June 30, 2015

AN INCIDENT AT A STREET CORNER Vol,26 @ カフェアリエ

 本日の会場は、外壁一面に蔦の這う古民家風の一軒家カフェ。入った1階の左手がキッチン、その上が演者控え室。右手は1階から2階まで吹き抜けになっていて本日はキャパ30人のライブスペースと化している。歌舞伎町と新大久保の狭間でひと息つけるこの空間、磯崎新設計だという。色々と昨今のお洒落カフェとは一線を画している。
 そんな場所で聴いてきた。コーヒー片手にのんびり、かと思いきや小キャパとノーマイクの緊張感も薄ら漂っていた。

■かとうみほ
 オープニングアクトとして演奏。他2人の間に立って連絡役をされた方だそう。
 ウクレレをぽろぽろと爪弾きながら歌う。ハワイアンとかリゾート風ではなく、深夜に隣のひとり暮らしの女の子の部屋から聴こえてくるような、ゆったりと密やかな演奏。盗み聞きみたいですみません、と言いたくなるくらいプライベートだった。やわらかい拍手に包まれて終演。

■山崎怠雅
 長髪に柘榴色のハットを被ったギタリスト、といえば1月に灰野さんの傍らで弾いていたその人だった。ソロの弾き語り、とても良かった。豊かなフレーズに満ちたギターは安心して聴いていられるし、声も詞も好きだった。迷いなく通るクリアな声が、解釈の余地を残した屈折気味の詞を真っ直ぐに導いていく。重力が四方八方に向いている道を歩いているのに、どう進めば良いかは明瞭に示されているような、不思議な感覚。この人にしかできない表現だった。そう思えるのは稀なことで嬉しい。黒髪ストレートの男性ミュージシャン一般への信頼度が更に高まった。

■波多野裕文
 柔らかい雨の日、サイドの髪の毛先が三日月みたいな弧を描いていた。
 この日の会場に馴染むバクダッドカフェの挿入歌に始まり、最近お馴染みのオリジナル曲達に加えてカバー数曲が光る全13曲。七尾さんやPeter Gabrielは原曲知らなかったけれど、とても良かった。前者は曲そのものが素晴らしく、後者は波多野さんの「この曲大好き」感が溢れ返っていて(曲からは反逆の色を強く感じたけれど)楽しかった。繊細な色で何重にも何重にも塗り重ねられたような七尾さんの景色から、マティスみたいな原色で世界を塗り潰される移り変わりも気まぐれなソロの面白さのひとつ。
 ソロオリジナルやピープルのセルフカバーは聴き慣れているものも多かったけれど、いつもと違った響きに耳を澄ませていた。吹き抜けの天井に、この日の夜に、雨に、飾りのない音が溶けていく。ギターを持ち上げるようにして弾いていて、なぜなのかと思っていたら、Tumblrで謎が解けた。《夜をかきわけて》で始まる昔作ったという曲、久しぶりに聴けて嬉しかった。Bird Hotel以前の匂いが確かにして、それが今目の前で息をしていることが、なぜだか堪らなく嬉しい。二度聴いただけなのに古い友人に会ったような気持ちになる。また会えるといい。
 アンコールは、ソロでは久しぶりの《新市街》。百人町によく似合う。いつか笑いながら諦めていたTu tulu tululu...のハミング、がんばって歌いきっていた。和やかに見守って終演。

 外に出ても夜の雨に先程までの音が溶けているような気がして、濡れてもいやな気はしなかった。重たい頭の奥で演奏を反芻しながら、音に包まれたまま家に着いて、余計な思考に邪魔をされないようにそのまま眠った。



01. Calling You (Jevetta Steeleカバー)
02. 《追放された王様》
03. ダンス、ダンス、ダンス
04. 気球
05. 旅行へ
06. Open (Rhyeカバー)
07. 線路沿い花吹雪(七尾旅人カバー)
08. Shock The Monkey (Peter Gabrielカバー)
09. 《夜はやさしい》
10. 風が吹いたら
11. 《夜をかきわけて》
12. ニムロッド

EN. 新市街

January 24, 2015

新春!!三つ巴ライブ2015〜アコースティックの夕べ〜 @ 新宿LOFT

 旧知の3組でリラックスした空間に、歌舞伎町の際どさとロフトのロックンロール感が適度な緊張を漂わせる。その奇妙な均衡が面白い。新春!!というタイトルだけがめでたい。

