August 6, 2013

Björk "Biophilia Tokyo" @ 日本科学未来館

 初見にしてとても特別なライブ。キャパ800人でステージを360度囲むから、とにかく近い。目の前2mの距離にビョーク。徹底された転売対策なのか、開場時に精算に使ったクレジットカードを機械に読み取らせてチケット発券。「プレミアムチケットです」と手渡される。ランダムに整理番号が割り振られて、少しロビー開場で待ってから入場。幸運にも1桁の番号を引き当て、最前で観た。多分こんな機会は二度とない。




 ライブの写真は後日サイトで公開されるらしいので楽しみ。衣装は既に上がっているフジロックと同じDNA daisy balloon dress、日本のRie Hosogaiさんによるらしい。足元は暗い銀色でヒール8cmくらいのウェッジソール、海の底みたいなぐんと深い青に銀のラメ入りタイツ、ウィッグは灰色を基調にDNAドレスと同じ色の糸がふわふわ編み込まれていた。衣装と喧嘩しないためか主張を抑えつつのステージメイク、目は黒の縁取り、瞼に青のシャドウ、しっかりめの眉。唇は艶のある淡いピンクのルージュ。肌白い。顔小さい。ヘイゼルの瞳と視線が絡む(という錯覚を起こす)ひと時の至福。

 あまりにも純度の高い空間だった。開演前のアナウンス「写真撮影、録音、録画はお断りします。家に帰って楽しむのではなく、今体験してください」の理由が今ならよく解る。嘘も本当も、魔法も現実も、言葉も言葉にならないことも、みんな形が判らなくなるまで混ざり合ってビョークによって昇華されて、いまだけがあった。ともすれば簡単に剥がれてしまいそうな存在を世界と密に繋ぎ止めるライブ。ライブというか表現。圧倒的な表現だった。存在そのものの。生きてここにあるということの。

 感想を少し。
Thunderbolt、カスタムメイドされたテスラコイルの迫力と不思議! 紫色の稲妻がバチバチッと発生して音階を成す。まさに"how the three come together; nature, music and technology"。
Moon、ハープ(これは録音)に合わせてとととと、と歩くビョーク自身がBiophiliaと一体化、同一化していることを感じる。靴音も音楽の一部。キュートかつ神秘的な歩き方というものを初めて観る。
Crystalline、ドラム(電子ドラム?)で実際に鳴らされるリズムとビョークの歌とコーラス隊の声と振り付け、それらのハーモニーに上がる上がる! 曲終わり「オツカレサァマ!!」と言われて何事かと。誰もが外国人への説明に難儀しているであろう日本独特の挨拶。気に入ったのか何回か言ってた。アリガァト!もどちらも何でもかわいらしいので良い。
Hollow 会場上のモニターに映し出されるMVと生歌の相乗効果ものすごい。入りの"Hollow"のぞわぞわ感がずっと続いた。
Dark Matter 目の前でビョークがiPad使って演奏しながら歌! タッチすると音階が変わってた。慎重にタッチする様がかわいらしい。
・『Medulla』からMouth's Cradle、最後ビョークがステージ中央に進み、コーラス隊に囲まれて見えなくなっていく演出。cradle/shelterの中に包まれていくように。
Virus、Biophiliaの中で一番内面的で、だから親密に感じられて心地良い曲。奇妙で歪な形をしているのに、アウトロのグロッケンの音には幸福以外の何もなかった。
・幸せなままJógaへ。まさか聴けるとは思っていなくて、モニターにMVが映し出されつつ目の前でビョークが"How beautiful to be"歌っていて、頭の中がpuzzled/confusedしまくっている間に終わった。Biophiliaアレンジもとても良かった。
・Biophiliaは既に充分好きだったけど、ライブで聴いたらまた違う角度から好きになった。本編最後、コーラス隊がいなくなりビョークソロで歌ったSolsticeは一番音源とのギャップがあって印象が変わった。なんて強い曲なんだろうと思う。
・アンコール、"I am sorry that I do not speak Japanese"と言っていたので、ARIGATOもOTSUKARESAMAもばっちりですよノープロブレム、と思う。"(テスラコイル見ながら)We'll play with this toy! Because I LOVE it ;) "キュート過ぎて痺れる。子供の遊びにしてはあまりにも壮大ではないか。
・テスラコイルの稲妻が加わったPossibly Maybeのアレンジも良かった!
・"I would like to ask all the people to stand up!"(指定席もあった)で怒涛のNáttúra Declare Independenceで締め。コーラス隊のお姉様方も煽り踊りヘドバンし、上がり過ぎ踊り過ぎ、"Raise your flag!" "Higher! Higher!"の一体感といったらない。最後ビョークに1mの距離で煽られた。"Higher! Higher!"コールの中、客席の間の通路を通って退場する彼女に触れようと群がる人並みに揉まれまくる。そんなこんなで踊り果てて終了。延々と拍手が続く中、モニターが消え、照明が客電に変わり、ゆっくりと終演。

 生涯忘れないライブのひとつになった。Takk Björk、幸せでした。


■セットリスト
Biophilia Intro (Narrated by David Attenborough)
01. Óskasteinar
02. Thunderbolt
03. Moon
04. Crystalline
05. Hollow
06. Dark Matter
07. Hidden Place
08. Mouth's Cradle
09. Immature
10. Virus
11. Jóga
12. Pleasure Is All Mine
13. Mutual Core
14. Cosmogony
15. Solstice

EN.
16. Possibly Maybe
17. Náttúra
18. Declare Independence

March 29, 2013

『Ave Materia』release tour @ 大阪BIG CAT

 7分咲きほどの桜を京都や大阪城で楽しんだり、たこ焼きつついたりグリコさんひやかしたりと、一泊二日の旅でベタな観光客と化す。地元やのに。
 地元で初めて観る好きなバンドのライブは、ほんまにすばらしかった! マイベストNGO劇場編を上回るくらい最高やった。色々な要素があってそう感じたんやけど、何よりも、ピープルの音楽は自分の根幹に絡み付いて、それをダイレクトに揺るがし得るものなんやって再認した。びっくりするわ。ありがとう!!!


