January 30, 2013

Slow Sound ~下北沢にて~ @ 下北沢440

 渋谷駅構内を全力疾走して電車を乗り換え、下北へ。
 440(four forty)は細長い造りのカフェバー。グラスの氷が溶ける音、煙草の匂い、まあるい水槽みたいな照明なんかに囲まれて、ゆったり過ごせる。キャパ100弱でも後方だと舞台は見づらいけれど、モニターに映像を出してくれる。
 三組目の途中で飛び込んだ。寒さも緩んだ晩冬の夜。


■FLOWER FLOWER
 女性ソロでギター弾き語り。下北っぽいカジュアルな金髪ショートの可愛い人。
 数曲でも聴けて幸運だった。透明感に僅かなハスキーさの混ざった声を聴いていると、ひとつの円が浮かぶ。感情も主張も願いも皆、その円の内に収まっている。不思議と小さくまとまった物足りなさはなく、ただ円がきれいだし心地良い。
 期待の新人さんかなあと調べたら"Good-bye days"の人みたいでびっくり、納得。とうにメジャーだった。外見も歌も随分印象が違って、今日とても惹かれた。次の人も「誰なのか全然知らなかったんだけど、すごくいいよね。俺結構……ガチで好きです」なんて言っていた。こんなキャパはもうないかもしれないけど、また会えるといい。


■波多野裕文(People In The Box)
 男性ソロでギター弾き語り。華奢なカーディガン男子といえばありがちだけど、くるんとおだんごに結わえた髪と、シンプルなシリンダーハットが特徴的。
 ……今更ながら描写。癖のないきれいな黒髪がいつも羨ましい。

1. 中国に行ってみたい
2. ドレスリハーサルの途中(街路樹が増えていく)
3. 8つの卵
4. 君が人を殺した
5. タナトス3号(仮)
6. あなたは誰にも愛されないから

 #1最早定番のアカペラ、と思いきや、途中からiPhoneのボイスメモ?投入。《中国に行ってみたい》を録って、自らも歌いつつ再生して、リアルな声と録音された声のポリフォニーを織り上げる。詞が珍しくモノフォニックなところ、声が多重化されることで世界の複数性に立ち戻る。幾つもの中国が生まれる場の居心地の良いこと。
 基本ポリフォニックな詞の中でも、特に#6はうつくしいオーケストレーション。蛇口から流れる水と泡と、それらが川になって海と出会う、客観描写のクレッシェンドがあればこそ、不意に人が現れて歌い掛ける《あなたは誰にも愛されないから》のインパクトが強くなる。#4やピープルでもこのパターンはあって、意識的なのか判らないけれど巧い。《5月の空は海の色》本当に素敵なアクセント。
 慣れると分析し始める奇癖がある。まとめるなら、好きです。ありがとう。

 いつもより客層が多様で、MCで触れられていたように、聴き方の差異が面白かった。眠ってる?と思いきや曲が終わると熱い拍手を送る人とか、ひたすら首を捻って連れに「わからん」アピールする人とか(#6は集中してた)、微動だにせず見つめる人とか。受容もポリフォニック。対立せず共生する。だから居心地が良い。
 自分の受容もいつも違う。今日は反抗期(笑)だったのか、何とか言葉に侵入されないようガードを固めて、守りきったと思ってハコを出た。けれど街のざわめきのなかひとりになったら、あの言葉や音や場のやさしさが、逆にガードになってくれた。どうしたって作用する。諦めて、安心する。

 #3が好きだった。《流れて 伝わり 悼まれながら 溶けていった》静かでやさしい眼差し。#4《誤って》がなくなっていた。誤らなくても? 久々の#5冒頭はやっぱり《目を凝らすと》のよう。BPM爆上げはなく、ゆったり締め。
 #6《たったふたつでおなかを満たして シンプルなものさ》響く。iPhoneのアラームが鳴って時間切れ。アンコールがないことは最初に告げられていたのに、演者が舞台から下りても皆なかなか席を立たなかったのが印象深い。集団で夢の終わりに気付いていないみたいだった。

わたしたちの現実の人生は、四分の三以上も、想像と虚構から成り立っている。善や悪と本当に接触するなどということは、稀れにしかない。
 - シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』より