■成山内(sleepy.ab)
 久しぶり。まだ北海道に住んでいて、今週は東京に来ているらしかった。雪で搭乗が遅れ、搭乗後も除雪のため機内で1時間ほど待ったという話をされていて、申し訳ない気持ちになったりした。
 そんなバックグラウンドの刷り込みのせいだけではないと思うのだけど、彼らの演奏は冬の匂いがした。白と白藍、新雪と淡く晴れた空の色がずっと見えていた。ボーカルが冴えた冬の空気みたいに響く。同じ澄んだ声でも波多野さんのとはまた違う。そこに山内さんがギターやアンデスや名前の解らない楽器で色を重ねていく。曲名で覚えているのは「夢の花」「さかなになって」。最後は「ねむろ」という曲。ずっと冬の色でいっぱいだった。

■小林祐介(THE NOVEMBERS)
 こちらも久しぶり。かつて森の妖精のようだった人は、ゴールデンレトリバーみたいになっていた。ふわふわの金髪で大きな演奏をしていた。スケールの大きな。
 Misstopiaで懐かしくなったり(なんと5年前に発表された曲である)、ノーミスで進んだmeltのサンプリングに上達を見たり。人の親になったのだからそれはもう変わるだろうと思っていた程には変わらず、安定して良かった。それでも数年前のイメージとは少し変わっていた。どこへ向かうのか、今でも気になる人ではある。
 自分の出番について「ラスボスに挟まれているよう」だと言っていた。その笑い方が相変わらず好きだった。

■波多野裕文(People In The Box)
 旧知の2組との共演については「光栄です」とコメント。終始リラックスモードで楽しそう。歌も演奏も気の向くままにできているようで良かった。緊張し過ぎるのでもゆる過ぎるのでもない、今日くらいのテンションが彼の最大値を引き出せるように思う。時間に急かされていたようなのが少し惜しい。
 曲目は9日とほぼ同じ。最近一曲目の定番である《追放された王様》の時点で演奏する歓びが見える。歌いたくて堪らないような、エネルギーを秘めた感じ。長く続くアウトロのスキャットがうつくしかった。二曲目「旅行へ」は昨日できたという新曲。「できるところまでやります。できなかったら……丸坊主にします。アンコールで」と笑いを取りつつ始まった。ぼくは旅行へ出かけた、酷く暑い日だった、お腹は壊さなかった、みたいに短い描写が3拍子に乗って進んでいく小品。まぬけな顔で、まぬけな顔で、と何度も繰り返すサビ。サビ?というか短い描写の行き着く広場的なフレーズ。最後まで演奏しきって「坊主は免れた」と呟きつつ、旅行が好きだけど行くとまぬけな自分を客観視する、という話をしていた。それからまずいラーメン屋に行った話でもきっちりと笑いを取り、「ぼく今日何なんでしょうね」と自分も笑っていた。微熱のようなテンション。
 「砂漠」最後に付け足された詞の歌い方が9日と少し変わっていた。《見渡す限りに拡がる砂漠で》を何度か繰り返し、最後に《手に入れたのさ》で一突き。いいね。
 今日は特にピープル曲率が高く、どれもとても良かった。ツアー後の「風が吹いたら」沁み入る。皆で手拍子するのも良いけれど、ひとりで《みんなここへおいで》と歌う波多野さんを小さなハコで見守るのも良い。バンドよりも詞のひとつひとつが噛み含めるように歌われて、浸透していく感覚。《誰も嘘つきなんかじゃないよ》と《どんな美しいひともじぶんの嘘に気づいていない》のせめぎ合い、ひりひりする。前者が既に勝っているのだけど、続けて聴くと揺り戻される。
 アンコール、こちらもお馴染みになった《蛇口を捻って》。この曲も今までの色々な詞と繋がっている。今日は《あなたは誰にも愛されないから》という嘘をつく自分と言った先の相手と、双方への《ばーか》に聞こえて、それが急に腑に落ちた。しばらくそんな解釈で聴くかもしれない。

 新しい聴き方と、「歌舞伎町、久しぶりに来たらパンチのある街ですね。気を付けて帰ってください」との言葉に送られて地上へ出る。来る時には気付かなかった「I LOVE 歌舞伎町」という大きなピンクのネオンを光らせたビルが目に飛び込んで、歌舞伎町 WOULD LOVE YOU TOOだよ、と思った。