▲右については後述

 東京言葉に戻してみる。

 一昨々日その素晴らしさに打ちのめされたダイゴマンを観たい!と思い上手側へ。今ツアー初めてドラムの近くで体験して、AMにまだまだ知らない表情があることを思い知る。今日は本当に楽しかった。前回の盛岡であれだけ落ちたのに。ピープルは聴く時々で受け止め方がすっかり変わってしまう。
 「みんな春を売った」さえ体が揺れるほど。今までのように怖くなかったのはドラムの音がすぐ近くにあったからだろうと思う。華奢な人だけど、放たれる音は寄り掛かれる大樹のように思えることがある。
 「さよならさ」って一緒に唇に乗せてみると、ふっと体が軽くなった。「さようなら、こんにちは」に繋がっているんだと今更思う。多分個人的にはトラウマ的な曲であり続けるけれど、今日初めて目を合わせることができた気がした。これからだ。
 ドラムに話を戻すと、「ストックホルム」こんなに格好良いパターン叩いてたんだ!とか、これも今更。ピープルの曲は何度聴いても新しい発見があって楽しい。

 ずっと楽しくて、本編でほとんど燃え尽きていたのに、アンコールの最後に「汽笛」が来た。照井さんも一緒に、AMを経ての汽笛! 歌詞の一言一句がダイレクトに入ってくる感覚、CSツアーを超えていた。波多野ソロくらい言葉が強かった。AMがあるからCSや過去作のメッセージも強くなったんだと感じる。ピープルの詞はすごく好きだけど、最初から最後まで言葉のひとつひとつに揺らされるなんて体験は初めてだ。こんなにも素晴らしいライブの最後に《欠けたこころにつかまって / わずかな君を取り留めたよ》とか、泣くしかない。
 そんなこんなで、詞に根底をぐらぐら揺らされていて、折角の照井さんとのツインギターにあまり耳が傾かなかった。それでもあの声だけになるパート、4人のコーラスが一層うつくしかったのは覚えている。色々な意味でまた聴きたい。
 何となくやってくれる気がしていたダブルアンコール、曲は「ヨーロッパ」、3人で演奏。汽笛で散々揺らされた後の《君の胸騒ぎが本当になるといいな》しんだ。少し大人びて変質しても、ヨーロッパの強度は変わらない。
 終演直後の自分のツイートが生々しい。120分の魔法だった。少しずつ薄れていくんだろうけれど、消えることはない気がする。傷跡みたいな残り方をしている。

 「気合い入っとるけん!」という波多野さんの宣言で始まったこの日、彼らにとっては昨年12月の胞子拡散祭@梅田のリベンジのようだった(後述)。自分にとっては、FRツアーBIG CAT公演のリベンジだった。震災の混乱に揉まれて中止になったあの日、2011年3月12日のことを思い出したりした。そんな諸々が重なった「ヨーロッパ」のアウトロがとどめになった。しんだり生きたいと思ったりいそがしい。


爆弾の音が聞こえたとき
きみはもうひとりではない

辺りにはもう誰もいないけれど
きみはもうひとりではない

『Ave Materia』の演奏旅行が街にやってくる
きみだけはもう、ひとりではない


- オープニングの詞より



■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 失業クイーン
11. ストックホルム
12. 旧市街
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. 市民
02. 完璧な庭
03. 汽笛

EN-2.
ヨーロッパ


■MC
・序
だ「健太がスネアを練習しました!」
ふ(ドラムスティック掲げる)
(会場拍手!)
だ「この日のためと言っても過言ではございません!」
ふ「過言ではないですね~」
だ「『序』のため、いや大阪のためと言っても! 過言ではございません!」
ふ「過言ではないですね~!」
(客爆笑)
ふ「だから、皆さんもウォウウォウ言ってくださいね」
は「いけるかー!って(笑)」※9mm定番の煽り
だ「何か聞いたことあるなあ(笑)」
は「いけるのか大阪ー!」
客「「…………おおー!」」
は「この空気ね、嫌いじゃない(笑)」

・グッズ紹介
だ「さあ、このエコバッグに何を入れていますか?!」
は「あのー、名前が出てこない、眼鏡かけた人……」
だ「?」
は「太鼓持った、」
だ「俺ですかぁ?!」
(会場爆笑)
客「くいだおれ太郎?」
は「ああ、そう、くいだおれ!」
だ「ああー! 俺かと思いましたね! 眼鏡で太鼓持って。俺普段眼鏡だから(笑)」
(会場笑)
だ「(客に)あれくいだおれ太郎っていうの?」
(客頷く)
だ「ふうん。くいだおれ太郎か山口大吾か! みたいなね!」

・胞子拡散祭
ふ「大阪は、前回のライブが、ね。ちょっと」
は「そうだね……あの伝説のライブ(笑)。あの時来てた人、いますか?」
(フロア、7割ほど手が挙がる)
ふ&だ「おおー」
は「あ、良かったー。嬉しい。本当に嬉しいです、ありがとうございます!」
(客拍手)
は「来てなかった人のために説明すると、俺の声が出なかったんだよね。風邪で。……アノコハッ」※ニムロッド冒頭、ひそひそ声で再現
ふ「僕のコーラスがメインボーカルみたいな(笑)」
は「[対バンの]THE NOVEMBERSの小林くんがアンコールで『はじまりの国』を歌ってくれてね」
だ「あのライブは忘れられないね」
は「ほんとに。多分俺、大阪来る度に思い出すと思う(笑)」

March 26, 2013

J-WAVE「THE KINGS PLACE」LIVE vol.2 @ 新木場STUDIO COAST

 KPナビゲーターが集まってのライブ第二弾。COAST好きだ。

■androp
 初見。あくまでも個人的に、プラスチックみたいだと思った。予め用意された台本に則って進行する、額縁の向こうの劇のような。フロアで跳ねている人達にはきっと全然違う風に受け取られているんだろう。という意味で新鮮だった。