 3/4と1/4の境界に触れる歌。また、いつか。

January 28, 2013

QUIET ROOM 2013 WINTER @ 渋谷WWW

 リキッドしかりWWWしかり、好きなハコにはレモネードがある。飲んでる間は夏になる。ダウン着てても夏である。スタンディングかつライブ編成ありでQUIETではなかったから、WINTERじゃなくたって大丈夫だろう。
 VINTAGE ROCK主催、不定期開催の素敵なイベント。また是非WWWで。


■KUDANZ
 初見。なのにずっと前から知っているような、気がした。懐かしさと慕わしさ。舞台の上の人がここにいるのか過去にいるのか曖昧になる。足元から溶けて音になる。
 遅れて行って、聴けたのは数曲。最後、夕陽みたいな照明の中「燃えたい」って繰り返し歌われていた。指先に炎が迫ってきた感覚を覚えている。燃やしたいでも灰になりたいでもなく燃えたいってすごいなあ、と思ったりする。好きな違和感。
 ギターの音も懐かしかった。何だろう。探るには少し時間がかかりそう。


■peridots
 稀にいる歌うために生まれてきたような人のひとりだと思った。前のQUIET ROOMで見た時と印象が違ったのは、フロアの空気のせいだろうか。フラジャイルではないけれど繊細で芯のある声、WWWいっぱいに広がるととても心地良かった。


■People In The Box
 サポートギターとしてハイスイノナサの照井よっちゃんさんが加わり、4人で初ライブ。上手から、横向きのドラム、中央奥にベースの配置までは変わらず。そしてサポートギターを挟み、従来よりやや下手寄りにハンドボーカル。
 ……ハンド! ボーカル!! 装備はマイクと歌声と言葉。
 「Ave Materiaバージョンです」と簡単な紹介がなされたその編成で、本編全て演奏。ボーカリストがギターを手にしたのは3人に戻ったアンコールの一曲のみ。
 ボーカルに専念するのは必然だった。サポートが入ると聞いた時は、ギターが2台になると思い込んでうまく想像できずにいたけれど、始まってすぐに、なるほど! いいね!と思う。CS以降増す一方だったボーカルの力を、ギターを置くことで極大化させていた。時に客ひとりひとりの目の奥まで覗き込み、痕を残すように歌う。「言いたいことが沢山あるんです」そうして生まれたAMのライブでの、必然の変化と映る。

 照井さんのギターはハイスイらしく端整。盛り上がっても冷静な眼差しが残る。とても好きだけど、ピープルに入ると曲によっては引っ込み気味。波多野さんとの違いが面白く、ツアーを経てどうなっていくのか楽しみ。
 気になるMCは軽く「どうも、照井です」くらい。ダイゴマンと化学反応起こして爆発するんじゃないか?と心配していたら杞憂だった。振り切れる方向が違うから大丈夫、だといい。

 「ダンス、ダンス、ダンス」4人で演奏している空気がよく似合う。より解放感があって、体が自由に動く感じ。《森を突き抜けて~》最初から遠慮ないフォルテになっていた。ようやくしっくり来る。
 「物質的胎児」(初演?)音源では間奏のシンバルワークが大好きだけど、今日は黙していて驚き。なぜだ。胎児から「みんな春を売った」の流れ、個人的にテンションの落差半端ない。前者はAMで一番安心する曲、後者はトラウマ級に恐ろしい曲。闇夜のよう。《おかしくなってしまった》ボーカルが強いと一層怖い。しかしベースが格好良い。そして「割礼」(これも初演?)現物が見えなかったけれど、ダイゴマンの右手元でカウベルらしい音が鳴っていた。丁寧で主張を抑えた良いアクセント。
 本編最後「時計回りの人々」は圧巻。イントロ、強い白金の逆光に4人のシルエットが浮かんだ時の、これはやばい!感が最後まで続いた。演奏のディテールを聴く余裕などなく、圧倒されるだけされて終わる。生まれてきて、ピープルを知って、ここまで満たされて、もう充分だなあと思う。さらりと言われた「Ave Materiaツアーでまた会いましょう」が沁みる。

 帰り道、見上げた月は異様なくらいまるく冴えていた。2013年がようやく始まった。

●セットリスト
1. ダンス、ダンス、ダンス 2. 市場 3. 物質的胎児 4. みんな春を売った 5. 割礼 6. 球体 7. 時計回りの人々 EN. ニムロッド

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Maira Gall