●1. 《追放された王様》 2. 旅行へ 3. 砂漠 4. Calling You (Jevetta Steeleカバー) 5. 風が吹いたら 6. ダンス、ダンス、ダンス 7. ニムロッド EN. 《蛇口を捻って》

May 31, 2014

空から降ってくる vol.7 ~空想する春のマシン~ @ 中野サンプラザ

 夏の気配に満ち満ちた5月最後の日、四度目の中野、ツアーファイナル。「ピープル中野」と書くと某ドラマーと字面が似ていて嬉しい。とかはどうでもいい。
 何度観ても、ああいいバンドだな、と思ってしまう。生命そのもののようにあたたかく、あやうく、奇跡的で、いとおしい。ステージの背景に白い布が巻かれた枝木のようなオブジェがあって、様々な色の照明を受けるそれはそのまま生命が寄り集まる木のようでもあり、本編最後の曲では白骨のようにも見えた。生と死の両方を抱えて鳴らされる音をただただあいしている。それは久しぶりに観ても変わらなくて、一度好きになったいのちからそうそう離れられるものではないなと思った。

 アンコールMCで波多野さん「中野はホームのつもりだけど、ライブハウスを回って積み上げてきたものとはまた別物になってしまう。ファイナルだけど、フレッシュな気持ち」みたいなことを言っていて頷く。今年は最早心構えができていたから、中野は中野として楽しんだ。個人的にはパッケージングされたパフォーマンスを外から眺めている感覚になる。from out of the boxといえば悪くなさそうなのだけど、到達地としてのファイナルとはちょっと違う。
 そしてそれよりも彼らは客に音楽と一体になってほしいのかなと思う。個々のテリトリーに配慮するように静かな見方をするピープルの客に、決して単純ではない曲構成、変拍子の攻勢の中で隙あらば手拍子を促すことが増えている。アートも絵画も小説も観客を作品の内へ取り込もうと散々試みているし、音楽だってそれは当然のことなんだろう。「完璧な庭」は好きなドラムのフレーズが手拍子の煽りで飛んでしまって勿体ないけれど、「金曜日 / 集中治療室」のホイッスル前は好きだ。
 そんなこんなのピープル中野、やはりというべきか、WR含めた新曲のエネルギーが強くなっていた。「潜水」の重たさは聴く毎に増していくし、ツアータイトルにもなった「気球」は今日が一番心を掴まれた。《それはただのながい幼年期みたい》の心地良さすごい。アンコールの「開拓地」もアウトロの盛り上がり含めてご機嫌で良かったし、WRの曲をもっと聴きたかった感は否めない。
 新曲3曲も堂々たるものだった(エンドロールで曲名が判ったのでセトリに)。3曲目のポップさがやっぱり好きだ。前衛の浸み込んだポップス、こんなところに辿り着いたんだな感。曲名「おいでよ」とか本当に音への一体化を誘っているとしか。
 それでも、何より本編最後が凄まじくて、全てはここに集束するんだと思った。「球体」アウトロの轟音の渦から現れる「鍵盤のない、」冒頭のハーモニクスはそれだけで涙腺とか境界線とか世界線とかを決壊させる。あるいは、決壊した後に鳴っているただひとつの音のような気がしてくる。そこにリズム隊が意を決したように入ってきて、ボーカルがゆっくりと立ち上がっていく様がもう。……何だろうかこの曲の密度、凄まじさ。《死を叫ぼう》本当に叫ぶように、高らかに歌い上げていたのが印象的。死を踏みしめながら生に飛び込む音の洪水のような「鍵盤のない、」アウトロ、から鍵盤が(!)加わっての「JFK空港」。《夢は見ない》からの《君はいま次の夢を見ようとしている》。
 キーボードが静かな悲鳴のように鳴る中で、安定した血流みたいなベースと落ち着いた心拍のようなドラムがボーカルというからだを支える。波多野ソロのJFKも大好きだけど、この安寧と、それゆえに際立つやるせなさはバンドならでは。巻き起こる音の渦に塗り潰されそうになりながら紡がれるポエトリーリーディング、どうしようもなく刺さる。《美しいものは巧妙にカモフラージュされている》! いつだって詞の底に切実さが流れている。中でもこの曲は特別に。
 金沢、中野と久しぶりに観て一番変化を感じたのはボーカルだった。サポートギターを入れたAMツアーを経て、着実に安定感が上がっていて驚く。ピープルの唯一の弱さが乗り越えられてしまったら無敵になりそうでおそろしい。楽しみなおそろしさなので、どんどん強くなればいいと思う。JFKの訴求力がFRツアーより格段に大きかったのも、空から降ってくる風景をいとおしいと思えたのも、強くなった証だろう。パフォーマンスの素晴らしさに加えて、進化を続ける彼らへの(ベースもドラムスも勿論!!)敬愛の気持ちも大きくなって、心からの拍手を送った。