■People In The Box
 照井さんを加えたAM編成。4人では今までで一番大きなハコ? とはいえ、配置もメンバー間の距離も変わりなし。違ったのは、客層と、照明がより映えていたことと、ドラムセットが(多分転換の都合で)高さ50cmくらいの台に乗せられていたこと。
 何よりも、山口大吾のうつくしさ! これに尽きた。散々書いているし、ライブの度に思っているけれど、改めてはっとした。生命そのもの。しなやかさで躍動感溢れるドラミングに両性併せ持つ音。比類なきアーティスト。ピープル以外にも、もっと色々な人とシチュエーションで観てみたい。
 客層がいかにも邦楽ロック的で新鮮。一曲目「旧市街」のイントロから最前辺りの一部でいくつも腕が上がっていて、この人達はどうなるのかと眺めていたら、時々棒立ちになりつつも基本的にサビでは腕を上げて乗り続けていた。バンドへの親愛の意思表示なんだろうと思うといとおしい。《空をかえせ》デモのようだった。
 攻めの6曲。「ニムロッド」締めで波多野さんがドラムの台に乗って、一拍ブレイクの後にダイゴマンと音を放つ、その光景が本当にきれいだった。締め方にバリエーションがあると良いなといつも思うけれど、時々こういう瞬間が見られるのは嬉しい。
 ダイゴマンMC、客のノリの良さがうまく作用して、一際輝いていた。楽しかった!

●1. 旧市街 2. 球体 3. ダンス、ダンス、ダンス 4. 市民 5. 完璧な庭 6. ニムロッド


■クリープハイプ
 やっぱりボーカルが素晴らしい。生まれたばかりのみどり児のような、人に訴えて惹き寄せる声。苦しみにも悲しみにも喜びにも嘘がなくて、直球でぐさぐさ刺さる。かと思えば演じ方も巧い。演じる=嘘ではなく、本当を伝えるための演技なのだろうとこの人については思う。何かの曲の最後、音が徐々にディミニュエンドしていって遂に途切れた時、ちいさく「ありがと」と呟いたのには痺れた。やるな。
 バンドの演奏がそのボーカルから剥がれていないのはきっとすごいことなんだろう。巻き上がる風に自ら乗って音が舞い踊るイメージ。風が進み続けるのを後押ししたりもするし、時にボーカルを包む緩衝材のようでもある。
 結構好きなんだけど、どう聴くべきかまだ解っていない。ダイバー多いから前方は厳しいし、ワンマンもためらわれる。またいつかの対バンを楽しみにしていようかな。


■Nothing's Carved In Stone
 3度目のナッシングス、今日が一番楽しかった! こうして数組の対バンで聴くと彼らの音の重厚さが際立つ。ボーカルのMCが正直合わないと思っていたけど、今日は少しやさしく感じたり。耳馴染みのある曲が少しずつ増えてきたり。
 Everything's carved in our memory! と言い切るにはあまりにも記憶力が頼りないけれど、そう思いたいくらい楽しいライブだった。また、きっと。

March 20, 2013

『Ave Materia』release tour @ 盛岡Club Change

 ふらりと当日券で盛岡へ。去年も春分の日はこんなだった。
 岩手県美に「アートフェスタいわて2012」を観に行った。素朴な花の絵も、避難所の写真も、様々な海の表現も、ひとつひとつ体に響いた。アートから溢れる沢山の主張を取り込んで、余韻の渦に巻き込まれたまま、ぼんやり駅から40分歩いてハコに着く。


▲券面手書き!

 会場の形が何だか歪で面白い。フロアを上から見ると )) ←こんな?なのか、右上と左中程にスピーカーがあり、上がステージ、右下にドリンクカウンター。キャパ小さくてステージが近い上にスピーカーも近くて、音がいつもより傍にあった。

 照井さん加入してはどうか?くらいの感じになってきた。だけどそうなるとハイスイも聞きたいので困る。勝手なシミュレーションで困る。
 メンバーとはまた違うダイナミズム。彼のいない「物質的胎児」や「八月」などなど、を考える方が難しくなっている。AM以外でも「市民」とか「金曜日 / 集中治療室」とか、ツインギターいいな、と思うことも多い。MCを徐々に侵食してきている感じもとてもいい(後述)。
 そして、これほど変化してもピープルはピープルのままだ。雪の結晶を連想した。街のあちこちで溶け残った白を見たからかもしれない。




 個人の感想を連ねます。と、前置きして書きます。

 AMは半端なく重たいアルバムで、それは聴き始めた時からずっとそうだったけれど、どんどん度合いを増してきて、今日が一番重たかった。ほとんど苦行。なのに聴かずにはいられない。
 《空がおちてきたところで / 指くわえ みているだけさ》と言われたら、空に潰されるならいいなあと思い、《土足厳禁の庭で息をとめるのかい?》と問われたら、そうだよと答える。そういう反応をしたのが今日だった。
 「みんな春を売った」今までより更につらかった(つらい、という言葉をとても久しぶりに使う)。「物質的胎児」で生まれようとするいのちを前に、聴きに来てごめんなさい、と思う。このうつくしい空間に立ち会うことをひどく場違いだと感じた。
 「火曜日 / 空室」くらいから持ち直して、「序」の楽しさを通って、「ニムロッド」も重たい曲だと思うけれど、《あなたの絶望で空が晴れ渡るよ》に辿り着くと少しほっとした。バタイユ。

 AMで飛び抜けて再生回数の多い「物質的胎児」は、期待値が高いこともあってか、ライブだと一番難しい曲。それでも「みんな春を売った」という衝撃のクッションになり得る曲は他に浮かばない。
 《あんぜんなみどりむし》と並んで《いるか すべりこんだ》が好きだ。ドルフィン=デルフォイ→音楽の神アポロンの連想と、イルカは自殺する動物だという昔聞いた話とが、曲とないまぜになる。胎児に音楽と死がもたらされた一節。そこで生が始まる。生も物質だと個人的には思う。"Ave Materia"は、発売前の勝手な予想とは全然違ったけれど、変わらず祝福のように響く。
 AMは、ピープルは、「生きろ」とか「死ぬな」とかいう直球を投げない。そのすれすれのところを進んでいるんだろうとライブでは思う。選択を、あるいは選択のための熟考を、オーディエンスに促す。だから死を選ぶ余地も残されてはいる。その僅かなスペースで息をするように、観ていた。ステージのうつくしさが遠かった。



絶望のさなかにあってぼくは幸福だった。

- ジョルジュ・バタイユ『青空』天沢退二郎訳より



 混乱したまま書いたらひどいことになった気がする。正気に戻ったら消そうかな。
 彼らのパフォーマンスはいつもながらに素晴らしかったことを強調して、締めます。MCが冴えていたので下に。


