March 14, 2013

『Ave Materia』release tour @ 金沢AZ

 金沢、変わらずとても居心地の良い街だった。「金沢に来ると、戻ってきたような気持ちになります。ただいま」との波多野MCに、訪問2度目ながら共感を覚える。そのせいなのか、何なのか、和やかなライブだった。


▲AZボトル!(剥がした)

 4回聞いてもポエトリーリーディングの3番目と6番目の文が聞き取れず、もどかしい。波に消されていく砂浜の文字のよう。波に負けずくっきりと記憶に残るあの結句の後、いつものSE("And I'm Singing" by Jim O'Rourke)に繋がっていくの好きだ。何度体験しても、四方八方から色々な形の時計や音に囲まれる立体感堪らない。
 セットリスト、1~9曲目と13~16曲目がほぼ固定になったのかも。間の3曲とアンコールがシャッフル対象。「火曜日 / 空室」のアウトロ、轟音の中から立ち上がる「ストックホルム」が久々に聴けて嬉しい。こういう繋ぎもっと聞いてみたい。

 3曲目が終わった後、最初のMC。「『Ave Materia』というアルバムは……すごい名盤なんだよねー。ほんとこんな名盤ですみません(笑)」波多野さんが楽しそうに語り始める。「どうして名盤かっていうと、これは各地で何でだろう?ってMCしてて気付いたんですけど、すごく踊れるんですよ。踊るっていうのは、今皆さんの心臓がどくんどくんいってるでしょう? あー、この話やめとこうかな? ……皆さんの心臓がどくどく動いてる、それが、踊りです」CSツアーファイナルに通じるダンス話。こういう話が聞けるのはとても嬉しい。
 21世紀美術館で観たばかりのラファエル・ロサノ=ヘメル「パルス・ルーム」と結び付く。心拍が電球の明滅に変換されて、約300個がそれぞれのリズムで瞬く作品。明滅そのものも、壁に映るシルエットも、しゃらしゃら鳴っている音もうつくしく、不思議と居心地の良い部屋。金沢でこのMC聞けて良かった。ありがとう。

 個人的な鬼門「みんな春を売った」さえ、少し優しかった。最後の《いつか君も おとなになるよ》(余談だけどここだけ「君」が漢字なのは意図的なんだろうか)を歌う波多野さんがしゃがんで、それだけでフロアと距離が縮まる。客に言葉を突き刺すような前半の歌い方から変わって、舞台上手、遠くを見ながら歌うような姿も優しく感じた。
 「ブリキの夜明け」ではアンプに乗って歌い始めて驚く。高い。海の果てまで、空の彼方まで、どこでもないところまで、届くといい。《警笛がひとつ鳴り渡る》照井さんの警笛ギターの主張が強くなっていた。いいね。
 「八月」最後の繰り返しの何度目かで、テンポ急上昇。勿論仕掛け人はフレーズを先導するダイゴマンである。「シャン! シャン! シャン!」と速く鳴らされるシンバルを聞いた他のメンバーが、一斉に楽器構え直して姿勢正していて笑う。終わった後、波多野さんが「速え(笑)」と呟く。楽しかった!

 「序」冒頭の素敵なアレンジ、リズム隊がようやく見渡せた。ダイゴマン先導でワンフレーズ叩いた後、ドラムスティックでびしっと指された福井さんのスネア。昨夏劇場編のタンバリンを思い出す。器用で柔軟な人。ダイゴマンと福井さんのスネアダイアローグが何度か続く。びしっと決めて一拍ブレイクを挟み、波多野さんのボーカルとタンバリン、照井さんと客のボーカルと手拍子が加わる。
 盛り上がりが頂点に達したところで「金曜日 / 集中治療室」になだれ込むのいいね。照井ギターが加わって音の渦が更に大きくなっている。踊れ踊れと音が煽る。楽しく聴いていたら、間奏の途中、いつもホイッスルが鳴るところで不意に演奏が途切れた。

 ……
 ♪ パフ!(バラエティ番組のラッパの音)
 客「!?」
 ダ「この続き、いつやるのか……今でしょ!!!」
 客「!!!!!」
 ♪ Aは花を散らーしてー♪

 びっくりした! 最近流行ってるCMらしい。めちゃくちゃな集中治療室では何だって起きる。
 「ニムロッド」から「さようなら、こんにちは」へ繋いで、本編おしまい。"Ave Materia"の意味を、彩りを、何度も考える。
 アンコール、攻めの三曲もキレキレで良かった。「完璧な庭」何度聴いてもどこか新しい。今日は演奏の最後、一拍溜めてジャーンジャカジャカジャカ……ってなるところの溜めがぴしっと決まり、一瞬の残響が深い空洞に響いているようでぞわりとした。1秒にもみたない瞬間が忘れられないこともある。

 3週間ぶりくらいに観たピープルは、照井さんがすっかり馴染んでいた。MC含め(後述)。着実な変化の跡を辿ることができて面白い。
 CS以降のピープルを観ると、生きることは美しいのだと思う。AMが出てからその感覚が一層強くなった。雨も血液も夜の闇も、鳥も空も人の足跡も皆ひっくるめた美しさ。なので混乱する。どうしてそんなことが可能なんだろう。

 3月半ばの金沢は、もう積もってはいないけれど、時折雪のかけらがちらちら舞っていた。冬にさよならを告げて東京へ戻る。夏でもあまり晴れる日は多くないのだと聞いた。それでも、金沢にはまたきっと来たい。


■セットリスト
01. 時計回りの人々
02. 市場
03. 球体
04. 割礼
05. ダンス、ダンス、ダンス
06. みんな春を売った
07. 物質的胎児
08. ブリキの夜明け
09. 八月
10. 火曜日 / 空室
11. ストックホルム
12. ペーパートリップ
13. 序
14. 金曜日 / 集中治療室
15. ニムロッド
16. さようなら、こんにちは

EN.
01. 市民
02. 完璧な庭
03. 旧市街


■MC
・アンコール
は「アンコール……ありがとうございます」
客(拍手)
だ「あれ? 今日はないの」
は「……アンコールワット、ありがとうございます」
客(笑)
は「忘れてください。記憶を遠くの、カンボジアの遺跡に埋めてください(笑)」

・SANAA
は「どやった? 21世紀美術館」
て「素晴らしかったです! あんな場所が近くにある皆さんが羨ましいです」
だ「よっちゃん、建築とか好きなんやろ?」
て「そうだね。一番好きなSANAAって建築家が設計してて。本当に素晴らしい」
だ「俺こないだSANAAに会ったよ!」
て「ははははは! 会ったんだ?」
は「俺もよく会うよ。CD貸したり」
て「CD(笑)」
ふ「何のCD? B'zやろ(笑)」

・スネア
だ「すごいねさっき、こういうの(だらららら……とロール?実演)やってたね!」
ふ「うん」
は「それ結構難しいよね」
だ「難しいかなあ?」
 (だらららら! だだ! だらららららら!とさすがのスネア捌き)
 「ま、こんなもんですけどね!」
客(拍手)
ふ「折角褒めてくれたのに、だいなし(笑)」

・金沢
は「金沢マテーリア!」
だ「言いたいだけやろ!(笑)」

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Maira Gall