 ファイナル恒例のエンドロールには音楽が乗っておらず、「ヨーロッパ」の余韻ばかりがあった。静かな静かな終幕……と思いきや、♪ピンポンパンポ~ンとかいうチャラい音と共に黄色い文字「People In The Boxからの重要なお知らせ」が現れたかと思えば「カメラ、動画の準備をしてください」みたいな指示が出て、客が一斉にカバンを探る事案発生。3、2、1、という映画みたいなカウントダウンに続けてダイゴマンの写真! とかいう小ボケをちょいちょい挟みつつ、新しいアルバムのリリース、同時リリースのシングルの初アニメタイアップが発表された。おめでとう。もっともっと広がって、世界に滲み渡っていけばいいよ。


▲「大吾3歳」の写真を捉える人々

 ダイゴマンのMC「今年のPeople In The Boxには期待していいよ」に、期待はかるく大気圏を突破しているけれどどうしたらいいのかと首を傾げつつ、とにかく彼らのやることなら見守っていればいいと考え直して拍手を送る。
 同じこの日SHIBUYA-AXが営業終了したと聞いて、真っ先に4年前にAXで聞いた波多野さんの「People In The Boxは君たちを裏切らないから」を思い出した。あの時の胸騒ぎは今も本当であり続けている。いつまで続くのか、という不安は最早なくて、ただ本当である今が堪らなく嬉しい。


「そこは、おまえがこれまでになんどもかすかに聞きつけていたあの音楽の出てくるところだ。でもこんどは、おまえもその音楽にくわわる。おまえじしんがひとつの音になるのだよ。」

- ミヒャエル・エンデ『モモ』大島かおり訳より



■セットリスト
01. ストックホルム
02. 時計回りの人々
03. 潜水
04. はじまりの国
05. 市民
06. 金曜日 / 集中治療室
07. 冷血と作法
08. もう大丈夫(新曲)
09. さまよう(新曲)
10. おいでよ(新曲)
11. ブリキの夜明け(キーボードアレンジ)
12. マルタ(キーボードアレンジ)
13. 気球
14. 八月
15. ニムロッド
16. 完璧な庭
17. 球体
18. 鍵盤のない、
19. JFK空港(キーボードアレンジ)

EN1
20. ダンス、ダンス、ダンス
21. 開拓地
22. 旧市街

EN2
23. ヨーロッパ

May 17, 2014

空から降ってくる vol.7 ~空想する春のマシン~ @ 金沢vanvanV4

 1月のワンマン以来久しぶりに、緑鮮やかな初夏の金沢で彼らの音を聴いた。今更少しくらい離れたところで、脳にも骨身にも染み渡った音への思いはそうそう変わるものではなかった。変わったところも変わらないところも全てが好きだと思った。まだまだ彼らを観ていたい。