■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 完璧な庭
11. 火曜日 / 空室
12. ストックホルム
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. 市民
02. はじまりの国
03. 旧市街


■MC
・グレイ
だ「サポートギター、ハイスイノナサ照井順政!」
客(拍手!)
ふ(照井さんの左腕を高く掲げる)
客(拍手!)
は(照井さんの右腕を高く掲げる)
だ「ははは! グレイみたい、連れ去られた(笑)」

・UMA
だ「よっちゃんUMAとか詳しいんでしょ?」
て「UMAね、うん」
は「(客に)UMAっていうのは、未確認……生物」
て「(頷く)未確認生物。モンゴリアンデスワームってのがいて」
だ「ほう」
て「敵を見つけるとぴゅって毒を飛ばすの。で、毒が避けられると、電撃を出す」
だ「すげえな!(笑)」
客(笑)
て「こいつがね、一番いる可能性が高いって言われてる」
だ「はははは! えー、そんなモンゴリア……」
て「モンゴリアン、デスワーム」
だ「モンゴリアンデスワーム、を倒すために! 僕たち次の曲を作りました!!」
客(爆笑)
だ「モンゴリアンデスワームを倒すために、健太がスネアを練習しました!!」
客(笑&拍手!)
ふ「『序』のためじゃなく(笑)」
だ「『序』のためじゃなく! あくまでも、モンゴリアンデスワームを倒すために! 俺がスネアを教えました!!」
客(爆笑)

・アンコール
(拍手の中、メンバー再登場)
ふ「今日はやらないの」
は(福井さんの視線に少し応えて、俯いて、笑顔でフロアに向き直る)
は「……アンコールワット、ありがとうございます」
客(笑&拍手)
は「いつからかこうなったんですけど、なんかねー、ひっこみがつかなくて(笑)」
だ「バリエーションがあるといいね」
ふ「そうだね。バリエーション増やせば?」
は「バリエーション……」
だ「うん……」
は「っていっても、アンコール……ワットくらいしかないでしょう?! ははは!」

March 14, 2013

『Ave Materia』release tour @ 金沢AZ

 金沢、変わらずとても居心地の良い街だった。「金沢に来ると、戻ってきたような気持ちになります。ただいま」との波多野MCに、訪問2度目ながら共感を覚える。そのせいなのか、何なのか、和やかなライブだった。


▲AZボトル!(剥がした)

 4回聞いてもポエトリーリーディングの3番目と6番目の文が聞き取れず、もどかしい。波に消されていく砂浜の文字のよう。波に負けずくっきりと記憶に残るあの結句の後、いつものSE("And I'm Singing" by Jim O'Rourke)に繋がっていくの好きだ。何度体験しても、四方八方から色々な形の時計や音に囲まれる立体感堪らない。
 セットリスト、1~9曲目と13~16曲目がほぼ固定になったのかも。間の3曲とアンコールがシャッフル対象。「火曜日 / 空室」のアウトロ、轟音の中から立ち上がる「ストックホルム」が久々に聴けて嬉しい。こういう繋ぎもっと聞いてみたい。

 3曲目が終わった後、最初のMC。「『Ave Materia』というアルバムは……すごい名盤なんだよねー。ほんとこんな名盤ですみません(笑)」波多野さんが楽しそうに語り始める。「どうして名盤かっていうと、これは各地で何でだろう?ってMCしてて気付いたんですけど、すごく踊れるんですよ。踊るっていうのは、今皆さんの心臓がどくんどくんいってるでしょう? あー、この話やめとこうかな? ……皆さんの心臓がどくどく動いてる、それが、踊りです」CSツアーファイナルに通じるダンス話。こういう話が聞けるのはとても嬉しい。
 21世紀美術館で観たばかりのラファエル・ロサノ=ヘメル「パルス・ルーム」と結び付く。心拍が電球の明滅に変換されて、約300個がそれぞれのリズムで瞬く作品。明滅そのものも、壁に映るシルエットも、しゃらしゃら鳴っている音もうつくしく、不思議と居心地の良い部屋。金沢でこのMC聞けて良かった。ありがとう。

 個人的な鬼門「みんな春を売った」さえ、少し優しかった。最後の《いつか君も おとなになるよ》(余談だけどここだけ「君」が漢字なのは意図的なんだろうか)を歌う波多野さんがしゃがんで、それだけでフロアと距離が縮まる。客に言葉を突き刺すような前半の歌い方から変わって、舞台上手、遠くを見ながら歌うような姿も優しく感じた。
 「ブリキの夜明け」ではアンプに乗って歌い始めて驚く。高い。海の果てまで、空の彼方まで、どこでもないところまで、届くといい。《警笛がひとつ鳴り渡る》照井さんの警笛ギターの主張が強くなっていた。いいね。
 「八月」最後の繰り返しの何度目かで、テンポ急上昇。勿論仕掛け人はフレーズを先導するダイゴマンである。「シャン! シャン! シャン!」と速く鳴らされるシンバルを聞いた他のメンバーが、一斉に楽器構え直して姿勢正していて笑う。終わった後、波多野さんが「速え(笑)」と呟く。楽しかった!

 「序」冒頭の素敵なアレンジ、リズム隊がようやく見渡せた。ダイゴマン先導でワンフレーズ叩いた後、ドラムスティックでびしっと指された福井さんのスネア。昨夏劇場編のタンバリンを思い出す。器用で柔軟な人。ダイゴマンと福井さんのスネアダイアローグが何度か続く。びしっと決めて一拍ブレイクを挟み、波多野さんのボーカルとタンバリン、照井さんと客のボーカルと手拍子が加わる。
 盛り上がりが頂点に達したところで「金曜日 / 集中治療室」になだれ込むのいいね。照井ギターが加わって音の渦が更に大きくなっている。踊れ踊れと音が煽る。楽しく聴いていたら、間奏の途中、いつもホイッスルが鳴るところで不意に演奏が途切れた。

 ……
 ♪ パフ!(バラエティ番組のラッパの音)
 客「!?」
 ダ「この続き、いつやるのか……今でしょ!!!」
 客「!!!!!」
 ♪ Aは花を散らーしてー♪

