忌野清志郎さんなんかそうでしょ? でも若い人で化粧して髪がわあっとなったようなのも、そうなんでしょ?」と問われ、「ギターとドラムとベースが鳴ってたらそうなんですかね? 今日行くのは、見た目はその辺の若者ですよ」と答えた。正しいのか、どれほど伝わったのか、某ギタボの外見を「その辺の若者」と評して良かったのかは、解らない。

 ともあれ、彼のおかげで一曲目の終わりに滑り込めた。残響歌ものバンドツーマン。


■People In The Box
 大きな舞台で観るピープルが好きだ。群衆を音楽で従えた煽動者のよう。
 入ったら「旧市街」終盤。第一印象は、あれ、こんなに格好良かった?だった。場の空気も音もやたら格好良い。昨日の一言「ピープルのライブに来て下さい。これ(ソロ)より何倍も格好良いからね」に洗脳された?(まさか) 残響祭以来の感覚。対バンの空気のせいか。
 見よこれがピープルだ!と9mmファンに訴えるような直球セトリ。旧市街初聴の人は唖然としただろうし、続くのが「市民」と来た。終盤「完璧な庭」→「天使の胃袋」→「ペーパートリップ」の盛り上げ感すごい。その中で新譜から二曲初披露されたり「木曜日 / 寝室」(feat. ミラーボールの照明)が良いスパイスになっていたり。
 「沈黙」説得力がすごかった。ピープルでそう感じたのは初めてかもしれない。音源はどうしてもアーティストと距離があるけれど、目の前であの帰結を歌われるとずんと心に入ってくる。「技法」もそう。『Citizen Soul』がリアルに、立体的に迫ってくる感覚が楽しい。ツアーに期待が高まる。
 毎回書いているがやっぱり「笛吹き男」は特別好き。波多野MCで「結構……いい曲なんです。だから、皆もきっと気に入ってくれると思うんですけど」と紹介されたのがまた、嬉しかった。本当にいい曲。
 「天使の胃袋」、《ふたりはいつでも泣かない子供》→《僕らはいつでも泣かない子供》になっていた。多分。あまり歌詞変えてこないと思っていたので新鮮。
 久々の「ヨーロッパ」締め。以前の衝動がやや失われた代わりに、観客に届ける感が強まっていたように感じた。正に毒のようにじわじわ効いてくる演奏。
 今年のピープルはシティズンの後に何が来るのか。本当に楽しみにしている。

●セットリスト
01. 旧市街
02. 市民
03. レントゲン
04. 沈黙
05. 技法
06. ニムロッド
07. 木曜日 / 寝室
08. レテビーチ
09. 笛吹き男
10. 完璧な庭
11. 天使の胃袋
12. ペーパートリップ
13. ヨーロッパ


■9mm Parabellum Bullet
 初見。圧倒的。考える隙を与えず、音で攻める攻める攻める。最早非現実的なほど音に嘘がなくて、そりゃ愛されるわ、と思った。でもマシンガンの権威的な暴力じゃなく、独立した個々が闘っている感はやはりパラベラム弾。わかりづらい。個人の感想です!
 評判のドラムス(素人目にも解るくらいセットがすごかった)に注目したかったけれど、後方にいたせいかギターに埋もれてしまいよく聴けず。そのギターは音も動きも大変なことに。楔のようにマイクに固定されたギタボの周りで、楽器隊がリミッターなしで好き勝手やっている様が面白い。それでいて同じゴールに向かっているから、個でありながらまとまって爆発的なエネルギーになる。
 ギタボの人、MCの度にピープルピープル言ってくれた。直感的で面白い。「ピープルの迷宮のような美しい演奏のトンネルを抜けると……そこにいたのは俺達でした」「ピープルみたいなプログレッシブな、本当の意味でプログレッシブなバンド」「People In The Boxは箱の中の人々、つまり、皆さんのことです。9mm Parabellum Bulletは……よく解りません(会場笑)」。最後の、さらっと言われてびっくり。

 (9mmについては波多野さん「僕は9mm Parabellum Bulletが大好きです。同じ事務所だけど、そういうこと一切関係なく、好きです」と。あと「(銀色のアンプが)卓郎君のお下がりなんです。だから上に“9mm Parabellum Bullet”って書いてある」!)