▲ライブ前、タレルの部屋から

 解りやすい変化は、いくつかの曲で波多野さんがキーボードを担当したこと(またしても時雨との共通点が増えた)。既存曲では「ブリキの夜明け」「マルタ」、水分多めのミドルテンポさによく合っていた。ひとつどうしようもないことを言えば、あのキーボードの音自体に違和感があり続けた。諸々試した上での音なのだろうけれど、もう少しボーカルに寄せた透明感か、逆にメカニックな方向にずらすか、何かを加えればもっとバンドに調和しそうな気がする。
 ダイゴマン「金沢だけ特別に新曲をやります!」福井さん「うそうそ(笑)、他でもやってる。でも他は2曲だけど、金沢では3曲やります」ダイゴマン「いやいや、全会場3曲やってるんですけどね!」みたいなMCに弄ばれつつ、新曲群へ突入。1曲目はキーボードソロで《知っているよ、知っているよ、君は今大丈夫じゃない》みたいな始まり方をしつつ、リズム隊が徐々に加わりサビで《もう大丈夫》が繰り返される。そんな言葉に簡単に乗っかりたくはない天邪鬼さが、ゆるゆるとテンションを上げるボレロのような展開とジャジーなリズムに溶かされていく。好きです、はいはい好きです、となぜか切れ気味に聴いた。いつか素直に楽しめるのか。
 2曲目は何となくFQを思わせる。曲調もありつつ、少年少女が久々に詞に登場したからかもしれない。3曲の中では一番印象が薄い。
 3曲目が一番解りやすくて好きだったかな。アップテンポの明るいサビで波多野さんの《ぼくは幽霊 そばにいてよ》をリズム隊のコーラス《ぼくは幽霊 そばにいたいよ》(と聞こえた)が追い追われる。たまに顔を出す不穏なメロディーが堪らなくピープル。幽霊=GAを思わせる。ピープルの全体は、散りばめられた様々な時間軸の曲のピースから成り立つようになるのかもしれない、と時々思う。
 本編ラストにどうしても触れずにはいられないのだけど、「鍵盤のない、」からキーボードアレンジの「JFK空港」とか、客全員の顎が外れたんじゃないか。死が生に溶け込んで、生が死に昇華する、生々しいループがJFKラストのフレーズに回収される。生も死ものみこんだ救いだけがその場に残り、これまでの曲が走馬灯のように思えた。アンコールの拍手は産道かと。

 夢想はさておき、安定したアンコールにほっとする。好きになる一方の「開拓地」、聴けて嬉しい。ごきげんいかが、と問われる頃には楽しくリズムに乗れていた。ラスト「旧市街」には、またお前か!と思わないではなかったけれど、いざ始まると大好きだった。会場が一番乗っていたのがこの縦横無尽に展開する曲なのはさすがピープル。カオスでポップなメメント・モリ、最高に心地良かった。

■セットリスト
01. ベルリン
02. 完璧な庭
03. 潜水
04. はじまりの国
05. 市民
06. 金曜日 / 集中治療室
07. 冷血と作法
08. 新曲《もう大丈夫》
09. 新曲《少女は街をさまよう》
10. 新曲《ぼくは幽霊》
11. ブリキの夜明け(キーボードアレンジ)
12. マルタ(キーボードアレンジ)
13. 気球
14. 八月
15. ニムロッド
16. ストックホルム
17. 球体
18. 鍵盤のない、
19. JFK空港(キーボードアレンジ)

EN
20. ダンス、ダンス、ダンス
21. 開拓地
22. 旧市街

August 6, 2013

Björk "Biophilia Tokyo" @ 日本科学未来館

 初見にしてとても特別なライブ。キャパ800人でステージを360度囲むから、とにかく近い。目の前2mの距離にビョーク。徹底された転売対策なのか、開場時に精算に使ったクレジットカードを機械に読み取らせてチケット発券。「プレミアムチケットです」と手渡される。ランダムに整理番号が割り振られて、少しロビー開場で待ってから入場。幸運にも1桁の番号を引き当て、最前で観た。多分こんな機会は二度とない。




 ライブの写真は後日サイトで公開されるらしいので楽しみ。衣装は既に上がっているフジロックと同じDNA daisy balloon dress、日本のRie Hosogaiさんによるらしい。足元は暗い銀色でヒール8cmくらいのウェッジソール、海の底みたいなぐんと深い青に銀のラメ入りタイツ、ウィッグは灰色を基調にDNAドレスと同じ色の糸がふわふわ編み込まれていた。衣装と喧嘩しないためか主張を抑えつつのステージメイク、目は黒の縁取り、瞼に青のシャドウ、しっかりめの眉。唇は艶のある淡いピンクのルージュ。肌白い。顔小さい。ヘイゼルの瞳と視線が絡む(という錯覚を起こす)ひと時の至福。

 あまりにも純度の高い空間だった。開演前のアナウンス「写真撮影、録音、録画はお断りします。家に帰って楽しむのではなく、今体験してください」の理由が今ならよく解る。嘘も本当も、魔法も現実も、言葉も言葉にならないことも、みんな形が判らなくなるまで混ざり合ってビョークによって昇華されて、いまだけがあった。ともすれば簡単に剥がれてしまいそうな存在を世界と密に繋ぎ止めるライブ。ライブというか表現。圧倒的な表現だった。存在そのものの。生きてここにあるということの。