 びっくりした! 最近流行ってるCMらしい。めちゃくちゃな集中治療室では何だって起きる。
 「ニムロッド」から「さようなら、こんにちは」へ繋いで、本編おしまい。"Ave Materia"の意味を、彩りを、何度も考える。
 アンコール、攻めの三曲もキレキレで良かった。「完璧な庭」何度聴いてもどこか新しい。今日は演奏の最後、一拍溜めてジャーンジャカジャカジャカ……ってなるところの溜めがぴしっと決まり、一瞬の残響が深い空洞に響いているようでぞわりとした。1秒にもみたない瞬間が忘れられないこともある。

 3週間ぶりくらいに観たピープルは、照井さんがすっかり馴染んでいた。MC含め(後述)。着実な変化の跡を辿ることができて面白い。
 CS以降のピープルを観ると、生きることは美しいのだと思う。AMが出てからその感覚が一層強くなった。雨も血液も夜の闇も、鳥も空も人の足跡も皆ひっくるめた美しさ。なので混乱する。どうしてそんなことが可能なんだろう。

 3月半ばの金沢は、もう積もってはいないけれど、時折雪のかけらがちらちら舞っていた。冬にさよならを告げて東京へ戻る。夏でもあまり晴れる日は多くないのだと聞いた。それでも、金沢にはまたきっと来たい。


■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 火曜日 / 空室
11. ストックホルム
12. ペーパートリップ
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. 市民
02. 完璧な庭
03. 旧市街


■MC
・アンコール
は「アンコール……ありがとうございます」
客(拍手)
だ「あれ? 今日はないの」
は「……アンコールワット、ありがとうございます」
客(笑)
は「忘れてください。記憶を遠くの、カンボジアの遺跡に埋めてください(笑)」

・SANAA
は「どやった? 21世紀美術館」
て「素晴らしかったです! あんな場所が近くにある皆さんが羨ましいです」
だ「よっちゃん、建築とか好きなんやろ?」
て「そうだね。一番好きなSANAAって建築家が設計してて。本当に素晴らしい」
だ「俺こないだSANAAに会ったよ!」
て「ははははは! 会ったんだ?」
は「俺もよく会うよ。CD貸したり」
て「CD(笑)」
ふ「何のCD? B'zやろ(笑)」

・スネア
だ「すごいねさっき、こういうの(だらららら……とロール?実演)やってたね!」
ふ「うん」
は「それ結構難しいよね」
だ「難しいかなあ?」
 (だらららら! だだ! だらららららら!とさすがのスネア捌き)
 「ま、こんなもんですけどね!」
客(拍手)
ふ「折角褒めてくれたのに、だいなし(笑)」

・金沢
は「金沢マテーリア!」
だ「言いたいだけやろ!(笑)」

February 24, 2013

『Ave Materia』release tour @ 松江canova

 島根へ飛んだ。川と大きな湖と気分屋の空、ジャパニーズな様式美、気さくな人達。大阪と京都を混ぜて冷まして雲で覆って、すごくマイルドにしたような街。(わかりづらい) とにかく素敵だった! 足立美術館、また何度だって来たい。

 旅先で観るライブは不思議だった。非日常に入り込む日常。いつの間にかピープルは日常に組み込まれてしまったんだろうか。とか考える。
 水の街松江とピープル、親和性高い。「ブリキの夜明け」今日はより特別に聞こえた。canovaは国道9号線を隔ててすぐに、波多野さん曰く「海がある!と思ったら湖だった。ふふ」という宍道湖と接する。昼間体に取り込んだ空気とよく馴染んだ。
 どんなに満たされてもほとんどが薄れてしまう中で、強烈に記憶に焼き付く演奏というのがある。その時の気分に合うとそうなる。運みたいなものだ。丈夫なリズム隊と、やわらかい照井さんのギターと、そこに乗る風のようなファルセットのスキャット。が、ふっと途切れて、ブーンというアンプの小さなノイズが満ちる。幸せだった。

 セトリ大枠は変えず、一部入れ替えていた。さらっと「She Hates December」が聴けて、島根ありがとう!!と思う。来て良かった。照明が夕暮れみたいで、リリイ・シュシュ「飛べない翼」とリンクしてしまったり、した。リリイが生まれたのも青猫が死んだのも、そういえば12月だ。
 「みんな春を売った」→「物質的胎児」→「ブリキの夜明け」→「八月」の流れ、鳥肌。春を売って胎児がつくられ、夜が明けたら息をしていることを告げられる。最初の二曲で既に持っていかれたのに、「ブリキの夜明け」は先述の通り特別だったし、畳み掛けるように「八月」が来た。
 「八月」の後も本編ずっと照井さんがいて、波多野さんとツインギター。高崎では途中抜けていたと思ったけれど、もう自分の記憶に自信がない。SHD間奏のギターソロは波多野さんがいつものように穏やかに弾いていて、いつものように寄せては返す波をぼんやり眺める気持ちになったのを覚えている。

 AMは途方もなく重たいアルバムだと、改めて思う。死に臨み、生を歩む。
 重たい原因の筆頭、個人的な超トラウマソング(笑)(開き直った)「みんな春を売った」は、AMに不可欠だと思うようになった。少し受け入れられるようになったんだろうか。ファイナルまでに向き合えるかな。今のところイントロが流れると体が固まる。鏡を見たメデューサのごとく。

 MCの話。ダイゴマンの“ばーちゃん”が島根の方で、自身も昔喘息だった頃に1年ほど滞在したらしく、「島根は無条件で好きだね!」と言っていた。松江を歩いていたら覚えている風景にも出会ったそうだ。思い入れのある、やさしい話し方だった。
 後は、波多野さんと福井さんが時間差でそれぞれ松江城に行っていたという話、ピープルらしいなあと思う。個々に独立していても芯が似ているような印象。

 ツアー全21公演中、6公演目の松江。まだ半分にも達していないのにこれだけ変化して、これから一体どうなってしまうのか。おそろしく楽しみだ。


■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 沈黙
11. はじまりの国
12. She Hates December
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. スルツェイ
02. 市民
03. 完璧な庭
04. 旧市街

