May 31, 2014

空から降ってくる vol.7 ~空想する春のマシン~ @ 中野サンプラザ

 夏の気配に満ち満ちた5月最後の日、四度目の中野、ツアーファイナル。「ピープル中野」と書くと某ドラマーと字面が似ていて嬉しい。とかはどうでもいい。
 何度観ても、ああいいバンドだな、と思ってしまう。生命そのもののようにあたたかく、あやうく、奇跡的で、いとおしい。ステージの背景に白い布が巻かれた枝木のようなオブジェがあって、様々な色の照明を受けるそれはそのまま生命が寄り集まる木のようでもあり、本編最後の曲では白骨のようにも見えた。生と死の両方を抱えて鳴らされる音をただただあいしている。それは久しぶりに観ても変わらなくて、一度好きになったいのちからそうそう離れられるものではないなと思った。

 アンコールMCで波多野さん「中野はホームのつもりだけど、ライブハウスを回って積み上げてきたものとはまた別物になってしまう。ファイナルだけど、フレッシュな気持ち」みたいなことを言っていて頷く。今年は最早心構えができていたから、中野は中野として楽しんだ。個人的にはパッケージングされたパフォーマンスを外から眺めている感覚になる。from out of the boxといえば悪くなさそうなのだけど、到達地としてのファイナルとはちょっと違う。
 そしてそれよりも彼らは客に音楽と一体になってほしいのかなと思う。個々のテリトリーに配慮するように静かな見方をするピープルの客に、決して単純ではない曲構成、変拍子の攻勢の中で隙あらば手拍子を促すことが増えている。アートも絵画も小説も観客を作品の内へ取り込もうと散々試みているし、音楽だってそれは当然のことなんだろう。「完璧な庭」は好きなドラムのフレーズが手拍子の煽りで飛んでしまって勿体ないけれど、「金曜日 / 集中治療室」のホイッスル前は好きだ。
 そんなこんなのピープル中野、やはりというべきか、WR含めた新曲のエネルギーが強くなっていた。「潜水」の重たさは聴く毎に増していくし、ツアータイトルにもなった「気球」は今日が一番心を掴まれた。《それはただのながい幼年期みたい》の心地良さすごい。アンコールの「開拓地」もアウトロの盛り上がり含めてご機嫌で良かったし、WRの曲をもっと聴きたかった感は否めない。
 新曲3曲も堂々たるものだった(エンドロールで曲名が判ったのでセトリに)。3曲目のポップさがやっぱり好きだ。前衛の浸み込んだポップス、こんなところに辿り着いたんだな感。曲名「おいでよ」とか本当に音への一体化を誘っているとしか。
 それでも、何より本編最後が凄まじくて、全てはここに集束するんだと思った。「球体」アウトロの轟音の渦から現れる「鍵盤のない、」冒頭のハーモニクスはそれだけで涙腺とか境界線とか世界線とかを決壊させる。あるいは、決壊した後に鳴っているただひとつの音のような気がしてくる。そこにリズム隊が意を決したように入ってきて、ボーカルがゆっくりと立ち上がっていく様がもう。……何だろうかこの曲の密度、凄まじさ。《死を叫ぼう》本当に叫ぶように、高らかに歌い上げていたのが印象的。死を踏みしめながら生に飛び込む音の洪水のような「鍵盤のない、」アウトロ、から鍵盤が(!)加わっての「JFK空港」。《夢は見ない》からの《君はいま次の夢を見ようとしている》。
 キーボードが静かな悲鳴のように鳴る中で、安定した血流みたいなベースと落ち着いた心拍のようなドラムがボーカルというからだを支える。波多野ソロのJFKも大好きだけど、この安寧と、それゆえに際立つやるせなさはバンドならでは。巻き起こる音の渦に塗り潰されそうになりながら紡がれるポエトリーリーディング、どうしようもなく刺さる。《美しいものは巧妙にカモフラージュされている》! いつだって詞の底に切実さが流れている。中でもこの曲は特別に。
 金沢、中野と久しぶりに観て一番変化を感じたのはボーカルだった。サポートギターを入れたAMツアーを経て、着実に安定感が上がっていて驚く。ピープルの唯一の弱さが乗り越えられてしまったら無敵になりそうでおそろしい。楽しみなおそろしさなので、どんどん強くなればいいと思う。JFKの訴求力がFRツアーより格段に大きかったのも、空から降ってくる風景をいとおしいと思えたのも、強くなった証だろう。パフォーマンスの素晴らしさに加えて、進化を続ける彼らへの(ベースもドラムスも勿論!!)敬愛の気持ちも大きくなって、心からの拍手を送った。

 ファイナル恒例のエンドロールには音楽が乗っておらず、「ヨーロッパ」の余韻ばかりがあった。静かな静かな終幕……と思いきや、♪ピンポンパンポ~ンとかいうチャラい音と共に黄色い文字「People In The Boxからの重要なお知らせ」が現れたかと思えば「カメラ、動画の準備をしてください」みたいな指示が出て、客が一斉にカバンを探る事案発生。3、2、1、という映画みたいなカウントダウンに続けてダイゴマンの写真! とかいう小ボケをちょいちょい挟みつつ、新しいアルバムのリリース、同時リリースのシングルの初アニメタイアップが発表された。おめでとう。もっともっと広がって、世界に滲み渡っていけばいいよ。