 ピープル《あの太陽が偽物だってどうして誰も気付かないんだろう》と9mm《生まれたばかりの太陽の下に 君を連れて行くのさ》が同じ夜に聴けて嬉しかった。客の楽しませ方は全然違うけれど、音を鳴らす理由は両者よく似ているのかもしれない。是非また。

January 20, 2012

QUIET ROOM 2012
@ Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

 イベント名の通り、皆アコースティック。
 このハコは映画館を改装して造られたそうで、座席が長時間座っても疲れないゆったり仕様、ドリンク置きあり、傾斜ありどこからでも舞台が見える、とじっくり観るには持って来い。客がQUIETすぎて「皆さん楽屋で評判悪いですよ(笑)」とperidotsに言われる始末。皆それぞれにきっと楽しんでいたよ。
 最前で観た。2012年の運を使い果たしたやも知れん。

■成山内(from sleepy.ab)
 初見。良い声。春の新芽のような、若さと生命力と訴求力のある声。
 最後の「Lost」がすごく良かった。《春は遠い記憶の中》のような歌詞があって、春が特別好きな自分の涙腺が緩む。MCで彼らが北海道出身だと聞いていたので、余計に春待ちの気持ちが煽られた。

■peridots
 初見。今日の4組の中で唯一立ってのパフォーマンス。フラジャイルな名とは裏腹に力強い演奏。 「ティーンエイジャー」という曲が面白かった。次のツアーはバンドスタイルで回るらしく、THE弾き語りな人かと思っていたので驚いた。どう変わるんだろう。

■波多野裕文(from People In The Box)
 「いつもはバンドでやってるんですけど、今日は小さな音でやるから。よーく、耳を澄まして聴いて、……わっ!
 いたずらっ子のキュートな笑みでスタート☆というか人が狙い通りに引っ掛かる様を見て楽しそうだった。
 今日ギター男子を4組観て、この人の言葉と音楽が圧倒的に、異様に、好きだと再認。ブラボーミスターハターノ!(テンションがおかしい) とにかく紡がれる言葉ひとつひとつが心に引っ掛かる。次はどうなるんだろうって紙芝居を見せてもらっている子供みたいにわくわくして聴いていた。M1-5まで未発表曲。
 以下歌詞(の断片)は拙い記憶に拠るので、誤りが多いと思います。すみません。そして未発表曲ってどこまで書いて良いのか判断付かない。コメントは常に歓迎です。

1. タイトル不詳(初披露?)
《雪の降る街》《青空》《裏切りは下水道に流れた》《大したことじゃなかったかもね》《わたしは何も気にしてないよ》
◇東京はうっすらと雪の日。こういう楽しませ方好きだ。衛星が落ちた日の「市民」始まりを思い出す。

2. タイトル不詳(初披露?)
《8つの卵のうち4つはただ壊れた 2つは朝を待たずに消えた》
《ニコラが1つくすねて》 ※後にこのメロディー再登場、「ニコラ」→「テスラ」
《残った卵はただ1つ どうやって食べようか(?)》
「ニコラとテスラっていう言葉が出てくるんですけど。(新譜の)『ニコラとテスラ』とは全く関係ないです。笑」
◇食べるんだ!?って驚いた。てっきり育てて何か産まれるのかと。ストーリー性の高い詞。「みんなのうた」風に映像付いても良さそう。という発想になるのは、割れる卵→ハンプティダンプティが連想されるからか。

3. タイトル不詳(初披露)
「昨日つくった曲をやります。だから、多分間違えるとおもいます。……でもそれは仕方ないよね。ははっ」
《??夜 安らかに眠れと光合成が始まった》《青い馬》《アルファベットになった》
◇『Citizen Soul』の歌詞を見て、今後はこういう方向?と思っていたら、この曲はそうではなかった。シティズンが特異なのか。

4. タナトス3号(仮)
《目を凝らすと あのサイコロのひとつはおかしな動きをしてる》《ヤコブを片隅に》
晴れ豆での一曲目。覚えていた《飛び魚~》のフレーズで、来たあああ!って嬉しくなる。リズミカルなので揺れながら聴いていたら《とんてんたんとん》を区切りながら歌われたり、テンポが徐々に速くなったりして、ただゆらゆらさせてはもらえなかった。曲名に言及されず、このままなのかは不明。

5. 風が笑う
《冬の朝》《溶けた絵の具に混ざり合いたいな》《死に囚われるまで 死に囚われるまでは》《新聞紙》《風が吹いて 全ての文字が飛ばされていった》
◇晴れ豆で聴いた曲。風のように通り抜ける、のに痕跡をしっかりと残していく曲。

6. JFK空港
《ひとりの愚かな、愚かな人間だった》
◇待ってた。ありがとう。
 アレンジは基本晴れ豆と同じで、端々は多分気の向くままに変えていた。優しい《荒れ放題の庭で~》で緊張が解け、呆然としたまま終わりに導かれていく。何が起きたのかよく解らない。ひとりでよくここまで壮大な世界を表せるなあ。
 また会えるといい。

■堕落モーションFOLK 2
初見。気のいい兄ちゃん達。歌を、演奏を、すごく楽しむ人達。というのは伝わってきたが、前の人の余韻で頭がいっぱいでまともに聞けなかった。拍手が一番大きかったので、彼らのファンが多いイベントだったらしい。余裕のある時にいつかまた。

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Maira Gall