February 15, 2013

『Ave Materia』release tour @ 高崎club FLEEZ

 雨の降った跡を空気と地面に残しつつ、着いた高崎は晴れていた。
 ライブ前の冴えた三日月、撮っておけば良かったな。

 代わりに、ということでもないけれど、ツアーグッズ!
 今までで一番好きだ。みどりむし! 多分あんぜん。


▲緑:Tシャツ、青:コットンバッグ

 街、時計、太陽、地球儀、ダンス! AMのモチーフが沢山。
 Tシャツとバッグで原画のアレンジが違うところにこだわりを見る。色が、AMジャケと合わせると光の三原色のよう。
 バッグ、マチはないものの、しっかりしたキャンバス地。A4の薄いファイルなら幾つか余裕をもって納めてくれる。実用性◎
 物販混み合っていたのに、残響の某さんがにっこり応対してくださり和む。

 ライブとても楽しかった。照井ギターが振り切れ始めた! 丁寧な演奏は変わらず、出るところは出るよう腹を決めた感じ。馴染むまでもう少し。成長途中の今のバランス、見事に毎回変化があって楽しい。
 割と序盤で波多野さんの「やべー、すげえ楽しい!」が聞けた。と思ったら、後半「楽しいだけじゃ物足りない」という名言が出て笑った。その通りだ。
 曲目は初日とほぼ同じで、順番を変えてきた。初日は初日でとても良かったけれど、AMの曲が本編に収まる今日のセトリ好きだ。
 波多野さんは10曲目「八月」の歌詞終わりまでボーカルのみ。アウトロでこの日初めてギターを手にした時、またひとつ何かが動き出すような気がした。戻ってきた気もした。その構造自体がAMの主張をなぞっているようでもある。11から13曲目まで3人になり、14曲目「序」で照井さん再ジョイン。アンコールは3人。





 言葉でこのライブのこころに触れようとすると、やっぱりいつも以上に個人的なことを書きそうで、ストッパーがかかる。
 確かだと思うのは、ライブが楽しいこと。居心地が良いこと。ピープルが目の前で演奏していること。シンプルなひとつひとつを確かめて積み上げていく。
 アンコール最後の「Alice」、あの本編の後だと、まっさかさまでも大丈夫だなあと思った。《「君は誰の子だい?」》を振り切るように落ちる。心地良くさえある。そうして変わっていくこともある。変わらないこともある。
 魔法みたいだった、というとほうきに乗って空飛びそうだけどそうではないし、薬のようだった、というと何だか怪しげである。どう言おうか。気付かず欲していたものを与えてくれる感じ。……やっぱり魔法かもしれない。

 センス良い開場時BGMは福井氏セレクトだろう説を唱えて、今日はここまでにします。Fleet Foxes"Ragged Wood"、Sam Prekop"C + F"嬉しかった!


■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. ブリキの夜明け
08. ニコラとテスラ
09. 物質的胎児
10. 八月
11. 市民
12. 完璧な庭
13. 旧市街
14. 序
15. 金曜日 / 集中治療室
16. ニムロッド
17. さようなら、こんにちは

EN.
01. ベルリン
02. 笛吹き男
03. Alice

February 14, 2013

VALENTINE ROCK Vol.6 —愛のロックを鳴らそう— @ LIQUIDROOM

 雑誌MUSICA企画。ごみ箱に大量のみかんの皮を見て何事かと思ったら、主催者が配っていたらしい。なぜみかん。芥川の「蜜柑」ならロック。「私はこの時始めて、云ひやうのない疲労と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出来たのである」!


■クガツハズカム
 初見。きのこ帝国ボーカルのギター弾き語り、途中から観た。
 初期Salyuに霞をかけたようなアンビエントな歌声の中から、小谷美紗子みたいな真っ直ぐな主張が立ち上がる。やわらかな耳触りでありつつ、芯が強く凛としている。
 跳ねのけたくなるような重たさだった。あの重みが好きな人はきっとすごく好きなんだろう。9月、夏が闘って戦って殺されていく感覚を確かに思い出した。


■People In The Box
 アコースティックセット! 3人編成。劇場編みたいにゆるいMC挟みつつの全5曲。
 MUSICA有泉さんの紹介「魂持っていかれる系のバンド」を、ダイゴマンがネタっぽく連呼していたの笑った。個人的には最近は「魂取り戻してくれる系のバンド」みたいな気がしている。どちらにしたって魂に働きかけるのだからとんでもない。

1. 土曜日 / 待合室
 しばらく聴けないと思っていたから嬉しい。一音一音が心地良い雨粒のよう。
 ひとつひとつ地に沈んで染みていくようなアウトロが好き過ぎる。
2. 天使の胃袋
 LosTバージョン。ボーカルの高音がしっかり伸びて、リキッドいっぱいに満ちた。
 《電池が切れてしまった僕ら / だから次の世界で息をするよ》沁みる。
3. 木曜日 / 寝室
 出たー! バンジョーだ!(心の叫び)
 今日は木曜日。5曲の中でピープルの振れ幅が存分に表れていて楽しい。
4. ダンス、ダンス、ダンス
 「『Ave Materia』は僕らにとって大切な1枚」というMCに続いてこの曲。
 ひとつの生命がみえた。生まれたばかりの小さな生きものの、血流や脈拍や呼吸のようなアンサンブル。みんなが自由に踊るエレクトリックに対して、アコースティックは演奏のいのちを見守るような。ピープルを貴いと思うのはこういうところだ。
5. 球体
 最後に伏兵がいた! まさかのアコースティック球体。
 冒頭、雲か煙に一面覆われていくような不穏なアレンジに乗せての《球体に守られて だれもが痣だらけ》ぞわりとする。何度も繰り返されて徐々に浸透してくる。エレクトリック版よりじわじわ攻める様はほとんど老獪。逃げ出したくなるところで《空を返せ》の澄んだ主張ときれいな福井コーラスに救われる。巧いなあ。

 曲と彼ら自身のしっかりした骨格と柔軟さ、アンサンブルの妙、そしてダイゴマン曰くエレガントなMC(笑)の楽しさが存分に溢れるライブだった。またいつでもぜひ、アコースティックで。


 転換中は鹿野さんのDJタイム。Syrup16g"My Song"が流れた。何の確信もないまま並々ならぬ期待をしていたら本当にかけてくれて、嬉しくなる。Syrupの音が、五十嵐の声がリキッドに広がっていく。来て良かった。ありがとう。