 感想を少し。
Thunderbolt、カスタムメイドされたテスラコイルの迫力と不思議! 紫色の稲妻がバチバチッと発生して音階を成す。まさに"how the three come together; nature, music and technology"。
Moon、ハープ(これは録音)に合わせてとととと、と歩くビョーク自身がBiophiliaと一体化、同一化していることを感じる。靴音も音楽の一部。キュートかつ神秘的な歩き方というものを初めて観る。
Crystalline、ドラム(電子ドラム?)で実際に鳴らされるリズムとビョークの歌とコーラス隊の声と振り付け、それらのハーモニーに上がる上がる! 曲終わり「オツカレサァマ!!」と言われて何事かと。誰もが外国人への説明に難儀しているであろう日本独特の挨拶。気に入ったのか何回か言ってた。アリガァト!もどちらも何でもかわいらしいので良い。
Hollow 会場上のモニターに映し出されるMVと生歌の相乗効果ものすごい。入りの"Hollow"のぞわぞわ感がずっと続いた。
Dark Matter 目の前でビョークがiPad使って演奏しながら歌! タッチすると音階が変わってた。慎重にタッチする様がかわいらしい。
・『Medulla』からMouth's Cradle、最後ビョークがステージ中央に進み、コーラス隊に囲まれて見えなくなっていく演出。cradle/shelterの中に包まれていくように。
Virus、Biophiliaの中で一番内面的で、だから親密に感じられて心地良い曲。奇妙で歪な形をしているのに、アウトロのグロッケンの音には幸福以外の何もなかった。
・幸せなままJógaへ。まさか聴けるとは思っていなくて、モニターにMVが映し出されつつ目の前でビョークが"How beautiful to be"歌っていて、頭の中がpuzzled/confusedしまくっている間に終わった。Biophiliaアレンジもとても良かった。
・Biophiliaは既に充分好きだったけど、ライブで聴いたらまた違う角度から好きになった。本編最後、コーラス隊がいなくなりビョークソロで歌ったSolsticeは一番音源とのギャップがあって印象が変わった。なんて強い曲なんだろうと思う。
・アンコール、"I am sorry that I do not speak Japanese"と言っていたので、ARIGATOもOTSUKARESAMAもばっちりですよノープロブレム、と思う。"(テスラコイル見ながら)We'll play with this toy! Because I LOVE it ;) "キュート過ぎて痺れる。子供の遊びにしてはあまりにも壮大ではないか。
・テスラコイルの稲妻が加わったPossibly Maybeのアレンジも良かった!
・"I would like to ask all the people to stand up!"(指定席もあった)で怒涛のNáttúra Declare Independenceで締め。コーラス隊のお姉様方も煽り踊りヘドバンし、上がり過ぎ踊り過ぎ、"Raise your flag!" "Higher! Higher!"の一体感といったらない。最後ビョークに1mの距離で煽られた。"Higher! Higher!"コールの中、客席の間の通路を通って退場する彼女に触れようと群がる人並みに揉まれまくる。そんなこんなで踊り果てて終了。延々と拍手が続く中、モニターが消え、照明が客電に変わり、ゆっくりと終演。

 生涯忘れないライブのひとつになった。Takk Björk、幸せでした。


■セットリスト
Biophilia Intro (Narrated by David Attenborough)
01. Óskasteinar
02. Thunderbolt
03. Moon
04. Crystalline
05. Hollow
06. Dark Matter
07. Hidden Place
08. Mouth's Cradle
09. Immature
10. Virus
11. Jóga
12. Pleasure Is All Mine
13. Mutual Core
14. Cosmogony
15. Solstice

EN.
16. Possibly Maybe
17. Náttúra
18. Declare Independence

March 29, 2013

『Ave Materia』release tour @ 大阪BIG CAT

 7分咲きほどの桜を京都や大阪城で楽しんだり、たこ焼きつついたりグリコさんひやかしたりと、一泊二日の旅でベタな観光客と化す。地元やのに。
 地元で初めて観る好きなバンドのライブは、ほんまにすばらしかった! マイベストNGO劇場編を上回るくらい最高やった。色々な要素があってそう感じたんやけど、何よりも、ピープルの音楽は自分の根幹に絡み付いて、それをダイレクトに揺るがし得るものなんやって再認した。びっくりするわ。ありがとう!!!


