渋谷駅構内を全力疾走して電車を乗り換え、下北へ。
440(four forty)は細長い造りのカフェバー。グラスの氷が溶ける音、煙草の匂い、まあるい水槽みたいな照明なんかに囲まれて、ゆったり過ごせる。キャパ100弱でも後方だと舞台は見づらいけれど、モニターに映像を出してくれる。
三組目の途中で飛び込んだ。寒さも緩んだ晩冬の夜。
■FLOWER FLOWER
女性ソロでギター弾き語り。下北っぽいカジュアルな金髪ショートの可愛い人。
数曲でも聴けて幸運だった。透明感に僅かなハスキーさの混ざった声を聴いていると、ひとつの円が浮かぶ。感情も主張も願いも皆、その円の内に収まっている。不思議と小さくまとまった物足りなさはなく、ただ円がきれいだし心地良い。
期待の新人さんかなあと調べたら"Good-bye days"の人みたいでびっくり、納得。とうにメジャーだった。外見も歌も随分印象が違って、今日とても惹かれた。次の人も「誰なのか全然知らなかったんだけど、すごくいいよね。俺結構……ガチで好きです」なんて言っていた。こんなキャパはもうないかもしれないけど、また会えるといい。
■波多野裕文(People In The Box)
男性ソロでギター弾き語り。華奢なカーディガン男子といえばありがちだけど、くるんとおだんごに結わえた髪と、シンプルなシリンダーハットが特徴的。
……今更ながら描写。癖のないきれいな黒髪がいつも羨ましい。
1. 中国に行ってみたい
2. ドレスリハーサルの途中(街路樹が増えていく)
3. 8つの卵
4. 君が人を殺した
5. タナトス3号(仮)
6. あなたは誰にも愛されないから
#1最早定番のアカペラ、と思いきや、途中からiPhoneのボイスメモ?投入。《中国に行ってみたい》を録って、自らも歌いつつ再生して、リアルな声と録音された声のポリフォニーを織り上げる。詞が珍しくモノフォニックなところ、声が多重化されることで世界の複数性に立ち戻る。幾つもの中国が生まれる場の居心地の良いこと。
基本ポリフォニックな詞の中でも、特に#6はうつくしいオーケストレーション。蛇口から流れる水と泡と、それらが川になって海と出会う、客観描写のクレッシェンドがあればこそ、不意に人が現れて歌い掛ける《あなたは誰にも愛されないから》のインパクトが強くなる。#4やピープルでもこのパターンはあって、意識的なのか判らないけれど巧い。《5月の空は海の色》本当に素敵なアクセント。
慣れると分析し始める奇癖がある。まとめるなら、好きです。ありがとう。
いつもより客層が多様で、MCで触れられていたように、聴き方の差異が面白かった。眠ってる?と思いきや曲が終わると熱い拍手を送る人とか、ひたすら首を捻って連れに「わからん」アピールする人とか(#6は集中してた)、微動だにせず見つめる人とか。受容もポリフォニック。対立せず共生する。だから居心地が良い。
自分の受容もいつも違う。今日は反抗期(笑)だったのか、何とか言葉に侵入されないようガードを固めて、守りきったと思ってハコを出た。けれど街のざわめきのなかひとりになったら、あの言葉や音や場のやさしさが、逆にガードになってくれた。どうしたって作用する。諦めて、安心する。
#3が好きだった。《流れて 伝わり 悼まれながら 溶けていった》静かでやさしい眼差し。#4《誤って》がなくなっていた。誤らなくても? 久々の#5冒頭はやっぱり《目を凝らすと》のよう。BPM爆上げはなく、ゆったり締め。
#6《たったふたつでおなかを満たして シンプルなものさ》響く。iPhoneのアラームが鳴って時間切れ。アンコールがないことは最初に告げられていたのに、演者が舞台から下りても皆なかなか席を立たなかったのが印象深い。集団で夢の終わりに気付いていないみたいだった。
わたしたちの現実の人生は、四分の三以上も、想像と虚構から成り立っている。善や悪と本当に接触するなどということは、稀れにしかない。
- シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』より
3/4と1/4の境界に触れる歌。また、いつか。
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