■日高央
 初見。一昨日twitterのDMで依頼、昨日追加発表、今日演奏となったらしい。前半がソロ、後半は彼の今のバンドらしいTHE STARBEMSのメンバーと演奏。この面子だと浮くかと勝手に思っていたら、ベテランの風情はありつつ、音の楽しさは同じだった。


■川上洋平&庄村聡泰
 初見。有泉さんによるとユニット名は「座パンプキンズ」で「ザがTHEじゃなく座るの座なのがポイントらしい」。[champagne]のギタボとドラムに、サポートキーボードの3人編成。要所要所キーボードが素敵な仕事してた。
 一曲目に痺れる。Waitress, Waitress!という曲だと教えてもらった。"Absalom, Absalom!"にウェイトレス出てきたっけ?と思ったが多分関係ない。ともかく格好良かった! シャンパーニュだと思ってて申し訳ない、シャンペイン覚えた!

February 11, 2013

『Ave Materia』release tour @ 宇都宮HEAVEN'S ROCK VJ-2

 いよいよツアー初日。当日券出してるのが謎なくらい、箱の中は満員。やあみんなどこから(略)。
 舞台あまり見えなくて、レポらしいことは書けそうにない。時々福井さんが見えたのは嬉しかった。何度でも言っておこう、最近どんどんアグレッシブになるベースプレイ観るのが楽しくて仕方ない!
 ピープルで一番体が動いたライブだった。周りもかなり自由に揺れたり踊ったり。宇都宮の人がノリ良いのか、これまでほど変拍子の嵐じゃないからか、バンドの自由さのリフレクションか。曲間の沈黙との対比が面白い(時雨と似てる)。

 オープニングのポエトリーリーディング、CSツアーに近い音。不穏な電子音に揺さぶられ、柔らかいギターに宥められ、の繰り返し。最後の台詞はもったいなくて、まだ書けない。あの言葉にあれだけの強度を持たせられる人、他にいるだろうか?
 開始から数分と経たず心の根っこを掴まれてしまって、来たことを少し後悔した。生きるつもりじゃなかった。
 けれど水中みたいな青い照明の中、いつもの時計の音 - Jim O'Rourke "And I'm Singing"(今を見越していたかのようなタイトル!) - が空間いっぱいに満ちると、帰ってきたような気持ちになる。居心地の良い場所。
 冒頭、波多野さんの「『Ave Materia』ツアーへようこそ」にはっとする。CSの時は録音された声にそう告げられたところ、今回は目の前で。また前に出て距離を詰めてきた。WWWでの「またツアーで会いましょう」とひと続きになってもいた。

 ……この調子で本編行くと余計なことばかり書きそうなので、切り上げる。

 ざっくり言うと、意外だったり(アンコール)、やられた!と思ったり(本編ラストの衝撃!)、感慨深かったり(笛吹き男とAlice、新しい意味を与えられて成長していくようでとても嬉しかった)。
 アンコール終わっても、ダブルを求める拍手が止まなかった。個人的にはあの後だと何を聴いても余分になる気がして(実際聴けたら違うのかもしれない)、ひと足早く会場を出た。あの後どうなったんだろう?

 あと何箇所か行くつもりだけど、怖い。でもやっぱり見てみたい。どないやねん。
 つらつらとiPhoneに打ち込んでいたら、東京に着いた。鉛筆でざかざか下描きしたみたいな文の連なり、たまにはそのまま上げてみます。


●セットリスト(多分)
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. ベルリン
08. 笛吹き男
09. Alice
10. ニコラとテスラ
11. 物質的胎児
12. 八月
13. ブリキの夜明け
14. 市民
15. 完璧な庭
16. 旧市街
17. バースデイ

EN.
01. 序
02. 金曜日 / 集中治療室
03. ニムロッド
04. さようなら、こんにちは

January 30, 2013

Slow Sound ~下北沢にて~ @ 下北沢440

 渋谷駅構内を全力疾走して電車を乗り換え、下北へ。
 440(four forty)は細長い造りのカフェバー。グラスの氷が溶ける音、煙草の匂い、まあるい水槽みたいな照明なんかに囲まれて、ゆったり過ごせる。キャパ100弱でも後方だと舞台は見づらいけれど、モニターに映像を出してくれる。
 三組目の途中で飛び込んだ。寒さも緩んだ晩冬の夜。


■FLOWER FLOWER
 女性ソロでギター弾き語り。下北っぽいカジュアルな金髪ショートの可愛い人。
 数曲でも聴けて幸運だった。透明感に僅かなハスキーさの混ざった声を聴いていると、ひとつの円が浮かぶ。感情も主張も願いも皆、その円の内に収まっている。不思議と小さくまとまった物足りなさはなく、ただ円がきれいだし心地良い。
 期待の新人さんかなあと調べたら"Good-bye days"の人みたいでびっくり、納得。とうにメジャーだった。外見も歌も随分印象が違って、今日とても惹かれた。次の人も「誰なのか全然知らなかったんだけど、すごくいいよね。俺結構……ガチで好きです」なんて言っていた。こんなキャパはもうないかもしれないけど、また会えるといい。


■波多野裕文(People In The Box)
 男性ソロでギター弾き語り。華奢なカーディガン男子といえばありがちだけど、くるんとおだんごに結わえた髪と、シンプルなシリンダーハットが特徴的。
 ……今更ながら描写。癖のないきれいな黒髪がいつも羨ましい。

1. 中国に行ってみたい
2. ドレスリハーサルの途中(街路樹が増えていく)
3. 8つの卵
4. 君が人を殺した
5. タナトス3号(仮)
6. あなたは誰にも愛されないから

 #1最早定番のアカペラ、と思いきや、途中からiPhoneのボイスメモ?投入。《中国に行ってみたい》を録って、自らも歌いつつ再生して、リアルな声と録音された声のポリフォニーを織り上げる。詞が珍しくモノフォニックなところ、声が多重化されることで世界の複数性に立ち戻る。幾つもの中国が生まれる場の居心地の良いこと。
 基本ポリフォニックな詞の中でも、特に#6はうつくしいオーケストレーション。蛇口から流れる水と泡と、それらが川になって海と出会う、客観描写のクレッシェンドがあればこそ、不意に人が現れて歌い掛ける《あなたは誰にも愛されないから》のインパクトが強くなる。#4やピープルでもこのパターンはあって、意識的なのか判らないけれど巧い。《5月の空は海の色》本当に素敵なアクセント。
 慣れると分析し始める奇癖がある。まとめるなら、好きです。ありがとう。