▲右については後述

 東京言葉に戻してみる。

 一昨々日その素晴らしさに打ちのめされたダイゴマンを観たい!と思い上手側へ。今ツアー初めてドラムの近くで体験して、AMにまだまだ知らない表情があることを思い知る。今日は本当に楽しかった。前回の盛岡であれだけ落ちたのに。ピープルは聴く時々で受け止め方がすっかり変わってしまう。
 「みんな春を売った」さえ体が揺れるほど。今までのように怖くなかったのはドラムの音がすぐ近くにあったからだろうと思う。華奢な人だけど、放たれる音は寄り掛かれる大樹のように思えることがある。
 「さよならさ」って一緒に唇に乗せてみると、ふっと体が軽くなった。「さようなら、こんにちは」に繋がっているんだと今更思う。多分個人的にはトラウマ的な曲であり続けるけれど、今日初めて目を合わせることができた気がした。これからだ。
 ドラムに話を戻すと、「ストックホルム」こんなに格好良いパターン叩いてたんだ!とか、これも今更。ピープルの曲は何度聴いても新しい発見があって楽しい。

 ずっと楽しくて、本編でほとんど燃え尽きていたのに、アンコールの最後に「汽笛」が来た。照井さんも一緒に、AMを経ての汽笛! 歌詞の一言一句がダイレクトに入ってくる感覚、CSツアーを超えていた。波多野ソロくらい言葉が強かった。AMがあるからCSや過去作のメッセージも強くなったんだと感じる。ピープルの詞はすごく好きだけど、最初から最後まで言葉のひとつひとつに揺らされるなんて体験は初めてだ。こんなにも素晴らしいライブの最後に《欠けたこころにつかまって / わずかな君を取り留めたよ》とか、泣くしかない。
 そんなこんなで、詞に根底をぐらぐら揺らされていて、折角の照井さんとのツインギターにあまり耳が傾かなかった。それでもあの声だけになるパート、4人のコーラスが一層うつくしかったのは覚えている。色々な意味でまた聴きたい。
 何となくやってくれる気がしていたダブルアンコール、曲は「ヨーロッパ」、3人で演奏。汽笛で散々揺らされた後の《君の胸騒ぎが本当になるといいな》しんだ。少し大人びて変質しても、ヨーロッパの強度は変わらない。
 終演直後の自分のツイートが生々しい。120分の魔法だった。少しずつ薄れていくんだろうけれど、消えることはない気がする。傷跡みたいな残り方をしている。

 「気合い入っとるけん!」という波多野さんの宣言で始まったこの日、彼らにとっては昨年12月の胞子拡散祭@梅田のリベンジのようだった(後述)。自分にとっては、FRツアーBIG CAT公演のリベンジだった。震災の混乱に揉まれて中止になったあの日、2011年3月12日のことを思い出したりした。そんな諸々が重なった「ヨーロッパ」のアウトロがとどめになった。しんだり生きたいと思ったりいそがしい。


爆弾の音が聞こえたとき
きみはもうひとりではない

辺りにはもう誰もいないけれど
きみはもうひとりではない

『Ave Materia』の演奏旅行が街にやってくる
きみだけはもう、ひとりではない


- オープニングの詞より



■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 失業クイーン
11. ストックホルム
12. 旧市街
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. 市民
02. 完璧な庭
03. 汽笛

EN-2.
ヨーロッパ


■MC
・序
だ「健太がスネアを練習しました!」
ふ(ドラムスティック掲げる)
(会場拍手!)
だ「この日のためと言っても過言ではございません!」
ふ「過言ではないですね~」
だ「『序』のため、いや大阪のためと言っても! 過言ではございません!」
ふ「過言ではないですね~!」
(客爆笑)
ふ「だから、皆さんもウォウウォウ言ってくださいね」
は「いけるかー!って(笑)」※9mm定番の煽り
だ「何か聞いたことあるなあ(笑)」
は「いけるのか大阪ー!」
客「「…………おおー!」」
は「この空気ね、嫌いじゃない(笑)」

・グッズ紹介
だ「さあ、このエコバッグに何を入れていますか?!」
は「あのー、名前が出てこない、眼鏡かけた人……」
だ「?」
は「太鼓持った、」
だ「俺ですかぁ?!」
(会場爆笑)
客「くいだおれ太郎?」
は「ああ、そう、くいだおれ!」
だ「ああー! 俺かと思いましたね! 眼鏡で太鼓持って。俺普段眼鏡だから(笑)」
(会場笑)
だ「(客に)あれくいだおれ太郎っていうの?」
(客頷く)
だ「ふうん。くいだおれ太郎か山口大吾か! みたいなね!」