▲「大吾3歳」の写真を捉える人々

 ダイゴマンのMC「今年のPeople In The Boxには期待していいよ」に、期待はかるく大気圏を突破しているけれどどうしたらいいのかと首を傾げつつ、とにかく彼らのやることなら見守っていればいいと考え直して拍手を送る。
 同じこの日SHIBUYA-AXが営業終了したと聞いて、真っ先に4年前にAXで聞いた波多野さんの「People In The Boxは君たちを裏切らないから」を思い出した。あの時の胸騒ぎは今も本当であり続けている。いつまで続くのか、という不安は最早なくて、ただ本当である今が堪らなく嬉しい。


「そこは、おまえがこれまでになんどもかすかに聞きつけていたあの音楽の出てくるところだ。でもこんどは、おまえもその音楽にくわわる。おまえじしんがひとつの音になるのだよ。」

- ミヒャエル・エンデ『モモ』大島かおり訳より



■セットリスト
01. ストックホルム
02. 時計回りの人々
03. 潜水
04. はじまりの国
05. 市民
06. 金曜日 / 集中治療室
07. 冷血と作法
08. もう大丈夫(新曲)
09. さまよう(新曲)
10. おいでよ(新曲)
11. ブリキの夜明け(キーボードアレンジ)
12. マルタ(キーボードアレンジ)
13. 気球
14. 八月
15. ニムロッド
16. 完璧な庭
17. 球体
18. 鍵盤のない、
19. JFK空港(キーボードアレンジ)

EN1
20. ダンス、ダンス、ダンス
21. 開拓地
22. 旧市街

EN2
23. ヨーロッパ

May 17, 2014

空から降ってくる vol.7 ~空想する春のマシン~ @ 金沢vanvanV4

 1月のワンマン以来久しぶりに、緑鮮やかな初夏の金沢で彼らの音を聴いた。今更少しくらい離れたところで、脳にも骨身にも染み渡った音への思いはそうそう変わるものではなかった。変わったところも変わらないところも全てが好きだと思った。まだまだ彼らを観ていたい。


▲ライブ前、タレルの部屋から

 解りやすい変化は、いくつかの曲で波多野さんがキーボードを担当したこと(またしても時雨との共通点が増えた)。既存曲では「ブリキの夜明け」「マルタ」、水分多めのミドルテンポさによく合っていた。ひとつどうしようもないことを言えば、あのキーボードの音自体に違和感があり続けた。諸々試した上での音なのだろうけれど、もう少しボーカルに寄せた透明感か、逆にメカニックな方向にずらすか、何かを加えればもっとバンドに調和しそうな気がする。
 ダイゴマン「金沢だけ特別に新曲をやります!」福井さん「うそうそ(笑)、他でもやってる。でも他は2曲だけど、金沢では3曲やります」ダイゴマン「いやいや、全会場3曲やってるんですけどね!」みたいなMCに弄ばれつつ、新曲群へ突入。1曲目はキーボードソロで《知っているよ、知っているよ、君は今大丈夫じゃない》みたいな始まり方をしつつ、リズム隊が徐々に加わりサビで《もう大丈夫》が繰り返される。そんな言葉に簡単に乗っかりたくはない天邪鬼さが、ゆるゆるとテンションを上げるボレロのような展開とジャジーなリズムに溶かされていく。好きです、はいはい好きです、となぜか切れ気味に聴いた。いつか素直に楽しめるのか。
 2曲目は何となくFQを思わせる。曲調もありつつ、少年少女が久々に詞に登場したからかもしれない。3曲の中では一番印象が薄い。
 3曲目が一番解りやすくて好きだったかな。アップテンポの明るいサビで波多野さんの《ぼくは幽霊 そばにいてよ》をリズム隊のコーラス《ぼくは幽霊 そばにいたいよ》(と聞こえた)が追い追われる。たまに顔を出す不穏なメロディーが堪らなくピープル。幽霊=GAを思わせる。ピープルの全体は、散りばめられた様々な時間軸の曲のピースから成り立つようになるのかもしれない、と時々思う。
 本編ラストにどうしても触れずにはいられないのだけど、「鍵盤のない、」からキーボードアレンジの「JFK空港」とか、客全員の顎が外れたんじゃないか。死が生に溶け込んで、生が死に昇華する、生々しいループがJFKラストのフレーズに回収される。生も死ものみこんだ救いだけがその場に残り、これまでの曲が走馬灯のように思えた。アンコールの拍手は産道かと。

 夢想はさておき、安定したアンコールにほっとする。好きになる一方の「開拓地」、聴けて嬉しい。ごきげんいかが、と問われる頃には楽しくリズムに乗れていた。ラスト「旧市街」には、またお前か!と思わないではなかったけれど、いざ始まると大好きだった。会場が一番乗っていたのがこの縦横無尽に展開する曲なのはさすがピープル。カオスでポップなメメント・モリ、最高に心地良かった。

■セットリスト
01. ベルリン
02. 完璧な庭
03. 潜水
04. はじまりの国
05. 市民
06. 金曜日 / 集中治療室
07. 冷血と作法
08. 新曲《もう大丈夫》
09. 新曲《少女は街をさまよう》
10. 新曲《ぼくは幽霊》
11. ブリキの夜明け(キーボードアレンジ)
12. マルタ(キーボードアレンジ)
13. 気球
14. 八月
15. ニムロッド
16. ストックホルム
17. 球体
18. 鍵盤のない、
19. JFK空港(キーボードアレンジ)

EN
20. ダンス、ダンス、ダンス
21. 開拓地
22. 旧市街

© nmnmdr blog.
Maira Gall