 いつもより客層が多様で、MCで触れられていたように、聴き方の差異が面白かった。眠ってる?と思いきや曲が終わると熱い拍手を送る人とか、ひたすら首を捻って連れに「わからん」アピールする人とか(#6は集中してた)、微動だにせず見つめる人とか。受容もポリフォニック。対立せず共生する。だから居心地が良い。
 自分の受容もいつも違う。今日は反抗期(笑)だったのか、何とか言葉に侵入されないようガードを固めて、守りきったと思ってハコを出た。けれど街のざわめきのなかひとりになったら、あの言葉や音や場のやさしさが、逆にガードになってくれた。どうしたって作用する。諦めて、安心する。

 #3が好きだった。《流れて 伝わり 悼まれながら 溶けていった》静かでやさしい眼差し。#4《誤って》がなくなっていた。誤らなくても? 久々の#5冒頭はやっぱり《目を凝らすと》のよう。BPM爆上げはなく、ゆったり締め。
 #6《たったふたつでおなかを満たして シンプルなものさ》響く。iPhoneのアラームが鳴って時間切れ。アンコールがないことは最初に告げられていたのに、演者が舞台から下りても皆なかなか席を立たなかったのが印象深い。集団で夢の終わりに気付いていないみたいだった。

わたしたちの現実の人生は、四分の三以上も、想像と虚構から成り立っている。善や悪と本当に接触するなどということは、稀れにしかない。
 - シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』より

 3/4と1/4の境界に触れる歌。また、いつか。

January 28, 2013

QUIET ROOM 2013 WINTER @ 渋谷WWW

 リキッドしかりWWWしかり、好きなハコにはレモネードがある。飲んでる間は夏になる。ダウン着てても夏である。スタンディングかつライブ編成ありでQUIETではなかったから、WINTERじゃなくたって大丈夫だろう。
 VINTAGE ROCK主催、不定期開催の素敵なイベント。また是非WWWで。


■KUDANZ
 初見。なのにずっと前から知っているような、気がした。懐かしさと慕わしさ。舞台の上の人がここにいるのか過去にいるのか曖昧になる。足元から溶けて音になる。
 遅れて行って、聴けたのは数曲。最後、夕陽みたいな照明の中「燃えたい」って繰り返し歌われていた。指先に炎が迫ってきた感覚を覚えている。燃やしたいでも灰になりたいでもなく燃えたいってすごいなあ、と思ったりする。好きな違和感。
 ギターの音も懐かしかった。何だろう。探るには少し時間がかかりそう。


■peridots
 稀にいる歌うために生まれてきたような人のひとりだと思った。前のQUIET ROOMで見た時と印象が違ったのは、フロアの空気のせいだろうか。フラジャイルではないけれど繊細で芯のある声、WWWいっぱいに広がるととても心地良かった。


■People In The Box
 サポートギターとしてハイスイノナサの照井よっちゃんさんが加わり、4人で初ライブ。上手から、横向きのドラム、中央奥にベースの配置までは変わらず。そしてサポートギターを挟み、従来よりやや下手寄りにハンドボーカル。
 ……ハンド! ボーカル!! 装備はマイクと歌声と言葉。
 「Ave Materiaバージョンです」と簡単な紹介がなされたその編成で、本編全て演奏。ボーカリストがギターを手にしたのは3人に戻ったアンコールの一曲のみ。
 ボーカルに専念するのは必然だった。サポートが入ると聞いた時は、ギターが2台になると思い込んでうまく想像できずにいたけれど、始まってすぐに、なるほど! いいね!と思う。CS以降増す一方だったボーカルの力を、ギターを置くことで極大化させていた。時に客ひとりひとりの目の奥まで覗き込み、痕を残すように歌う。「言いたいことが沢山あるんです」そうして生まれたAMのライブでの、必然の変化と映る。

 照井さんのギターはハイスイらしく端整。盛り上がっても冷静な眼差しが残る。とても好きだけど、ピープルに入ると曲によっては引っ込み気味。波多野さんとの違いが面白く、ツアーを経てどうなっていくのか楽しみ。
 気になるMCは軽く「どうも、照井です」くらい。ダイゴマンと化学反応起こして爆発するんじゃないか?と心配していたら杞憂だった。振り切れる方向が違うから大丈夫、だといい。

 「ダンス、ダンス、ダンス」4人で演奏している空気がよく似合う。より解放感があって、体が自由に動く感じ。《森を突き抜けて~》最初から遠慮ないフォルテになっていた。ようやくしっくり来る。
 「物質的胎児」(初演?)音源では間奏のシンバルワークが大好きだけど、今日は黙していて驚き。なぜだ。胎児から「みんな春を売った」の流れ、個人的にテンションの落差半端ない。前者はAMで一番安心する曲、後者はトラウマ級に恐ろしい曲。闇夜のよう。《おかしくなってしまった》ボーカルが強いと一層怖い。しかしベースが格好良い。そして「割礼」(これも初演?)現物が見えなかったけれど、ダイゴマンの右手元でカウベルらしい音が鳴っていた。丁寧で主張を抑えた良いアクセント。
 本編最後「時計回りの人々」は圧巻。イントロ、強い白金の逆光に4人のシルエットが浮かんだ時の、これはやばい!感が最後まで続いた。演奏のディテールを聴く余裕などなく、圧倒されるだけされて終わる。生まれてきて、ピープルを知って、ここまで満たされて、もう充分だなあと思う。さらりと言われた「Ave Materiaツアーでまた会いましょう」が沁みる。

 帰り道、見上げた月は異様なくらいまるく冴えていた。2013年がようやく始まった。

●セットリスト
1. ダンス、ダンス、ダンス 2. 市場 3. 物質的胎児 4. みんな春を売った 5. 割礼 6. 球体 7. 時計回りの人々 EN. ニムロッド

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Maira Gall