・胞子拡散祭
ふ「大阪は、前回のライブが、ね。ちょっと」
は「そうだね……あの伝説のライブ(笑)。あの時来てた人、いますか?」
(フロア、7割ほど手が挙がる)
ふ&だ「おおー」
は「あ、良かったー。嬉しい。本当に嬉しいです、ありがとうございます!」
(客拍手)
は「来てなかった人のために説明すると、俺の声が出なかったんだよね。風邪で。……アノコハッ」※ニムロッド冒頭、ひそひそ声で再現
ふ「僕のコーラスがメインボーカルみたいな(笑)」
は「[対バンの]THE NOVEMBERSの小林くんがアンコールで『はじまりの国』を歌ってくれてね」
だ「あのライブは忘れられないね」
は「ほんとに。多分俺、大阪来る度に思い出すと思う(笑)」

March 26, 2013

J-WAVE「THE KINGS PLACE」LIVE vol.2 @ 新木場STUDIO COAST

 KPナビゲーターが集まってのライブ第二弾。COAST好きだ。

■androp
 初見。あくまでも個人的に、プラスチックみたいだと思った。予め用意された台本に則って進行する、額縁の向こうの劇のような。フロアで跳ねている人達にはきっと全然違う風に受け取られているんだろう。という意味で新鮮だった。


■People In The Box
 照井さんを加えたAM編成。4人では今までで一番大きなハコ? とはいえ、配置もメンバー間の距離も変わりなし。違ったのは、客層と、照明がより映えていたことと、ドラムセットが(多分転換の都合で)高さ50cmくらいの台に乗せられていたこと。
 何よりも、山口大吾のうつくしさ! これに尽きた。散々書いているし、ライブの度に思っているけれど、改めてはっとした。生命そのもの。しなやかさで躍動感溢れるドラミングに両性併せ持つ音。比類なきアーティスト。ピープル以外にも、もっと色々な人とシチュエーションで観てみたい。
 客層がいかにも邦楽ロック的で新鮮。一曲目「旧市街」のイントロから最前辺りの一部でいくつも腕が上がっていて、この人達はどうなるのかと眺めていたら、時々棒立ちになりつつも基本的にサビでは腕を上げて乗り続けていた。バンドへの親愛の意思表示なんだろうと思うといとおしい。《空をかえせ》デモのようだった。
 攻めの6曲。「ニムロッド」締めで波多野さんがドラムの台に乗って、一拍ブレイクの後にダイゴマンと音を放つ、その光景が本当にきれいだった。締め方にバリエーションがあると良いなといつも思うけれど、時々こういう瞬間が見られるのは嬉しい。
 ダイゴマンMC、客のノリの良さがうまく作用して、一際輝いていた。楽しかった!

●1. 旧市街 2. 球体 3. ダンス、ダンス、ダンス 4. 市民 5. 完璧な庭 6. ニムロッド


■クリープハイプ
 やっぱりボーカルが素晴らしい。生まれたばかりのみどり児のような、人に訴えて惹き寄せる声。苦しみにも悲しみにも喜びにも嘘がなくて、直球でぐさぐさ刺さる。かと思えば演じ方も巧い。演じる=嘘ではなく、本当を伝えるための演技なのだろうとこの人については思う。何かの曲の最後、音が徐々にディミニュエンドしていって遂に途切れた時、ちいさく「ありがと」と呟いたのには痺れた。やるな。
 バンドの演奏がそのボーカルから剥がれていないのはきっとすごいことなんだろう。巻き上がる風に自ら乗って音が舞い踊るイメージ。風が進み続けるのを後押ししたりもするし、時にボーカルを包む緩衝材のようでもある。
 結構好きなんだけど、どう聴くべきかまだ解っていない。ダイバー多いから前方は厳しいし、ワンマンもためらわれる。またいつかの対バンを楽しみにしていようかな。


■Nothing's Carved In Stone
 3度目のナッシングス、今日が一番楽しかった! こうして数組の対バンで聴くと彼らの音の重厚さが際立つ。ボーカルのMCが正直合わないと思っていたけど、今日は少しやさしく感じたり。耳馴染みのある曲が少しずつ増えてきたり。
 Everything's carved in our memory! と言い切るにはあまりにも記憶力が頼りないけれど、そう思いたいくらい楽しいライブだった。また、きっと。

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Maira Gall